第20話 竹槍無双




 まず最初の感想と言えば、煩いの一言だ。イラっとした。



「なんのことですかあ? 自分は、敵を殲滅しただけですよー!! 大手柄じゃないですか」


「最初の爆発は何だ!? アレでこちらも少なくない損傷を負ったのだぞっ!」


「申し訳ありません。ちょっと予想よりそちらの精霊騎が脆かったようで」


「侮辱するかあ!!」



 煽るぞ、どんどん煽ってやる。煽り倒してやる。



『落としどころは考えていますか?』


「うーん、何となく流れで。最後にどうするかは、大体決めているからさ」


『……まあ、お好きにどうぞ』



「それにこれはなんだ? この崖は! 追撃が出来ないではないか! わが軍の行動を阻むとはどういう了見か!!」


「了見も何も、敵の騎体は全て、ひとつ残らず自分が倒しました。それで、敵の騎士は全て見逃しました。敵味方関わらず、命は大切ですから」


「捕虜にすれば良いではないか!」


「えー、自分が打倒した騎士たちを自分の判断で逃がしたんですよ。それを、父上たちが捕虜にして、まさか身代金交渉、とかしませんよね? 騎士の誇りとかありますよね?」


「……国に、陛下にお任せするだけの事だ。貴様はそれを邪魔している。すなわち、国家に対して害しているということだ」



 ほう。じゃあ、もうちょい反逆、いや、邪魔してやろうか。


 ウィルバーンが軽く浮き上がり、渓谷を越え、そしてフィルタルト軍の目の前に降り立った。



「さあ、国に害を与えた存在が目の前ですよ。父上が指揮官ですよね? 国家の反逆者、それもハイバーン侯爵家の出。これはもう、何とかしないとマズいんじゃないですか?」



 ここで、ポーズを決める。心持ち両脚を広げ、持っていた刀を大地に突き刺す。柄に両手を載せて、フィルタルトの軍勢を睥睨してみせた。背中に効果音を書き込めないのが残念なくらいだ。


『出来ますよ?』


「……やめとこう」



「……かかれ。少々傷をつけても、いや、殺しても構わん。アレを打倒せ! 全軍突撃!!」


「おおう、思い切りましたね。さっきのは見えていましたか?」


「知るかあ! 小細工など通用させん。フィルタルトの近接戦、思い知らせてやるわ!」



 フィルタルトの精霊騎が精霊砲を手放し、全騎が長槍を手にした。フィルタルトの共通装備だな。これを突き出したままの密集陣形で突撃をかけてくるのが、常套手段というわけだ。


『敵、でいいですね。敵騎体数492』


「うん、分かってる。王国の第3師団、通称は『ハイバーン』。まあ、そういうことさ」


『対応指示を』


「さっきは、全部ティアに頼ったからさ。今度は俺がやるよ。いや、俺と、ティアとウィルバーンでやろう」


『では、近接戦闘に付き合うということですね。武装はどうしましょう』


「槍で。長さは15メートルくらいで、折れないでしなって、穂先の鋭い感じでお願い」


『了解しました。形成完了』


 あっというまに手元には無骨で黒い槍が出現していた。


「多分、どんどん使い捨てでいくんで、大量生産の準備もよろしく!」


『では銘は「竹槍」ということにします』


「そんなに竹が好きなの? それでいいよ、もう」


 ティアの命名能力にちょっと疑問が出たくらいで、後は問題なしだ。さて、やるか。



 ◇◇◇



「そうりゃああああ!」


 ウィルバーンが槍を片手に大きく振りかぶり、投擲する。精霊騎には絶対に不可能な速度でもって敵に到達したソレは、相手の精霊核を正確に貫き、騎体を停止させた。


「まずは1騎撃墜!!」


『次槍装填。完了しています』


 ティアが言うように、ウィルバーンの手には次の槍がすでに形成されていた。


「突っ込むぞ!!」


『了解しました。援護をします』


 ティアの声と同時に、敵前衛の一角が崩れ落ちた。背中から下腹部にかけて、槍が出現している。つまりは。


『8騎撃墜』


「おいおい。ずるいぞ」


『援護です。ちゃんと「竹槍」で攻撃していますよ。突撃どうぞ』


「おうよ!」



 ウィルバーンの突撃は、当たり前に精霊騎の対応速度を上回る。槍衾を作って密集突撃をかけて来てくれているのが、むしろ話が速い。


 低い機体身長を存分に活かし、槍を潜り抜け、次々と精霊核を破壊していく。すっごい爽快だ。


 中央は俺が、外周をティアが崩していく。


「いま何騎?」


『累計152騎です』


「まだ半分もいかないかあ」


『倒すだけなら3秒ですが、そうではないのでしょう?』


「ああ、今の内に、俺とウィルバーンとティアの連携、同期? 要は繋がりをしっかりしておきたいんだよ」


『なるほど、同意します。今後を見据えてですね。189騎』


「そういうことだ」



 そう。精霊騎でもウィルバーンにしても、思考制御型ロボットだ。どれだけ同期できるか、一体になれるか、それが強さにつながる。現に今、俺は明らかに強くなっていっている。ウィルバーンの底知れないポテンシャルを俺が使いこなし始めているって感じだ。まだまだ、ごく一部だろうけど。



『275騎』


「なんだ? なんなのだ? その精霊騎はなんだ? アルファンド、何をしているのか分かっているのか!?」


「分かっていますよ」


「分かっているなら止めろおぉ!!」


「お断りします。これは……」


『359騎』



「八つ当たり、ですから」



 ◇◇◇



『撃墜数、490騎』


「いやあ、これが正式に認められたら、エースどころの話じゃないな」


 辺りには、黒い槍が突き刺さったまま地面に突っ伏す精霊騎が沢山だ。ピクリとも動かないし、黒い槍が墓標みたいで、ちょっと怖い。やったのは俺とティアなわけだけど。


 んでだ。




「さて、父上、兄上。ここからどうしますか?」




 呆然として、突っ立ったままの2騎に俺は問うた。



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