第19話 次の相手がやってきた




 どずぅぅん……。



 バンドランドが崩れ落ちた。ぎぎぎと、歪な音を立ててハッチがこじ開けられる。恐らく強化術で無理やり開けたのだろう。出てきたのは当然バンドラム伯、ジャスタスターク。堂々とした立ち姿からは敗北の悔しさを感じさせない。むしろ、すがすがしさが伝わってくる。やっぱりこの男は嫌いになれない。


「私の負けだ。確かに貴様の精霊騎、素晴らしい性能だ。だが、それと共に、見事な技であった。アルファンドであったか。貴様の技、感服した!」


「……ありが、とう、ございます」



 他でもない、間違いなく相手は、敵の親玉だ。そんな相手が俺の努力を理解してくれた。まったく、こういうのは困るんだよ。



「では、退避してください。ここからは、敵国云々じゃなく、俺の我儘な戦いですから」


「そうか。だが、もう見えて来ているぞ」


 そう。モニタには、フィルタルトの軍勢が迫ってきているのが捉えられている。


「大丈夫ですよ。そちらが退避する時間くらい、ティアが簡単に稼いでくれます」


「ティア? ああ、その騎体の精霊か」


「ちょと違いますけど。まあ。そんな感じです」



 だから早いとこ逃げてもらいたいのだけど。



「ふむ、部隊の多くは退避したようだな。では是非願いたい。貴様がどのようにフィルタルトを止めるのかを」


「……無駄だと思いますよ。戦術レベルじゃないですから。ヘタしたら戦略レベルですらない。ティア」



『了解しました。フィルタルトに対する戦闘機動阻害攻撃準備』



 いきなり空中に2本の棒が出現した。いや、棒じゃない。あれは、砲身?


『環境アセスメント開始。現状に即したデータ修正。被害判定許容範囲内。砲撃許可、いただけますか?』


「あのさあ、さっきそんな砲身みたいの出さなかったじゃないか。なんで今?」


『リクエストをいただきましたので、お応えしたわけですが』



「うわははははっ!! 仲が良いのだな。まさに、古に伝わる人騎一体!! そうか、これが貴様の強さか。無様な敗戦であったが、それでも良い土産話を持ち帰れそうだ!」


「だったら、ちゃんと無事に帰国してくださいよっ! ティア、やってくれ!!」


『了解。機動阻害交差射撃。……発射』



 どがあああぁぁん。



 巨大な音と、風と、衝撃波が辺りを駆け抜ける。


 某伯爵様もゴロゴロ吹き飛ばされているけど大丈夫なのか?


『防御強化術の賜物ですね。ほぼ無傷でしょう』


「そりゃ、なにより」



 で、目の前にあるのは、V字型に象られた渓谷だ。なんと言うか、崖というのも烏滸がましい。幅は300メートルはあるだろうか。こうなると、精霊騎の跳躍も届かないだろう。


 つまりは、フィルタルトは完全に停止せざるを得ない。


 っていうか、本当に地形が変わっているけど、環境は大丈夫なんだよな?


『アセスメントは完了しています。地形が変わったのみで、気候変動などの後代に影響を残すものではありません。渓谷の名前は、後の人類が名付けることでしょう』


「今日だけで、二つくらい名前が増えたかもな」


『光栄です』


「褒めたわけでもないけど、気持ちもわからないでもないよ」



「はは、はははっ!」



 バンドラム伯の笑い声が聞こえてきた。無事だったか。良かった。



「いや、見事以外に台詞が出てこないわ! これはもう私の出る幕でもなかろう。遠くから観戦させていただこう。先ほどの約束。忘れてはいない。期待しておるぞ!!」



 なんてことを叫びながらバンドラム伯は離れていった。どっかで結果を見届けるつもりなんだろうな。面白いおじさんだ。



『さて』


「ああ、そうだな」




「アルファンド!! 貴様、どういうつもりかああああ!!」



 ハイバーン侯爵家当主、ドネストル・ディア・ハイバーンの声が戦場に響き渡った。



 『仮称漢通信』、効果は抜群だな。



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