第18話 格好良い敵って、いいよね




 ほぼ同時に、相手方の精霊騎が動きを止めた。そして。



 どぉん、ずどぉん。



 1騎を除いて、全てが崩れ落ちた。


 騎士が脳みそだとすれば、精霊核は言わば心臓だ。とはいえ左胸にあるわけじゃない。へそのちょっと下、所謂丹田のあたりに搭載されている、精霊騎の動力源とも言えるパーツだ。これが無ければ精霊騎は動かない。ついでに言うと、発掘兵器なので、補充も効かない。


 ニコイチとかなら、整備できるんだっけか。それでも、出力調整がまともに出来れば、だけど。


 ウィルバーンから放たれた、謎の黒い粒、接触反応弾は下腹部装甲に当たって、貫徹、過不足なく、精霊核を壊してそれ以外に損害を与えなかった結果がこれだ。



 つまり、トルヴァルト側の2個旅団が沈黙したということだ。全滅とか壊滅とか軍事用語的にどうこうではない。指揮官1騎を除いて、全てが沈んだ。一瞬で。



「な、なにが、なにが……」



 敵の伯爵様は「なにが」以外言えなくなっている。気持ちは分からないでもない。だけどまあ、その辺はおいといて。



 ずしぃん、ずしぃん。



 ウィルバーンは歩み始める。ワザとゆっくりと、それっぽく。悪役っぽいなあこれ。なので優しい言葉を投げかけよう。



「擱座した騎士の皆さん、もうその精霊騎は核を破壊されていますので、どうやったって動きません。フィルタルトが湖が迂回しながら接近中ですので、至急脱出することをお勧めします。撤退用物資を忘れずに」


「言われた通りに、しろ……。指揮官としての命令だ」


 伯爵様のお言葉だ。さっきまでの動揺はどうとして、分かっているじゃないか。結構いいひとなのかもしれないな。


「繰り返しますが、撤退用物資をお忘れなく!」


「やかましいわ! 貴様に言われるまでもない。撤退だ! 全力撤退。私には構うな!!」


 怒られた。けど、やっぱしこのひと、憎めないなあ。そもそも、俺はこの戦争のことに思い入れはないわけだし。


 でも、安心のために言っておこう。


「追撃の心配は無用ですから、安心して撤退してください。命を大事にを大切に」


「どういうことだああ!!」


 ああ、また伯爵様を怒らせてしまった。



「言葉の通りというか、順番でいくと、まず伯爵様、あなたを倒します。そしてその次に、フィルタルトの軍も潰します。最後に親父の、ハイバーンを倒します。つまり、この戦場で動く精霊騎はいなくなります」


「何を言っている? 貴様はフィルタルトの者ではないのか? 狂人か?」


「ハイバーン家から追い出された一般人ですよ。とても平和を愛する一般人です。ですから、誰も殺したりしませんよ。安心してください」


 つらっと言ってのけた。


「ついでに言えば、両軍がここで消滅しますので、鹵獲については早い者勝ちですね。お急ぎください」


 相手があっけにとられている間に付け加えておいた。



 とかやっている内に、伯爵様の騎体まで100メートルくらいまで来ただろうか。跳躍戦闘が可能な精霊騎にとって、これはもう十分な近接戦闘距離と言える。


「ティア。武装を」


『どのようなものを用意しますか?』


「んっと、刀。切れ味は精霊騎を寸断できるくらいので」


『了解しました。重金属粒子圧縮、刀身形成。どうせ、熱とか振動とかそういうのは要らないのでしょう?』


「うん。そういうこと。自分だってさ、ウィルバーンとティアの力だけじゃなくって、アルファンドの力を試したいよ。13年頑張って来たんだから」


『そうですか。刀身が完成しました。銘は、そうですね「竹光」です』


「ひっどいなあ。そんなに手抜きなの?」


『半分は冗談ですよ。ちなみに植物繊維は混じっていません』


「なおさら名前詐欺じゃん!」



 ◇◇◇



「それでは伯爵様、準備はよろしいですか?」


 目の前の精霊騎が、精霊砲を投げ捨てた。代わりに背中にマウントされていた、長槍を掴み取る。そうだよな。砲撃が効かない。近接戦闘。当然そうなる。


「……伯爵様ではない。私はバンドラム伯、ジャスタスターク。この軍の司令官だったが、……今は一人の騎士だ!」


 やっぱりこの人、格好良いよ。憎いどころか好きになってきた。


「あの、今更こう言ってはなんですが、戦争が全部終わって、いろんな政治的なことが落ち着いたら、一度遊びに行っても構いませんか? 一緒にお酒を飲んでみたいなって、思うのですが」


「はぁ!?」


 そりゃ驚くか。悪いことを言ってしまったかな。


「ははっ、うははははは! いいな、いいぞ。貴様が勝ったら。そうだな、いつかそんなときがきたら、杯でも交えよう。約束だ」


 やっぱ良い人だ。今日は良い日なのかもしれない。


「だが今は一騎打ちだ。我が騎体「バンドランド」、全力で挑もう」


 挑むときたもんだ。やっぱかっけー。


「では、行きます!!」



 ウィルバーンが2歩踏み込む。それでもう相手の穂先は目の前だ。


 速いし、鋭い。真っすぐな突きだ。同じ騎体だったら、どうなっていただろう。多分、避けれても損傷はあっただろうな。


 だけど、俺の乗っている機体は『ウィルバーン』だ。



 ウィルバーンは、穂先を潜り抜け、さらに一歩を踏み込みそして。一呼吸。



 どすん。どすん。どごん。



 精霊騎バンドランドは四肢を切り落とされ。そして、精霊核を貫かれていた。



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