第17話 接触反応弾、慣性制御射撃! 見た目は黒い粒
戦場は静まり返っていた。
呆れているのか、気圧されているのかは分からん。
『及第点でしょうか』
「厳しいねえ」
『でもまあ、相手方もそれなりには警戒してくれているようですよ』
「上出来さ。さって、とりあえずまずは、敵国側からにしようか」
『こう言ってはなんですが、どっちが敵国なんでしょうね』
「……両方?」
『全くです』
仕方ない。とりあえずは、まあ。
「んじゃ、これから戦闘をしましょう! まずは、そうですね。一応自分は元とは言えフィルタルトの人間ですので、トルヴァルト王国の皆さん、いきますよ!! 備えて、反撃をどうぞ!」
「き、さまあああああ!!」
トルヴァルトの何とか伯爵が叫んでいる。知るか。戦闘、戦争しに来たんだろう? じゃあ、ちゃんとしろ。
『戦闘機動準備、と言ってもアルコールを抜くだけですが』
「ちょっとだけ残してもらえる? そっちの方が楽しそうだし」
『仕方ありませんね』
「ありがと。じゃあ、行くよ。戦闘機動……開始!!」
『了解』
ウィルバーンは、湖上を滑るように駆け抜ける。とりあえずの敵方、トルヴァルト側が目標だ。
『ああ、砲撃をしてくるようですね。精霊砲ですか』
「避ける必要あるか?」
『不要です。衝撃他世界転送装甲展開。完了。真っすぐにどうぞ』
「字面からして、相手の攻撃が無効っぽくて哀れになるな。お言葉の通り、真っすぐ行くか」
『敵騎体数……347騎。2個旅団規模。どうやら先ほどの伯爵様が指揮権限を所有していると思われます』
精霊砲は、要は風精霊の力を借りて、風圧で弾丸を打ち出すっていう仕組みだ。だけどそれは、砲撃というか、むしろ石を投げつけるというイメージのほうが近い。一応やたら長い砲身はあるんだけど微妙にしょっぱいんだよな、この世界の不思議技術は。
『ではこちらも反撃準備をしましょう』
「せっかくだし、砲撃には砲撃でいってみようか」
『了解。弾種設定。接触反応弾。接触対象、精霊騎構成物質。エネルギー強度、0.00000423。貫徹による後方被害を避けられるよう設定しました』
「なんかさ、こいつの周りに黒いブツブツしたなんかが浮かんでるんだけど、これがそうなの?」
『そうですが、なにか?』
「いや、なんていうか、効率的なんだろうけど、砲身とかそういうのは?」
『慣性制御射撃ですので、砲身の存在自体に意味がありません。加速時間、距離、ともに不要ですので』
俺の心が葛藤する。いや、その、相手が一生懸命砲撃してくるのに、こっちはピチュンって感じで終わらせるのが、どうなんだろう。
とかやっている内に、ウィルバーンがトルヴァルト側の地面に降り立った。あえてそこで静止する。相手の出方を見るというよりか、見栄だな。これは。
そして案の定、敵の砲撃が始まった。おうおう、確か口径は5センチくらいだったっけ。鉄で出来た砲弾が沢山飛んできた。弾というか玉なんだよな。ライフルの概念がまだないわけで。精霊騎というロボットがあるのに、砲弾は球形って歪な世界観だ。ああ、精霊騎は発掘兵器なわけだから、そういうのもアリなのか。
どん、どん、どすん。
ウィルバーンに当たった砲弾が、力なく落下した音だ。ちなみに、こちらの装甲に触れる直前にピッタリ止まって、それからどすん。相手方から見たら、直撃したのになんで? って感じになるのだろうか。
それでも大したもんだ。こちらを砲撃範囲に入れているのは大体100騎。それでも8発くらい直撃弾を入れてきた。それも初撃で曲射でだ。大した練度だ。近接戦闘を重く見るフィルタルト、実は危なかったんじゃないか?
「効いていない、だと!?」
伯爵様の声が聞こえる。悪いね。効かないどころじゃないんだよ。触れてもいない。
「攻撃しましたね? じゃあ、反撃しますよ。騎士の皆さん防御系強化術を最大にしてください。衝撃で怪我したら損ですよ!」
ということで、ティアに指示を出す。
「まあ、砲身はいいよ。攻撃開始。詳細目標は精霊核。ただし、あの伯爵様の騎体だけは撃たないで」
『了解しました。弾数346。発射タイミングどうぞ』
「皆さん、行きますよ!! 3、2、1、耐衝撃態勢、どうぞ!!」
ウィルバーンの周りに集っていた黒い粒が、消えた。正確には、瞬く間もない時間でもって、敵精霊騎に吸い込まれた。
曲射でこの速度かよ。
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