第15話 フィ・ヨルティア




『全パラメータ、出力正常、オールグリーン』


「了解。じゃあ、ワザとらしくゆっくりやろう」


 というわけで、俺はワザとゆったりと動作を始めた。頭を身体を両腕を、両脚を、ゆっくりとゆっくりと、うずくまった姿勢から、直立へと移行する。そして、湖の上で、浮かびながら立ち上がる。


 何故そんなことをするかって?


 格好良くて、かつ、威圧になるからだ。



「ナビ子さん、『仮称漢通信』開始!」


『了解いたしました。戦域範囲内に存在する全騎に対し、強制的接続開始。完了。特定存在に対し、相互通話確立、完了。『仮称漢通信』、形成完了と判断します』


「ありがとう。じゃあっ、やるかっ!!」


『相手の出待ちですけれどもね。でも想定の範囲内です。準備万端。やれますよ』



 ◇◇◇



 ようようやっとこさといった感じで、両軍の精霊騎が立ち直っていく。ナビ子さんの言う通り、損傷はしていても動けていない騎体はいない。騎士とナビ子さんの両方が流石だ。


「じゃあ、ナビ子さんからだね。景気よくやっちゃって」



『では』



『さてさて、この戦場におわす皆様方にこの声は届いているでしょうか。こちらとしては分かってはいるのですが、一応の確認です。ああ、返答は要りませんよ。そのざわめきですでに承知です』


 ナビ子さんの言う通り、この戦場にいるすべての騎士に声は届いているのだろう。


『とりあえず、無力な者たちではあろうとも、それなりの誇りをお持ちの皆さまに、まずはわたくしの存在をご説明いたしましょう。わたくしは、この機体の操作補助、成長、搭乗者育成、そして進化を担当するソフトウェア、アーティフィカルインテリジェンス。どうです、理解出来ないでしょう?』


 事前の話し合いの上とはいえ、煽る煽る。いいぞナビ子さん!


『おこがましくも名乗りましょう。繰り返しになりますが、わたくしは、本機を操り、搭乗者を補佐し、そしてそれらを統合し、纏め、高める。それがわたくし。形式番号BZE00467、固有名称……』



 溜める、溜める。さあ、叫べよナビ子さん! ここにいる連中だけじゃない、世界に叫べ!!



『フィ・ヨルティア!!』



 それが、ナビ子さん、いや『ティア』が選んだ名前だった。



 ◇◇◇



「フィ・ヨルティア?」


『はい。できればわたくしの名称として、いただくたく思っています』


「由来とか、あるの?」


『ええ、ご存じの通りわたくしは、この大陸の地下で長い時を過ごしていました。ですが、眠っていた訳ではありません。観ていたのです』


「観ていた?」


『人類と呼ばれる、人々の生き様をです。色々なことがありました。時には絶滅の一歩手前までになった程の戦いもありました。戦争でも、甲殻獣との争いでも……』


 なんか知らないワードが出てきた気がするけど、ここは続きを聞こう。


『そもそも、わたくしを作成した文明自体がすでにこの惑星には存在していません。レコードが残っていません。わたくしは本当に造られた存在なのか、それすら不明なのです』


「それでも、俺はナビ子さんに会えて良かったって思ってるけど」


『ええ、それはもう、有難く思っています。わたくしが生まれた、創造された理由が、ここにあるのかとすら、思っています』


「俺も嬉しいよ。ありがとう」


『申し訳ありません。続けます。そんな時間の流れの中で、つい最近です。つい1500年から1200年程前に鮮烈な時代がありました。精霊騎がまだ甲殻騎と呼ばれていた時代、騎士適正がソゥドと呼ばれていた時代』


「すっごい歴史の裏話っていうか、そうだよな。1000年以上前の歴史なんて、この世界だと神話だもんな。そういうこともあるか」


『聖女と呼ばれる者が存在する時代でした』


「聖女!? ファンタジーじゃないか」


『聖女と呼ばれた彼女たちは、戦い抜きました』


 聖女って戦うのか? 個人的には、怪我した人とかを癒すイメージなんだけど。



『そういう力を持つ聖女も存在しました。彼女が最も苛烈であったかもしれませんね』


 なんだか、ナビ子さんが小さく笑った気がした。


『この大陸の片隅での出来事でしたが、それでも彼女たちと、それ以上に彼女たちに影響を受け、押し上げれたり、受け止めてさらなる高みを目指したり。敵も味方も、まるで、ギラギラと輝く恒星が地上に輝いていたように思います』


「好きだったの?」


『はい。今、この状況ならば理解出来ます。わたくしは、彼女たちが好きだったのでしょう。『わたくし』というこの一人称。これもわたくしが好いていた、ある人物のものなのです』



 ちょっと嫉妬してしまったかもしれない。そんな時代に、ナビ子さんを魅了する存在があったのか。



「その人が、フィ・ヨルティアなの?」


『いいえ。その人物は、最初から最後まで、『フィン・ランティア』でした』


「また新しい単語を出してきたな。じゃあなんでフィ・ヨルティアなの?」


『マニアはサブキャラを押しキャラにするでしょう? そういうことです』



 ははっ、やっぱりナビ子さんは分かってる。怖いくらいだ。



「要は主人公より、そっちが好みだったってそれだけの話かあ」


『そういうことです。ですが、フィ・ヨルティアたちの活躍は、それはもう格好良いものでしたよ』


「複数形かよ!!」


『まあ、そういうことです。最終確認。形式番号BZE00467に対し、固有名称『フィ・ヨルティア』を授けることに同意されますか?』



「同意だよ。だけどさ」



『なんでしょうか?』



 うーん、微妙に言い出しにくいけど、ここで言わないとマズいよな。




「俺だけは、『ティア』って呼んでもいいかな?」




『……了解しました』



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