第14話 流星落着




 その光弾は、想像したよりもか、ずっと低速で大気を切り裂いて、墜ちていった。


 ナビ子さん曰くゆっくりなのは、運動エネルギーの減少と示威効果だそうだ。確かに一瞬で意味が分からない攻撃より、こういうソレっぽい方がらしいとは思う。


 という光景を俺はコックピットの中から観ている、なんなら音も聞こえている。どうやら監視衛星の角度と、光学操作で実現しているらしい。音については現地の音響をこれまた、圧縮された空気を通じて、光学的に再現したらしい。ここまだ宇宙空間だしな。


 というわけで、ビームというよりか、ピンク色の小さな隕石が地表に迫っていくという光景が繰り広げられているわけだ。さて現地の様子は。



 17のモニターで多元中継されて、さらには音声まで追加された画像では、地元の動揺がありありと伝わってきた。


 そりゃそうだ。いざ戦闘となった矢先に空から謎の光が堕ちてきたわけで、どう対応したら良いかなんてわかるわけもない。大混乱だ。音声からも、両軍が対応に困惑して錯綜しているのが良く分かる。いい気味だ。主に我が国。



 なんてしている内に、命中の時間だ。俺と、主にナビ子さんがプロデュースしたビームは、ラウダネルスのちょっと南側に向かっている。それも計算の内なんだろう。



『3、2、1。着弾します』



 どごわああぁぁぁん!!



 音量調整はされているだろうけど、とんでもない音が響き渡る。こりゃ現地、凄いことになっていそうだ。


 だけど、上空からだとよく分かる。ピンクの光が一瞬で円形に光り、瞬いて、そして土石の柱を突き立てる。その後にくるのは、円形の衝撃波だ。薄っすらと白い余波を伴いながら、ラウダネルスを中心として、空から見ればゆっくりと輪を広げていく。


 あ、両軍に到達した。何騎? いや何十騎? 衝撃波に煽られて地面に叩きつけられたり、運動をわちゃわちゃにされたり、これ、戦術的には大損害じゃないか? ナビ子さん死人出てないよね?


『大丈夫です。敵、損害軽微。ただし、混乱は見ての通りです。戦術はすでに崩壊していますね。ここからわたくしたちの存在感を示すのに、十分な演出と言えるでしょう』


 だから物騒だって。いや、自分も好物だけどさ。



 さて、着弾地点と言えば、ナビ子さんの予測通りで、大穴が開いてそこに大河の水が流れ込んでいるようだけど、もうもうとした蒸気で良く分からん。もうちょい待ちかな。


『はい。ソレっぽい登場を演出するなら、もう少々です。それまでの間、名乗りの復習でもしましょうか』


「まあ、えっと、はい」



 ◇◇◇



「頃合いかな」


『ええ、そうですね。レディ?』


「いいよ、行こう」


『了解いたしました』



 流星が、今度こそ、本当の意味で武威を持つ、本物の流星が降り立とうとしていた。



『では落着を開始いたします。主機出力、2.31。落下開始。慣性制御、問題なし』


「うん、大丈夫。違和感はないよ。このままでよろしく」



 流星が、意味もなく赤い光を伴って大気を切り裂いていく。本当に意味がないんだよ。だって、熱も速度も全部こっちの制御下なんだから。



『落着まで14、13』


「じゃあ、例の感じで行ってみようか、なるべく派手に」


『了解しました。7、6……、慣性制御、極小限定解除。ソレっぽい落着開始』


「おっけい!」



 ごごごごご。ががががが。



 新しく出来た湖の手前、落着した機体が地面を削りながら突き進む。


 アレだ。高速で落下したロホットが地面を削りながら、ポーズを決めるアレだ。だから俺もそれに倣う。両足を広げ、膝を曲げ、左腕を地面に当てながら、滑る。これだよ。ロボットはこうじゃなきゃ。



『いいですね、これ』



 ナビ子さんもご満悦のようだ。だけど、まだ続きがある。



 地面を割りながら滑り続けた機体が、ついに湖に差し掛かり、そのまま突入する。当然、水は割れ、まるでどこぞの偉人の様に引き裂かれた湖面を突き進む。刮目しているか? 戦域に存在している皆さんよっ!



 そしてついに湖の中央に達したところで、機体が止まる、そして、浮かぶ。




 そう、俺の駆る機体は、ロボットは、悠然と湖のど真ん中で静かに立ち上がったのだ。




 やっばい。格好良いぞ、これ。



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