第8話 接続、点火!!




「主機?」


『ずっと言っていましたよ。現状、この機体は補機主導で稼働しています。本来出力の3.85%未満といったところですね』


「だって、超新星からエネルギーやら物質やら引っ張ってきてたんだよね? まだあるの」


『はい。本機が本来の性能を発揮するための、それが主機です』


「今でも十分な気もするけど、星を壊したり、人が死んだり、手加減とか大丈夫かな」


『力の差は、あればあるほど不殺に至ります。中途半端な差が死を呼ぶのです』


「うん、確かに分かる気もする。だけど、限界ってあるよね?」


『ご安心ください。歯牙にもかけない、本物の力をお見せしましょう。すなわち当機のメインエンジン』



 ナビ子さんが一瞬溜める。こりゃ本気だ。



『多世界重力定数転用式位置エネルギー変換ドライブをっ!!』



 うわあ、ノリノリだよ。これ。



「そ、それはどんなんなのかな?」


『アルファンドご自身が経験しての通り、宇宙は、世界は一つではありません。幾つもの、それこそ無限とも言える世界が存在しています』


「うん。まあそれは分かる。俺のいた世界でもそういう理論あったし」


『その中には、いえ、その多くが、わたくしたちが常識だと思っている定数と違う値を持っています。例えば、光速度が秒速15キロだったり、円周率が3.15だった場合、どんな世界が存在しうると思いますか?』


「い、いや、全然想像できてない」


『それはまあいいでしょう』


 いいのかよ。


『重要なのは、そのような世界は長続きしないということです。泡のように生まれ、泡のように消えていきます。繰り返しますが、殆どの世界がそういう存在なのです』


「つまり、俺たちのいる世界は、奇跡の産物だってことか?」


『いえ、確率的に多数存在することは間違いありませんし、所詮は惑星レベルでの環境です。繰り返しますが、確率的に生物の生存に適合する世界は珍しくはありません』


「じゃなきゃ、地球もココも存在してないもんな」


『そうです。ただし、確率を無視できないほど、中世ヨーロッパ風の惑星が多いのも事実です。宇宙レベルで見れば数百億年、惑星レベルでも数十億年。それなのに、なぜ1000年レベルの中世ヨーロッパ風世界を有する惑星がここまで多いのか、わたくしは神の存在を感じずにはいられません』



「あ、ああ、それは多分、触れちゃいけない部分だと思うよ。それこそ神様の領域だろうから」



 危ないって、ホント危ないから。



『話を戻しましょう』



 ありがとう。ほんとありがとうございます。



『本機の主機、多世界重力定数転用式位置エネルギー変換ドライブは、他世界より随時「都合の良い重力定数」を取得し、稼働するエンジンです。これにより、超新星爆発、対消滅、重力縮退などの、一方向性エネルギーと比較して、柔軟かつ瞬間的には超越するだけの出力を得ることが可能となるのです!!』


 ナビ子さん、ちょっと早口になってない?


「ナビ子さん、ナビ子さん、何となく理解した。凄いエンジンだね、それ。じゃあ、動かさないと、さ」



『説明に続きはあるのですが、またの機会にじっくりと説明いたしましょう。よろしいでしょうか』


「うん、聞くよ。時間は幾らでもあるんだし。だけど、今さ、補機出力全開とかって言っていなかったっけ?」



『ご安心ください。補機出力最大状態は継続中です、現在、多世界接続数……、45197253245……、なおも増加中。その内、適合世界数57103275。確率の範囲内です』


 なんか、テンキーを適当に打ったように思えるのは不遜だろうか。怖いから聞かないけど。



『そろそろですね。では行きますよ!』


「なにを!?」


『超新星爆発誘引要素、最大稼働! フライホイール形成!!』



 いつの間にか機体の周りに三つの歯車、そう歯車としか言えない銀色の何かが存在していた。



「何これ?」


『主機起動と言えば、フライホイールです!』


「いや、意味わか」


『第一から第三までフライホイール稼働。回転順調。他世界接続確立エネルギー充填開始。当初の想定範囲内。圧力上昇。56、75、97、113、120!!』


「なんか置いて行かれっぱなしだけど分かるぞ、120だろ120!!」


『146、158、174!!』



「なんで越えてんだよっ!!」



『行きますよ。セリフは分かりますね!? 199』




「『接続! 点火!!』」



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