やがて、その時はやってくる。
いつか必ず、いつかはやってくる。今、まさにその時だった。約束というものは、叶えられなければならない。その為に交わされるからこそ、破られた約束は裏切りの証となるのだ。僕は怖気づいていた。破ろうと、思っていた。破る考えを持てないまま、ここまで来ただけだ。
荷物をまとめていた。大家さんにも話をつけていた。どうやって話をつけたのだろうか。まさか急に出ていく訳にもいかないので、いつかの日に話をつけたのだろう。どのような話をしていたのだろうか。眼差しで話をつけていたかもしれない。そうやって茶化してしまいたかった。そうすれば、物事は自然と軽くなっていくだろうと、そう思い込まなければやっていられない。重苦しい気分とは裏腹に、
正直、こんな事をしても何にもならないだろうと思っていた。外れるであろう期待を、わざわざ持つ気にもならなかった。希望を持たなければ、失望もない。いや、もう失ってしまっているのだろうか。価値のあるがらくたの群れを捨てに捨てられないまま、無闇に膨らんでいった荷物が重かった。日差しは強かった。横になって、そのまま寝てしまおうか。そうするには肌寒い季節だった。三月だ。三月だろうか。時の流れは、勝手に名前を付けられてどんな気分でいるのだろうか……。
小さなアパートを抜け出てきて、また別のアパートに来た。今日起きた事を要約すれば、それだけで済むような内実だ。大した日ではなかった。元々、そんな日を過ごした事などなかったが……いや、一度はあったかもしれない。僕が産まれた時……その日くらいはおおごとであったかもしれない。逆に言えば、それっきりだった。
夢追い人は一人で待っていた。笑顔とも、真顔とも言い表せない、ぎこちない表情をしているように見えた。僕の顔だったかもしれない。
「よろしく。まあくつろいでくれ。家賃は半々。だからこの家の半分を自分のものにしたつもりでさ」
「じゃあ、そうしようかな……なんてなるかよ」
「まあいいじゃないか。ずっと玄関先に突っ立っている訳にもいかないだろう。上がってくれ。どうせ、そうするしかないんだしさ」
僕は脅されているのかもしれなかった。そんな訳はない。どちらだろうか。荷物を置いた。体も座らせた。もう立ちたくなかった。
「さて。腹、減ってないか」
「減っている」
「カップ麺ならあるぞ。箱買いしてるから、三十個。君が来ると思って買っておいた。二つくらい一気にどうだい?」
「まず一つ食べてから考えるよ。緊張しているから、喉を通らないかもしれない」
「慎重だな。君らしいよ。いや知らないけども」
やがて出来上がったカップ麺がちゃぶ台の上に乗っていた。カップ麺を食べようとする自分もいた。夢追い人は食べていた。僕はそれを眺めていた。麺は伸びていった。僕はそれを眺めていた。まだ伸びていた。夢追い人もそれを眺めていた。どうしてこんな事をしているのだろうか。互いに、そう思っていたのだろうか。僕はこの緊張感が嫌になって、やっとカップ麺に手を出した。残っていた緊張感のせいで、危うく吐き出しそうだった。
「なんていうか君は……真面目な奴だな。嫌ならいらないと、そう言えばいいのに」
「失礼だと思った。それに、食べ物を残すというのは、嫌な気分にさせられる」
「そんな話し方だったか? まあいい。手をつけたんだ、残さないでくれよ」
汁も残さなかった。夢追い人は残していた。それだけで、僕が素晴らしい人間となる訳ではない。それくらいは分かっている。それくらいの事しか、分からなかった。
食べ終わった後は手持ち無沙汰になり、まとめていた荷物を少しずつ開き始めた。大量の原稿用紙があった。あったも何も、自分でまとめてそこに突っ込んだ訳だろう。雑多で、何が書かれているのか自分でもよく分かっていなかった。確か、物語があった筈だ。暗闇から生じた主人公が旅に出て、自らの正体を探し求める話だ。つまらない割に、長ったらしい物語だった。そう思っている横で、物珍しそうに眺めている夢追い人がいた。
「この間、僕のを見せたろう。その代わりと言っては何だが、少し見せてくれないか?」
「構わないよ。価値はないだろうけど」
「謙遜するなら、僕が見てからにしてくれ。期待してしまうだろう……君が言う通りなのかどうか」
タイトルはどんなものだったろうか……そんな事は、どうでもよかった。僕の恥部を見せつけている事に対する羞恥心の方が余程重要だった。こんな事なら、燃えるごみにでもして捨ててくればよかった。どうして後生大事に持ってきてしまったのだろうか。夢追い人は慎重に事を進めていた。それとも、僕の弱みを握ろうと必死になっているのだろうか。どちらにせよ、話しかけるつもりにはなれなかった。それよりもとにかくこの
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