///   17日目 ニルス視点


夜に出港し、朝方に到着した。

観光船の一番早くつく便だ。


基本的にはビジネスで来る人が多いが、この国の特殊な景色を楽しみに来る人もいる。


到着すると、武器と魔素を調べられた。

もちろん、私は引っ掛かる筈だ。

そこでお客人かどうかを確認できるだろう。


しかし、魔素分散用の機械に通された。

「早く済ませる新しい方法があると聞いたのですが。」

「あー。反発体質を使ったものですね。

抱擁しなければならないから不評で……今日にでもクビになるんじゃないですかね。」

「そちらでお願いできませんか。」

「ニルス様はこちらに通せと言われてるんですよ。あの人、なんかすでにそちらの国の金持ちに失礼したって話で。」

失礼……?抱擁しろと仕事を押し付けて、それで怒られたのは本人のせいか。


仕方なく時間のかかる方で魔素を飛ばすことにした。



クビにになって居なくなられたらまた探すのが大変そうだ。


機械作業は昼過ぎまでかかった。

お詫びにと昼食を強引に勧められた。

この国の食事はあまり美味しくないから好きではないのだが。

せっかくなら、と食事がてら反発体質の門番がどこにいるのか聞いた。


なんとか聞き出せてその辺りに到着した。

人が多く集まり、かなりざわついている。


「どうしたんですか?」

野次馬の1人に聞いた。

「ハグ門番がクビって言われたらショックで倒れちまって。さっき担架で運んだんだよ。顔色ヤバかったなー。」

「ありゃあ過呼吸ってやつだな。最近の若いやつは軟弱だ。」

過呼吸……担架!?

「ハグ門番って反発体質の、魔素の調節をするかたですか!?」

肩を揺らすと、野次馬は驚きながら「それしかいないだろ」と言った。

まずい。無事であってくれ。


運ばれたという医務室の場所を聞き、走った。

その人は、今は『ZA-01』と呼ばれているらしい。

まるで囚人ではないか。




ドアを見つけ、外から声をかけた。

「ZA-01、もとい、異世界のお客様はこちらですか?」

内側から鍵が開いた。医師は私の顔を見ると苦笑いして中に案内した。


ベッドで寝ていた患者が体を起こした。

きっと、あの方だ。


「船では私の国の者がすみません。話を聞いてまさかと思い参りました。」

「魔法学校がある……ところの国ですか?」

弱々しい声で応えてくれた。

かなり衰弱しているように見える。


近くに寄って確認すると、顔色が良くない。

本当に申し訳ないことを……私がもっと早く待機していれば。

「そうです。本当にすみません。

トステ様の大切なお客人なのに船から無理矢理降ろしたと聞いてゾッとしました。

それも魔素反発体質なのに魔石のコンパスなんて……。

しかし、漕がなければこの国へは行けないはずなのにどうしてこの国へ?」


ルナ様の言う通り、辺りが暗闇だったため光る方向に漕いでしまったらしい。

その後警戒船に見つかり保護されたが……荷物を奪われ、働かされ、挙げ句に喘息と過呼吸で倒れたところだという。

喘息はこの国で発症しやすい病気の1つだ。

その上、医師とこの状況を生んだ男が治療費と仕事の仲介費として財産を奪おうとしているらしい。

「大変でしたね。今、私は魔素を制限されている状態です。回復魔法は使えませんが、あなたの財産は保証します。」

あの男がこの方を追い詰めたのか。

医師も信用ならない。釘を刺しておくか。

「治療費はこの国に、仲介費は……調査して問題がなさそうなら貰えるように手を回しますよ。」

「い、いらねえよ!」

仲介したらしい男は出ていった。

ろくな男ではないな。

病室を確認したらカメラがついていた。

あとで確認するために時間も覚えた。

「では、しっかり治療をしてくださいね。

この国の医療なら喘息は治せる筈です。」

とにかく、すぐにこの国のトップに話をつけに行かねば。

安心させるために、改めて数をごまかされないように付け加えた。

「この方の財産、トステ様のご友人がしっかりと数えておりますし、途中で換金された宝石は砂漠の国の換金所に記録されてます。それを差し引きした分しっかりと残っているか数えさせていただきます。」

ここ数日ずっとトステ様と話していたのだ。必要な情報は揃えている。


安心して寝るのを見届けて、行くべき場所へ急いだ。



まず、あの方を拾ったという警戒船の船員。

話してみるとかなり常識人で、信じられない対応に驚いていた。

「そんなことになっていたんですね。……この国は異世界人を保護する法律があります。身内がいないからこそ手厚く保護して、本人が希望したら住人として迎え入れるように教育されているはずです。

どいつがそんなことを。」

「門番の仕事を紹介した男です。医務室のカメラにうつっています。そこの医師も医療費を過剰に払わせようとしていました。」

船員は改めてそれを確認すると約束してくれた。



次に尋問員の話を聞き、保護室を確認した。

ここから囚人の扱いだ。

鉄格子の窓に剥き出しのトイレ。

これは保護ではない。勾留だ。

尋問員に部屋について聞くと、異世界人を名乗る犯罪者もいるからとのこと。

翌日には職を紹介してそこに住み込みで働きに行ったという。

「ところで、話を聞いたならその記録はありますか?」

「はい。録音しております。」

じっくり聞かせてもらった。

トステ様の名前を出されていることを確認し、上に報告したか尋ねると

「正直、『トステ』は誰でも騙れますのでそれも含めて報告しました。

危険な武器と魔道具、目的地が魔女の家となると……この国で正式なお客様として扱うのは難しいです。」

「だから、囚人扱いを見逃したと?」

この国に限らず、一握りの人以外は魔女の家が誰の家かは知らない。

一応私はかなり上の地位を頂いている。

だからこそ、魔女の家に招かれる人物こそ丁重に扱わねばならないと知っている。

だが国土を広げる邪魔をしているのは事実なので、この国がそれを知る必要はない……それが仇になったか。

「もう1度聞きますね。トステ様を騙るのは誰にでもできる、そう仰いましたか?」

「はい。この世界の有名すぎる名前ですので。」

「トステ様のお名前を自称したり、お借りしたり……それを誰にでも簡単にできるという認識が、この国にあるのですね?」

「簡単に、というわけでは。」

「失礼しました。『誰でも騙れる』というのを『誰でも簡単にできる』というようにとってしまいました。

そうしますと……どういった意味でしょうか?」

笑顔で聞くと、尋問員は言葉に詰まって謝罪をした。

実際に報告した書類を確認し、押収した荷物もチェックした。

宝石などの数に問題はなさそうだ。

次は、この後に働かされたという住み込みの門番の仕事を確認するか。


夜には帰れそうもないが、全て確認しておきたい。

電話を借り、上層部に会議を開かせるよう連絡した。

首相も呼ぶように念を押した。



門番たちがちょうど仕事を終えるらしいので、尋問員に付き合わせて住居を確認した。


そこは、酷いものだった。

尋問員に録画を頼んで良かった。

きちんとデータをとれているか横目に確認しながら中を進む。

寮長に『ZA-01』がどこにいたか聞いた。

ついでに評判も。

「ワンちゃんだろ?ビーサン……BG-39が目を付けてたぜ。部屋はあっちだ。

まっすぐだしドアもねーから見えるだろ。6人1部屋でどこも間取りは一緒。シャワーもそこの丸見えの蛇口がそうだ。」

6人……ドアもなし?

奥を覗くとが薄いカーテンが引かれたベッドが見えた。

シャワーと呼ばれた蛇口も酷いものだった。粗野な衝立ついたてがついているだけで殆どプライバシーはない。

「アイツはりきってたぜ。今日帰ってきたら筋肉痛もおさまってるだろうしヤってやろうってな。

ワンちゃんの評判はかなり良かった。

最初は新人なのに楽な仕事についたって嫌われてたけど、掃除をしっかりする真面目なやつだからな。」


尋問員がカメラを止めようとしたので小声で牽制した。

「私は魔法学の国で育ちましたが、電子機器は一通り使えます。甘く見ないように。」

「ははッなんだい?にーちゃんたちは撮りながらヤるタイプか。うちのやつらみんな喜ぶぜぇ?」

「……ZA-01は何をしてここに来たのでしょうか?」

「不法入国、及び危険物所持だろ?

ここの仕事はおもてっつら良いやつ選ばれるからみんなすんなり受け入れてたよ。」

「罪人なんですね。」

「もちろん!

にーちゃんみたいな綺麗なのには罪人の門番なんか使わねーけど、どうしても早く入りたいっつー魔法使いさんがワンちゃん使って入国してたぜ。

結局セクハラしてクレームつけられてクビんなったみたいだけどな。」

「はぁ!?ワンちゃんクビかよぉ。ちくしょー。」

「どんまいビーサン♪」

急に男が割り込んできた。

ビーサン……恐らくBG-39、あの方を狙っていた低俗な罪人だろう。

「あれ、アンタら……国のもんか。」

男の口調が変わった。尋問員を下がらせて警戒をする。

「撮るだけ撮っとけ。やーっときたかー。」

BG-39はそれだけ言って部屋に戻った。


「つまり、ここに調査が入ったことは……。」

「俺が寮長になってからはねーな。だからこうなんだよ。」

帰宅してシャワーを浴びる囚人が、好き勝手に性交渉を始めた。

カメラを持つ尋問員に見せつけようとする輩までいた。

尋問員が限界なようなので引き上げた。


「私がここに来た理由を教えます。」

掃き溜めを出て、ほっとする尋問員に言った。

「トステ様が、異世界のお客様をお探しになられているからです。」

やっと、尋問員は事態の重さに気づいた。

カメラを壊される前に強引に受け取り、ホテルを用意させた。

「私が無事でないと、今度はルナ様が暴れますよ。」



その後も会議のための資料を集め、セキュリティの強いホテルに泊まった。


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