///   15日目 ルナ視点

おなかすいた。

でも、あの人も食べてないかもと思うと食べて良いのかわかんなくなった。

ニルスが体力作らないと助けに行けないって言うから、仕方なく食べた。

あんまり味がしなかった。

「ごめんね、ごめんね……。」

ニルスも悲しそうにしていた。

「違う海流に乗っていた場合、どこへ行くか調べます。」

「ぼくも、頭あんまり良くないけど、見せて。」


ニルスがもってきた地図に矢印がたくさんあった。

この国の近くの海はみんな魔女の家に向かっていた。

「この国、海流が避けてるね。」

電気と機械の国。

あそこは臭いし、海も濁っていて油もたれ流すし嫌い。

だけど、魔女の家から一番近い国だ。

「夜に明かりを頼りに漕げば行けるかもしれませんが、国に近づくほど悪臭もしますし、海流はどこもこの国に向かっていません。」

夜に明るい?

「この国、夜に明るいの?」

「はい。」

「コンパス切れて、不安で不安で仕方なかったら……明るい方行かない?」

「海流に乗ればつくのを知っていてもですか?」

知っ……。


ここでやっとぼくの2個目の忘れ物に気づいた。


「せつめい!ぼくにされた!」

「はい?」

「ぼくに説明したの!ボートのせたあとに!こんなの聞けるわけないよー!あいつぶちころす!」

「こ、ころさないでください!あとで船員に確認します。」

「あの人しんでたらころすからね!」

ニルスがここでトステと連絡を繋げていたらしい。

『殺しても生き返らない時は無駄だって言ってるでしょ!』

「ひゃーとすて!」

『で、なに。まだ家に来てないわよ。』

ニルスが震えながら海流の話をした。

『殺そう。』

「ま、まってください!船員には私から確認した上で処罰を与えますので。どうか!」

『え?だって死ぬかもしれないミスを2連発したんでしょ?今から泳いで探しに行きなさいよ。』

「ごめんとすて。」

『ルナもそれは抜けすぎね。反省して。』

「およぐー。」

『…………冗談よ。半分。』

ニルスが泣きそうになっていた。

「新人の船員が急かされて用意したんです……どうか命だけは……。」

『用意したもの、ここで言わせなさい。』

ニルスが慌てて船員を呼びに行った。


呼ばれた船員は震えながら答えた。

「魔女の家なら海流にのっていけるからと、指示されて、コンパスと地図、それと食料を渡すように言われました。」

『何を渡したか、ゆっくり言いなさい。』

「コンパス……。」

『どんなコンパス?』

「魔石で動く、地図の上に矢印を出してくれる……初心者でもわかりやすいと評判の最新式のコンパスです。」

『渡した相手は?』

「異世界のお客様です。」

『そもそも、どうして船から降ろしたの?』

「魔素計測値が異常値で……原因が体質にあると。」

『あー。ルナと一緒だから上がったり下がったりしたのね。それで?どんな体質?』

「それは、船長が詳しく聞いていると思います。自分は、この人が降りなくてはならないから急いで準備しろと言われて。」

声が泣きそうだった。

『わかった。船長を泳がせるわ。』

「どうか!あの!どうか!!!」

ニルスが慌てている。

『うるさいわね。アンタが泳ぐ?』

「は、はい!それで命が助かるなら!」

新人船員は事の重大さに気づいて、ひたすら謝り出した。

「とすてー、なんかうるさいからやめとこ。

罰よりも、助ける話に戻そう。」

トステが話を戻し、ニルスの海流の図を見ながら話をした。

新人船員にもどれだけの事をしたか聞いて貰うために、そのまま居させた。

「だから、お前はぼくに海流の説明をしただろう。」

『あらやだルナが怒ってる。』

トステがちゃちゃをいれた。こまる。

「あの人にちゃんと伝えた?伝えてないよね?」

「あ……。」

船員は一気に青ざめた。

『今日で二日目。まだ家には来てないわ。

夜までに反応がなければ……深刻なことになるわ。』

「サンドイッチも絶対足りない。」

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい!!」

ニルスはなんとも言えない顔で眺めていた。

「可能性の話をして良いですか?」

『どうぞ。』

「最悪の場合、電気と機械の国にさえ行けずに異世界島の海流に飲まれて海の底です。

それ以外では魔女の家手前の沼地に流れ着き、迷っている場合、電気と機械の国の警戒船に見つかり、保護されている場合、魔女の家近くについたが、単純に迷って突風で飛ばされた場合……。レアケースではこの国に上陸ですね。中央の海流は手漕ぎボートでは絶対に行けません。」

『今晩、……いえ、念のために今から沼の捜索隊と海洋捜索隊を組んで。費用はそちらの国と船長でなんとかして。』

「わかりました。海洋捜索は当時のミスに関係した船長と船員、沼の捜索は観測長とそれを止められなかった自分を中心に組みます。連絡魔石は全隊に持たせ、その費用は国に交渉します。」

『ニルス、あんたは司令塔としてこの国に居なさい。ルナと待機。』

「ぼくもさがしたいー。」

『何となくわかったのよ。たぶんどこにいるか。

ただ、迷惑かけてくれた人には働いてもらうから、沼と海の捜索は今晩から始めなさい。』

「かしこまりました。今から手配します。

今晩、トステ様の連絡が繋がりましたら開始します。」

『一番は今晩あの子が無事に家につくことなんだけどね。

じゃあそれで。』




結局、捜索隊は動くことになった。

ニルスが国に用意させた連絡魔石を持って、罪を償うように捜索隊が散った。

ミスに関係ない人もいたので、その人には特別報酬を与えることになった。

もちろん国からだ。


トステは魔法学の国の元となる学本を作り上げ、国の魔素の安定のために国中に魔石が生えるように魔法をかけた恩人だ。

だからニルスを含め、上層部はトステの意見を尊重する。


生やしている魔石の魔素は、異世界島のありあまる魔素から供給している。

魔法学の国からすれば救世主だが、実のところ魔素が濃すぎる異世界島を住み良くするための手段でもあった。

そして、魔女の家と言うが、あれはトステが電気と機械の国が国土を広げないように作った防波堤であり、トステの別荘の1つでもあった。

あの人が無事についたなら、懐かしみながら楽しく話せたのに。


今晩見つからないということは……確実に漂流している事になる。


トステがこの国に来ないのは2つ理由がある。

1つはアンヌ。

アンヌだけにして家を空ける時間を短くしたいから。

2つ目は森。

毎朝、変化を調査している。

ぼくが留守だから今はトステ1人で見ている事になる。

強力な魔獣や魔人が現れたら真っ先にトムが死ぬ。

そして、町全体に危険が及ぶ。

あの町はぼくらの大切な居場所だ。最優先で守りたい。






人間なんて……特に異世界人は簡単に死んでしまうのに、どうして死んで欲しくないと感じるのか。

ぼくにはわからなかった。

でも、無事だといいな。






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