17日目

同じ朝。

臭いは慣れてきた。

ねむい。

ビスケットまずい。

水くさい。


仕事暇。


掃除頑張る。


昼暇、ビスケットまずい。


仕事暇。



呼ばれた。


「どうだ?」

仕事を紹介してきた男だ。

「……はい。」

どうって、何だろう。

「実は魔法学の国のお貴族様がお前にえらく怒っていてな。」

あのおっさんか。

「クビだ。」

「……じゃあ、荷物返してください。ボートで海の上に居た方が、マシ……。」

数日我慢していた喘息の発作が限界に達した。

急に苦しくなり、過呼吸も起こした。

唇がしびれ、手足がしびれ、脳がしびれた。


遠くで声が聞こえる。


私は、担架で医務室に運ばれた。


医務室は空気清浄機があるようで、外よりは空気が綺麗だった。


時間を置き、ゆっくり過ごしたら何とかマシになった。

「無料じゃないんですよ。どうするんですか。」

奥で話し声が聞こえる。

「こいつは今日でクビだ。荷物の中に宝石がたんまりあったからそいつを分けよう。

俺が紹介料、お前が治療費。」

「……助けずにほっとけば全部手に入るのに?」

「一応国で拾った人材だからな。異世界人ともなると、どういった経緯で亡くなったか記されるんだよ。

人目もあったし医者を呼ぶしかなかったんだ。」

「まあ、そうなりますね。7:3で…私が7割です。」

「おいおい、俺が多い方だろ!」

全部聞こえてます。


絶対忘れない。全部書き留めてやる。


2人が落ち着くと、新しい足音が聞こえた。

「ZA-01、もとい、異世界のお客様はこちらですか?」

なんとか体を起こして姿を確認した。

上品そうな男性だ。

「船では私の国の者がすみません。話を聞いてまさかと思い参りました。」

船?国?話?

あのクレーム貴族のことかな?

「魔法学校がある……ところの国ですか?」

男性は私を見て、近くに駆け寄ってきた。

「そうです。本当にすみません。

トステ様のお客様なのに船から無理矢理降ろしたと聞いてゾッとしました。

それも魔素反発体質なのに魔石のコンパスなんて……。

しかし、漕がなければこの国へは行けないはずなのに、どうしてこの国へ?」


私はゆっくりと、夜に光っていた方角に漕いだこと、ついてから大事な荷物を没収されたこと、体質を生かした職だとそこの男に言われて働いたこと、空気が淀んでいて喘息と過呼吸を起こしたこと、私の財産がこの男たちに治療費と仲介費としてとられてしまうことを話した。


「大変でしたね。今、私は魔素を制限されている状態でして。

回復魔法は使えませんが、あなたの財産は保証します。」

男性は後ろ暗い話をしていた男達を睨んだ。

「治療費はこの国に、仲介費は……調査して問題がなさそうなら貰えるように手を回します。」

「い、いらねえよ!」

仲介した男だけが部屋から出ていった。

「では、しっかり治療をしてくださいね。

この国の医療なら喘息は治せる筈です。」

男性は部屋を出ていこうとした。

が、入り口で立ち止まって付け加えた。

「この方の財産、トステ様のご友人がしっかりと数えておりますし、途中で換金された宝石は砂漠の国の換金所に記録されてます。それを差し引きした分しっかりと残っているか数えさせていただきます。」

トステさんの友人……アンヌちゃんか。

アンヌちゃんならしっかり覚えていそう。

ありがとう。


私はそのままベッドで眠った。


夜に目が覚めると、なんと、料理があった。

あるのか、この国にも。

レトルトのようなスープとサラダ、雑穀米だ。

プチプチしてないお米は初めてだ。

添えてあったごま塩のようなものをかけて食べた。

美味しい。

美味しい……。

涙が溢れると、性悪医師が戻ってきて変な声を出した。

お前の発言も全部覚えているからな。7:3野郎。

「痛みがあるんですか?」

「いえ、ごはんが美味しかったので。ありがとうございます。」

医師は私の鞄を持ってきた。

「迎えはまだ用意できないらしく、それまで入院措置をとるようにとのことです。

武器と貴重品はまだ国の管轄です。

うっかり盗まれたり失くしたりすると国の責任になってしまうので。」

意外とちゃんとしていた。


鞄を覗くと、スマホとタブレットパソコンは入っていた。

これは貴重品扱いではないようだ。

「充電は可能ですか?」

電気の国だ、あるはずだろう。

「……コードはありますか?」

充電コードと端末を渡した。

「随分古い型ですね……。お借りしても大丈夫ですか?」

「この荷物も記録に残されているなら。」

医師が舌打ちした。

「病室は全てカメラで撮られています。損害を与えたら私の責任になりますので、大丈夫ですよ。」

トゲのある感じだったが、安全が確認できたし良いだろう。

お任せした。


今日は疲れた。

このまま寝てしまおう。


シャワーは明日借りるか。

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