15日目

目覚ましの電子音に叩き起こされた。


相変わらずごはんがつまらない。

パサパサの栄養ビスケットと栄養ドリンク。

トステさんのごはんたべたい。


屈強な男に連れられて別室に行くと、仕事の内容を説明された。


門番補助をするらしい。

入国者に触れ、魔素を散らしてから入国させる役目だそうだ。

真面目に働けば街に住まわせてくれるという。

「魔女の家に早く行かないといけないんですが。」

「魔女の家!?あんなの人の行くところじゃない。死にたいのか?」

魔女の家は暴風が吹き荒れ、近付くものを八つ裂きにし、あらゆる乗り物を粉砕するそうだ。

……すごい拒否してる。


「国土を広げられない原因の1つだ。」

「もう1つあるんですか?」

「異世界島だな。海流が激しくて近付けん。

行くには魔法学の国を経由しなくてはならんし、その方向には魔女の家がある。」

「私は何故ここに来れたんでしょう……。」

「魔女の家は、この国からの陸路とこの国の船を攻撃するだけだからな。魔力稼働の観光船や輸送船は通れる。」

「電気やエンジンに反応してるんでしょうか?」

「さあな。というか、無駄話が多い!早く着替えて行ってこい!」

げんこつをくらって、半泣きになりながら仕事着を受け取った。

いたい。本格的にいたい。


仕事着を来て言われた場所に向かうと、迷いやすいみたいで、やはり迷った。


何回か道を聞きながらようやく辿り着くと、列になりながら検査されている人達がいた。

入国審査か。


私の服には番号がついており、私は『ZA-01』と呼ばれた。


わーい、いちばんだー。


「ZA-01、こっちだ!」

魔素検査係と、武器検査係が多く並んでいた。

「お前は大量魔素保持者の魔素を奪えるらしいな。」

「散らすだけですが……。触ったりすると魔素がなくなります。」

「部屋を用意したから、指定の魔素保持者の魔素をそこで処理しろ。終わったら魔素を測定し、基準未満なら入国させる。」

「入国後、魔素が回復するのではないですか?」

「この国では魔素は減るだけだ。意図的にそうしない限り絶対に増えん。

出国理由の殆んどが魔素切れだ。」

なるほど。トステさんは魔力が強すぎて入国できなさそうだ。

門は高いところにあり、国内を軽く眺めることができた。

ビル、工場、荒れ気味な住宅街……。道路が縦横無尽にひかれ、蜃気楼も見える。

とにかくめちゃくちゃ空気が悪い。

全体的に黄色く濁って見えた。


忘れていた喘息が、少しずつ出始めた。


あまりのんびりしても怒られるので、言われた部屋に行った。


おい待てよ。


ここに大量魔素保持者が来る?

私はそれを散らす?


ナイフがまだ返されてないから……ハグしろってことか?



1人目のお客様は横綱みたいな人だった。

恐る恐るハグをした。


あ、汗くさい。地獄だ。


10秒ほどで計測器を持った人が私の肩を叩いたので、その程度で良いらしい。

トステさんは数分だったから本当に凄いんだな。

次は若い女性。今度は香水臭い。

「うわ、あせくさ。」

私の汗ではない!


悲しい気持ちで女性をハグした。

地獄の5秒だった。

私はOKが出てすぐに突き飛ばされた。

つらい。もうつらい。

なんだこの強制フリーハグ地獄。


殆んど記憶がない。

昼休憩は相変わらず栄養ビスケット……。

会話なんてする気力もない。

外を散策すると空気が淀んでいて喘息が出る。


私は、生きていけるのだろうか。



助けて。




夜、戻ろうとしたら荷物は全部新しい部屋に移されたようだ。

やる前に何か言えよ。


部屋は6人相部屋だった。

病院などの相部屋のような雰囲気ではなく、カプセルホテルのようにベッドが押し入れに詰め込まれているような部屋だ。

汗臭く、プライベートも薄いカーテン1枚でしか保たれない。

「ZA-01か。おつかれさん。俺はBG-39。ビーサンって呼んでくれ。」

ビーチサンダルかよ。


ビーサンは一番の古株らしく、部屋のメンバーの紹介をしてくれた。

YA-03『ヤーサン』、MO-64『モームス』、XO-22『ソーズ』、PU-80『プーヤン』

「奥の無口なのがYZ-99。お前の1つ前のナンバーだ。」

YZ-99と呼ばれた男は部屋の端で私を見た後に、すぐに身を隠した。

痩せていて黒髪……くらいしか見えなかった。

「あだ名は?」

「つけるとぶちギレんだよ。」

「私もキレるんでつけないでください。」

「ザ・ワンにしようと思ったのに!」

ださい。

キレるのか?と煽られたので殴ってみたが、私の腕力は赤ちゃんレベルなので全く効かなかった。

「よろしくな!わーんちゃん★」

つらい。


あまり嬉しくない面通しを終わらせ、シャワールームへ向かった。


数個先のシャワールームは何やらおふたりで使っている。


細かく描写したくないほどに、治安が地の底を突き抜けている。

助けてくれ。


心を無にして部屋に帰ると、今度はヤーサンとモームスがカーテン内でエンジョイしていた。

間違いなくここは掃き溜めだ。


YZ-99はカーテンを閉めたまま。

こんなところで馴れ合わないだけまだまともか。


いそいそと私のベッドに向かい、カーテンを閉めようとした。

が、ビーサンに捕まる。

待て。

息が荒い。

よせ。

そういう展開とか要らないんだよ。


「まだ初日だからビックリしたろ?

老若男女、ブスでもデブでもガリでも、関係なしにさかってるんだ。」

「そうみたいですね。」

「お前は興奮しないのか?」

「漂流した時の筋肉痛がひどくて。寝かせてもらえますか?」

「おー。寝な。」

案外すんなりと手を離して貰えた。



その夜は最悪なアンサンブルを聞かされた。

YZ-99、同情するよ。







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