13日目


航行3日目。


私は1人で小さな手漕ぎボートに乗っている。


朝方、急に降りるように言われて、ルナくんも抵抗したが……私が居ると魔法学校のある国に辿り着けないらしい。


深夜に港から『船に兵器が積まれている』と、警告が来た。

魔法学の国は、異世界島ほどではないが魔石が多く生えてくる国で、研究も発展している。

そのため、私という異質な存在を見つけてしまったのだ。


船員が朝食を運びながら全部屋の魔素計測をしていたのだが…私の部屋だけが異様に魔素が上下したため、持ち物など全て見られた。

ルナくんだけでも到着して研究者とお話ししてくれれば何とかなるかもしれないと思って、私は正直に体質の話をした。

船長に話が行き、交渉したが、相手がかなり警戒しており『兵器ではない証拠がない。今すぐに降ろさないと攻撃をする』と言われてしまったらしい。

なので船の安全のためにもすぐに降りてほしい、と荷物を纏めてボートに乗ることになった。


手漕ぎボート……。これで漕いでも入国は拒否されるだろう。

船員さんが、魔石コンパスと、地図も渡してくれた。

これで魔女の家まで行けと。

文字は読めないが指をさしてくれたので、そこを覚えた。

魔石コンパスなどすぐに力をなくしそうだが……もう時間がないとあれよあれよと追い出された。


変に抵抗するとルナくんが興奮しかねないので、ルナくんを「大丈夫」と宥めて、「私のことをトステさんの言う人に伝えてほしい」とお願いをして、海に放り出された。


「助けにいくから!魔女の家だよね?」

「うん。地図もコンパスもあるし、頑張るよ。」

ルナくんを落ち着かせるように笑った。

笑えていただろうか。


大きな船が、波をたてて私から離れていった。


コンパスの魔力が切れるまでに、私も向かわねば。

申し訳程度に渡されたフィッシュサンドを頬張って、地図を見る。

コンパスに手をかざすと、デジタルマップのように、自分の位置が矢印で表示された。

これが見えてるうちにできるだけ近づかなきゃ。


ちからいっぱい、漕いでいった。




日が高くなると、矢印はもう消えかかっていた。

漕いでも漕いでも海の中。

腕がつりそうだ。

休みたいけど、コンパスの力が失われそうになっている。

もう少し、もう少しと進める。


そして、ついに途切れた。


ただのちず。


さっきまであったやじるしを……覚えている間に、もう少し……漕ぐ。


しかし、限界だ。

腕が止まった。

岸の影さえ見えない。


泣きそうになった。

海のど真ん中。こんなところで私は遭難して終わるのか。

帰るって約束したのに。

トムさん、ごめんなさい。


なんとなく、海にナイフをつけてみた。

魔素が含まれていたら、コンパスに行かないだろうか?

コンパスに手袋をかぶせ、ナイフで海を切る。


海に、魔素がないのか、この方法ではコンパスに魔素を送れないのか……どちらにしろ、駄目だったことしかわからない。


呆けて、空を見た。

暮れている。



そのまま夜になった。


夜になると、海の端がほんのり明るいことに気づいた。

方向がわかる!

希望に胸を馳せ、そちらへ漕ぎ進んだ。


体はギシギシして、腕もパンパンだ。

だけど、今少しでも岸に近づかないとずっとつかない気がした。



念願の明かりが、私を照らした。

大きな船が、煙をあげて……懐かしいような油の臭いをさせ、警告音を立てた。

私は、地図とコンパスを見えるように掲げた。


船から、小型ボートが1つ落とされた。

「※※※※※※※※!」

翻訳魔法も切れている。

「わたしは、ことばが、わからない!」

私が叫ぶとボートに男が一人乗り込んだ。


タブレットのようなもので何か操作をしている。

「翻訳機がないんですね?異世界人ですか?」

声を、聞けた。翻訳機があるのか。助かった。

私は大きく頭を縦にふった。

これがNOのジェスチャーならもう知らない。

「引っ張ります。揺れますからしっかり捕まって。」



私はその日、トステさんがこの世界で一番嫌いな国に入国した。

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