12日目

航行2日目。


頼んだ通り、野菜メインの朝食が用意された。

ルナくんは不満そうだが、お肉で興奮するのは確かなようなので我慢してもらった。

「私がこんな体質じゃなければ。」

「その体質じゃないとぼくはついていくのだめーっめなったから、それはいいの。到着したらお肉も食べたいし、人間の服も着てみたい。いい?」

「つまり到着後に噛むんだね。」

「かむ!」

「到着後に、宿がちゃんと決まったら良いよ。」

「わーい!がまんがんばる!」

サラダはかなり美味しく、温野菜もたっぷり入っていた。お肉がなくても満足のいく食事だ。

「あ、ルナくんって食べちゃ駄目なものないの?犬っぽいけど、玉ねぎみたいのとか。」

「タマネギー?」

「人間は食べれるけどルナくんはだめなやつとか。」

「見ての通り、今は顔と胴体が人間だから、ないぞーもにんげんなの。だからへーき。」

「全部獣になったりはする?」

「封印壊せばなるよー。」

やはりそうか。

「その時でも特に食べられないものはないかな。

あ、魔素反発体質の生き物をまるごと食べたら死ぬと思う。」

「私か。」

「トステ食べたらパワーアップすると思う。がおーっと。」

「声色に理性的なものを感じてるから、その『がおーっ』があざとい意味でやってることが伝わった。」

「バレたかー。」

最近敬語が抜けてしまうな。いけない。

「じゃあ。落ち着いたら寝ますよ。」

「無理して固い話し方に戻さないでよ。」

「バレたかー。」

けたけたと笑いあいながら、今日は文字の復習をすることにした。

また、あの町に戻りたいから。忘れないようにしなくては。

ルナくんといっしょに本を開いた。

めっちゃ揺れる。

5秒で閉じた。

「駄目だったねー。」

「抱っこして寝ようか。」

この航行は我慢の連続だ。


昼になると、かなり暑い地域で下ろされた。

休憩時間が長いらしい。

ブザーがなってから戻っても余裕があるらしいので、のんびり近くを見ることにした。


砂漠地帯のようだ。

「ルナくん、平気?」

「あぢー。」

船から降りる時に翻訳の腕輪をつけ直した。

乗船中は魔法が切れなかったけど、今後いつ途切れるかわからないし……。


ルナくんが暑そうなので大きめな建物の中に避難した。

観光用の施設だ。

船の休憩時間がどのくらいかもアナウンスされる。

文字がわからないので音声はありがたい。

空調も効いている。

ルナくんは、足の魔珠まじゅをつけ直して、お肉たっぷりのサンドイッチを買いにいった。

えらいぞ。


私はそんなにおなかがすいてなかったので、ベンチでのんびりしていた。

出港してトイレ行きづらくなるまえにいっとこうかな。

「ルナくーん。トイレ行ってくるね。戻ったらまたこの辺に来るから」

「わかったー。」


ルナくんは襲われても返り討ちにしそうだから大丈夫だろう。


トイレも済ませ、無事にベンチに……座ろうとしたら埋まっていた。


仕方なく近場でお土産を眺めながらルナくんを待った。

「お客さん、この魔石のアクセサリー、どうだい?通り魔にあってもナイフがはじかれるよ!」

魔石か……。

「もう少し眺めます……。」

「これなんか意中の相手に好かれるやつで、こっちは興奮してエッチな気分にさせる……。」

「興奮はもうごめんですね。」

うんざりしながら返すと、店員さんは気まずそうに店の奥に戻った。

何か申し訳ない。

魔石系じゃなければ買うけど。

ふと見たら、魔法陣のストラップがあった。

魔力が入ってないのか安価だ。

魔力無しのアイテムなら私が持っていても大丈夫だろう。


辺りを見回すと、換金所もあった。

店の人に魔力なかどうかと値段を確認してから、必要分の宝石を換金してきた。

「ありがとうございましたー!」


あまりお金に余裕もないのでひとつだけ買った。

白い刺繍の魔法陣で、対象者の血をつけた状態で一定の魔力を込めると怪我が治るらしい。



ルナくんが目的のごはんをゲットできたらしく、頬張りながら近づいてきた。

「なんふぁかっふぁほー?」

「飲み込んでから話して。」

「おいしー。」

ごっくんしてから私の手元を見た。

「魔法陣かったのー?」

「ルナくんに。」

「くれるの?ありがとー!」

「怪我をしたら治せるんだって。回復魔法使えたら意味ないかもだけど……。」

「魔力をこめたらつかえるやつだねー。1回で壊れちゃうタイプだけど魔法陣作らなくていい分発動が早いし、臨時には良さそう!」

「ルナくんって白いイメージだからそれに合わせて白にしたんだ。」

「大事にするねー!」

にぱっと明るく笑うルナくんに癒された。

買って良かった。

「じゃあぼくのサンドイッチ、いっこあげる!」

肉まみれサンドイッチを貰った。

到着までに太りそうで怖い。

無発酵パンみたいなのに、スパイスたっぷりの鳥肉が豪快にはさんであった。

とても美味しかった。


サンドイッチを食べ終わり、船に戻ろうとルナくんが足の魔珠まじゅを外していると、乾いた、何かがはぜる音がした。

「あー。ここ、治安悪いんだー。」

銃のようなものを構えた男が何か叫んでいる。

そのうち、乱射し始めたため、ルナくんが男に向かって走り出した。

弾を、着弾前に全部回収したっぽい。

怖い。


男が腰を抜かしていると、ルナくんは男の上着を脱がせて、その上着で腕を縛った。

が、力加減を間違えたようで何かが折れる鈍い…聞きたくない音が聞こえた。

こっちを見てお茶目に舌を出している……いや、笑えませんよ。


ルナくんが駆け寄ってきて、早く船に乗ろうと促した。

ややこしくなる前にすぐ乗ろうと、私も急いで船に向かった




「銃……あれも魔法?」

「ううん、あれは火薬。臭いの嫌い。」

個室の中で落ち着いてから話した。

異世界島があり得ないくらい平和なだけで、外国はこんなものだという。

砂漠の国は宗教の力が強く、神の声を聞く巫女が居るらしい。

観光施設は、渋々巫女が国の維持のために許した施設だが……現地の人にはかなり不評らしい。

この国では魔石は高価なため、持たないものはこの国で多く産出する油や火薬を使うようだ。

「でもお肉サンドは美味しかったね。」

私がいうと、ルナくんも笑って「うん!」と答えた。


食べたあとに軽く運動したせいか、ルナくんは昨日ほど興奮せずに寝てくれた。

私も少し疲れて、そのまま夕食ができるまでルナくんを抱っこして眠った。


夕食はスープとサラダ。

私はこのくらいで充分だが、ルナくんはむくれていた。

「明日は魚料理を頼むよ。それなら野菜よりマシだよね?」

「……うん。」

「明日の昼には船から降りられるよ。そしたら街でたくさん食べようね。」

「うん!!」

ほんとうに素直だな。

頭を撫で、食べ終わったらまたくっついて寝た。


無事に航行が終わりそうで良かった。

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