11日目

トステさんのお手製お弁当と、アンヌちゃんのフルーツジュース、色々はいった魔法ポケット。それをルナくんに持ってもらい、船に向かった。


ルナくんはトステさんから貰ったお金で当日チケットを1枚買い、いっしょに乗り込んだ。


海へ出ると、だんだん島が小さく見える。

「ルナくんはこの船に乗ったことあるの?」

「むかしのったよー。」

そういえば異世界から来たんだった。

「ルナくんは帰りたいって思わないの?」

「ぼくはとすてといっしょがいいの。」

場所より人か。確かにそうかもしれない。


トムさんのくれたチケットは一人用の個室と乗車代チケットで、ルナくんは一人分の乗車代のみだった。

乗車代には朝晩の食事代も含まれているので、私達は昼の心配だけすれば良いようだ。



島が見えなくなったら、私の個室にルナくんを連れていった。

「絶対大きくならないでね。」

「わかったー。」

個室は1人用だ。

今のサイズなら大丈夫だが、人間の大きさになられたらベッドがミチミチになってしまう。


トステさんのお弁当を食べ、アンヌちゃんのジュースを飲んだ。

「ごはんのお供にはお茶が良かったかも。」

ボソッと呟くと、ルナくんが不思議そうに首をかしげた。

「とすてと同じ好みなんだねー。」

「アンヌちゃんのジュースもすごく美味しいから、ごはんの味と混ざるのがもったいないだけだよ。」

「そっかー。いいのといいのは一緒だとめっちゃいいー!ってあんぬ言ってたけど、そうでもないんだねー。」

「人によるよー。好みは。ルナくんもそういうのない?」

ルナくんと話してると、話し方がうつってしまう。

「んーーーー。わかんない。」

食べ終わって眠くなったのか抱きついてきた。

「魔素飛ばされ過ぎないようにね。」

「ぽっけは当たらないようにするー。」

軽くなでながら、少し窓を開けた。

海しか見えないが、潮のかおりが気持ちいい。

「腰が疲れたから横になって良い?」

「じゃあぼく、うえにのっていいー?」

「いいよー。」

のんびり横になりながら航行を楽しんだ。


数時間して、船の休憩のために陸に止まった。

買い物をしたくてもそんなに財産があるわけでもないし、部屋の中に居ようか。

そう思っていたが、ルナくんが興味をもって外を見ていたので外に出ることにした。

「へんなかんじー。」

さっきまで揺られていたから、確かに変な感じだ。

船員さんが慌てて補給している。

大変そうだ。

「エンジンとかどう動かしてるのかな。魔石?」

「うん、魔水や魔石だよー。なんか量間違えたみたいだね。すっごくあせってる。」


船員さんたちは魔石を少なく積みすぎたみたいでたくさん搬入しているようだ。


……。


「ルナくん、私の家はトステさんの特殊な魔法陣ができる前は一晩で魔石、きれかかったよね。」

「あー。」

小声で話しかけた。

これ、私のせいだったらやばい。

次の停泊でもこんなに慌てることになりそうで……。

「停泊所には連絡魔石があるよー。とすてに連絡するー。」

「ありがとうルナさま!」

トステさんへ連絡して貰うと、やはり私が原因の可能性があるそうだ。

転移魔法でトステさんが飛んできた。

「ごめーん!急いでたからその可能性忘れてたー!」

こ、声が大きい。

船員さんがチラチラこちらを見始めている。

トステさんはきっと有名なのだろう。

「航行は3日よね。手袋もってる?」

「はい。」

「それつけてルナの魔素をもぎ取り続けなさい。」

「全裸男になりません?」

「ルナ、魔珠まじゅのつけはずしできるわよね?」

「うん、いくつはずす?」

「2個。それだけあればこの子を魔素で包めるはずよ。全裸男になったら、まあ仕方ないわ。我慢して。」

全裸男と狭い船室でぎゅうぎゅうになりませんように!!

「翻訳魔法の腕輪は使う時以外はずしておきなさい。

ルナなら言葉が通じなくなってもどうにかなるでしょ。」

3日の辛抱か……。


トステさんは船員さんに軽く挨拶をして、魔石運びを手伝った。

ルナくんも手伝っていたが、私はさわるわけにはいかないので暫く眺めていた。

ほんとうに申し訳ない。



落ち着いて、出港再開。

お弁当は食べきってしまったので、また寝ながら過ごそうと思っていたら、ルナくんがポケットから肉の棒を出した。

「船員さんにごほうびで貰ったー。お連れの人にもどうぞって。」

「なにもしてないのに……ありがとう。」

串に刺さった大きめな肉。

トムさんが捌いたやつかな?と考えながら頬張った。

食べ終わるとルナくんは私をじっと見つめていた。

「お肉には魔素、たくさんあるんだ。」

ルナくん、興奮し始めた?

さっき足のたまを二つはずしたのを見ていたので、そっと抱き寄せた。

手袋ごしでももふもふが気持ち良かった。

「興奮すると、どうして首に噛みつくの?」

「何となく。」

ルナくんは口元を首に近づけた。

「まってまってまって。3日耐えないといけないから、ゆっくり、我慢!」

ルナくんは少し唸りながら、肩横に顔をおいた。

いつでも噛める位置だが。

ヒヤヒヤしながら、だっこを続けた。


途中、切符の確認に船員さんが覗きにきたが、

後ろ姿は殆んど犬なので犬好きの客だと思われた。

だっこしながら、二人分のチケットを見せた。

眠気はそんなにないものの、横になって、腕輪もはずした。

暇になってしまい、時々頭をなでながら、背中をポンポンしたりした。


波をかき分ける船の音を聴きながら夜を向かえた。

変にお肉を食べるとまた興奮しかねないので、朝御飯のオーダーを野菜メインにして貰った。

オーダーする時は勿論腕輪はつける。腕輪のつけ外しは忘れそうでこわいな。

失くなったら言葉が通じなくなるし、あまり外さないようにしておこう。


「眠気はどう?」

「ぱっちり。」

かつてないほど興奮している。

「噛まないから、舐めて良い?」

「首を?」

「うん。」

首かー。犬も手や顔を舐めたりするし、そんな感覚かな。

「少しなら良いよ。ずっとだとくすぐったいから、落ち着いたらやめてね。」

「ありがとう。」

案の定めちゃくちゃくすぐったかった。

数分耐えると、満足したのか、甘噛みしたまま眠ってしまった。

あの夜も、ビックリして動かなければ甘噛みだけだったのだろうな。

くっついたまま、少し夜風に当たりつつ、夜を過ごした。


だが、尿意を感じてから地獄だった。

離れたいのに、トイレいく数分くらい離れたいのにルナくんが剥がれない。

「と、といれ!しっこ!いくの!」

「見ててあげるー。」

「絶対嫌です!」

「ウンコでも気にしないよ。」

「気にする!ルナくんは!?おしっこしたくない?」

「そうだねー。行っとこうかな。」

「一緒に、じゃないからね。」

「なんでー。」

すぐ戻るから、と何とか説得して先にトイレに行ってきた。

夜だから他のお客さんにも聞かれたのかもしれない。

恥ずかしい……。

ルナくんがトイレを終えるのを待っていたら、船員さんが見回りにきていた。

「小さいお子さんがいると大変ですね。」

何か勘違いをされたがまあいいか。

簡単に挨拶したらルナくんがトイレを終えて飛び出して抱きついた。

「あ、獣人でしたか。良い旅を。」

船員さんは微妙に失礼な勘違いをしたように見えたが、気のせいだろう。

部屋に戻って話し合って、トイレは素早く済ませる、ということになった。


さすがに見られながらする趣味はない。





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