10日目
いつも通り仕事に出た。
トムさんは何かを考えているようで上の空だ。
とりあえず自分の仕事をこなす。
昼休憩で、トムさんが珍しく外に出かけた。
私はこちらの言葉を復習しながら休憩時間を過ごした。
仕事に戻ろうとしたら、トムさんがチケットのようなものをくれた。
「祝日にたくさん手伝ってくれたのに何のお礼もしてなかったろ。だからこれ。」
船の、チケットだ。
「港に行ったら次の出港が明日らしい。
そのチケットは次の次の出港でも使えるから……急でなくても大丈夫だ。」
「え、でも……。」
「ここのお金は宝石に替えてから行くといい。外国で高値で売れる。……言葉はまた覚え直しになっちまうな。」
「あの……。」
トムさんが悲しいような、優しいような笑顔を作っていた。
それだけでわかった。
私にここにいてほしいと思う気持ちと、早く、元の世界に帰ってほしいと願う気持ち。
「ありがとうございます。今日の仕事、全部やりきらせてください。」
「……いつ、出る?」
「明日に。…………でも、なるべく早く戻ってきます。」
「異世界人は、ここから船で出て戻ってきたやつが殆んど居ないんだ。」
「トステさんたちは?」
「だから、『殆んど』だ。」
トムさんの笑顔に、泣きそうになりながら、倉庫の掃除に向かった。
その日は全ての道具を全部手入れして……。
こっそりトムさんに手紙を書いて事務机に入れてから仕事場を出た。
ギリギリ開いていたお店で、保存食や宝石を買い漁った。
魔石は魔力が飛んでしまうので魔力が関係ないものを選んだ。
港への道も見つけたので、港に向かった。
覚えたての数字をメモしながら時間を確認する。
明日の、夜明けには出るのか。
今夜すぐに準備しなくては。
急だけどちょうどいいや。
手紙は簡単に、使えるようになった言葉を組み合わせた。
『トムさんへ
ほんとうに ありがとうございます。
ぜったい、またかえってきます。
このまちで、トムさんのことが いちばんすきです。』
暫く離れると思うと涙が溢れた。
数日しか居ないのに。
不思議だ。何年も帰れない気がしてくる。
無事にいけば、3日ほど船に乗って魔法学校のある国につく。
そうしたら研究所で話を聞き、指示に従えば帰れるらしい。
帰る目処がついたら一度この島に戻る予定だ。
潮風で涙が乾いたのを確認して、帰宅した。
トステさんたちは驚いたけど、頑張っておいでと元気をくれた。
朝にお弁当もくれるらしい。
アンヌちゃんは国ごとの宝石の相場を教えてくれた。
それより安ければ絶対に売るなと。
細かく紙に書いてくれた。
すごく助かる。
「この島を出ると一気に魔素が減るわ。1人は危険だと思う、ルナ……。」
「駄目ですよ。1人でいきます。」
「翻訳魔法が切れた時に魔素供給ができるわよ?」
それは、大切だ。
ルナくんを見ると、やる気満々のようだ。
「まもるー!」
「すみません、大切な家族みたいな存在なのに離してしまうなんて。」
トステさんが背中を強く叩いた。
いたい。
この世界の人、すぐ叩く。
「あなたも大切よ。だから必ずルナを返しに戻ってきてね。」
トステさんたち以外は島に戻らずに帰ってしまったという。
きっと何かあるのだろうけど……最優先でここに戻ろう。
出港に間に合うように、準備を進めた。
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