4日目

今日は初めての仕事の日。

前日に貰った目覚まし時計で起きた。

時計は魔力式とカラクリがあるらしい。

カラクリの方はかなりお高いとのことで、魔力式にしてもらった。


時間が来ると鈴がなるのだが、鈴が鳴る前に起きてしまった。


水魔石の器で顔を洗った。

やはり魔法は何度見ても感動してしまう。

周りの水分を集めているのだろうか?

軽く着替えて、トステさんたちの家にごはんを食べに行った。


「おはようございます。」

挨拶をすると、トステさんもアンヌちゃんもポカンと口を開けていた。

あれ?なにか間違ったかな?

不安になっていたらルナくんが声を上げた。

「*******ー?」

あ。翻訳魔法が切れたのか。

トステさんは私に翻訳魔法をかけ直した。

「あなた……もしかして魔素を反発する体質かもしれないわ。

普通なら翻訳魔法は短くても7日もつもの。」

2日で切れてしまうということは……

「半分未満の効力しかないみたいね。翻訳に関してはまた考えておくわ。

今日は仕事よね?」

「はい。あの……この町は電気のかわりに魔法がメインで……ってことは、仕事場の魔法は平気なのでしょうか?」

「大丈夫よ。」

トステさんの話では、魔素は生物全ての身体に入っており、屠殺場の魔法陣はその生き物……命から出る魔素で動くので仕事中に途切れることはないらしい。

良かった。

「この異世界島は空間が不安定なんだけど、そのせいか魔素に包まれているの。中央にある火山からの噴石は上質な魔石、溢れる地下水は魔水。森の全てが魔素に溢れているわ。」

魔水、あ。

「トステさんたちに会った場所のあの小川も?」

「魔水よ。飲んだ?」

「はい。ボトルにも入れていたのを思い出しました。」

「……魔水を飲んでもこんなに早く切れちゃうのね……ならたまに飲まないと。下手すると翻訳魔法が1日で切れてしまうかもしれないから。」

出掛ける前に飲んでおこう。汲んでおいて良かった。

……まてよ?到着初日は小石のベッドで寝ていたけど……あれが魔石だったとすると……あれの恩恵があってもこんなに魔法が効かない体質だってことか?


少し落ち込みながら仕事に向かった。



仕事場の雇用主はトムさんという、白髪の無精髭が生えたムキムキなおじさんだった。

簡単に挨拶すると、豪快に笑いながら掃除や小物の手入れのしかたを教えてくれた。

一通り朝の掃除を終えると、トムさんが弱った怪鳥や獣の檻の入った倉庫を見せてくれた。

「倉庫の床下に魔素吸収の陣がひかれていて、これが町の公的な灯りや空調に使われている。

倉庫にはいる時は必ずこの長靴と手袋を着用すること。魔素抜かれて弱っちまうからな。」

魔素反発っていう私の体質だと、抜く魔素もないのでは?

トムさんにトステさんの話を伝えると、目を丸くした。

「魔水飲んでもトステさんの魔法が2日で切れちまうのか?そいつはやばい。

普通の店だと大騒ぎされるところだったな。」

バンバン肩を叩かれた。つよい。

「しかし、前来た異世界人は屠殺場の意味を聞いただけで震えてたから、アンタには驚いたよ。

取り敢えず捌いてくから、今日は観察と掃除だけで。少しずつ仕事増やしていくよ。」

優しい人で良かった。

マスクをつけ、見たことの無い獣たちが捌かれるのを眺めた。

内蔵や肉を物珍しげに見ていると、トムさんは得意気に説明してくれた。

私もそれを楽しんで聞いた。

トムさんの調子が良く、早めに仕事が終わったので倉庫の掃除方法も教わることになった。

弱っているとはいえ、人を襲う獣。

一定の距離を保って掃除をした。

掃除を終える時、ふと気になった。


魔素を抜かれる……私なら元々無いからいけるんじゃ?

試してみたいとお願いした。

「じゃあ……入り口のここまでな。

少しでも変化があったらすぐに出ろ。」

「ありがとうございます。」

いそいそと靴を履き替え、そっと立ち入った。

特に……。変化はない。

「大丈夫っぽいです。」

だが、トムさんが慌てて私を担いで外に出した。

「******!トステ********!」

あー。かけられた魔法が解けてしまうのか。

トムさんに頭を下げ、ジェスチャーで帰る仕草を見せた。

通じたようで、今日はこのまま帰ることになった。

仕事の最後にしておいて良かった。


帰宅後、トステさんに叱られてしまった。

何度も魔法をかけ直させてしまって申し訳ない。


「万が一魔素反発じゃなくて異様に魔素が低いだけの体なら死んでたかもしれないわよ!バカなの!?自分を大切になさい!!」

説教をされ、しゅんとしていたら頭を撫でられた。

やはり子供扱いをされている。


ただ、今日で私の体質がはっきりした。

小屋の魔法陣や魔石も私が一晩使っただけでほとんど魔力を失ってしまったらしい。

「消えるというか、霧散した感じね……。魔素収集の陣をここに作って循環させればなんとかいけそう。」

トステさんはぶつぶついったあとに小屋をまた改築してくれた。

そのご恩も、そっと手帳に書き足した。







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