3日目
朝起きると、いい匂いがした。
卵焼きの匂い、パンのかおり。
食卓へ顔を出すと、トステさんたちが笑顔で空いてる席に座らせてくれた。
しかし、目玉焼きが苦手なのでそれだけ説明すると、ルナくんが目玉焼きだけ食べてくれた。
「何もしてないのにすみません。」
謝っても「いいのよ」とスープを渡されるだけで……ふかふかのパンとスープが忘れられない。
お腹を満たしたらトステさんに案内されながら町を歩くことになった。
仕事を見つけなければ。
昨日の服はアンヌちゃんが洗ってくれているらしく、トステさんは緩めの服をくれた。
それでもきつかったのでアンヌちゃんが洗った服を急ぎで風魔法で乾かしてくれた。
ズボンが色落ちしていたが、元々服にこだわっていないので言及せずに履いた。
アンヌちゃんが気づいてしまったらしく慌てていたが、「大丈夫」と伝えた。
昨日は夕方だったため、爽やかな朝の町を見て改めて違う世界にいるのだと実感した。
洗濯物が建物同士の間にかかっている。
「外国で見たことがある。」
「そっちにもこの景色があるのねー。」
談笑しながら、最初についたのは服屋。
またお金を払ってもらうことになって、身が縮こまってしまった。
「服屋で働くのはどう?」
「合わないかもしれないです。」
「そう。字は書けないし……画業はこの町では生活につながらないだろうし。小料理屋をまわろうか。」
魚料理の店、肉料理の店、ヘルシー思考の店、パン屋……。
一通り見て、昨日のお店がいいと話した。
だが、そこは人手は足りているらしい。
悩んでいたら、子供がリヤカーをおして通り過ぎていった。
荷台に掃除用具を乗せている。
「あ、掃除好きです。トイレ掃除とか。」
「臭いわよ?」
「臭いから綺麗になると嬉しいんです。」
トステさんは悩んだあとに私を屠殺場に連れていった。
入り口から血の匂いがする。
「…出会った時のルナくんを思い出してしまいました。」
「怖がってたからここは避けようと思ってたの。」
「そのつもりなら問題ないです。」
急だと驚くが、わかっているならショックは少ない。それをうまく説明できなかったみたいで、なんだかトステさんは不思議な顔をしていた。
この場所は
「働けるならここがいいです。」
トステさんがまた変な顔をした。が、話を通してくれた。
明日からこの屠殺場の補助をさせてもらえるそうだ。働き具合を見てから給料を出してくれるという。
たくさん稼いで、そしたらトステさんにお金返して、元の世界に戻ろう。
わくわくして、目が輝いていたため、屠殺場のおじさんも変な顔で見ていた。
……生き物を殺す趣味とかはないです。
帰宅後、買ってきた服を確認したら結構な数だった。
トステさんに値段を聞くも、答えてくれないので手帳にして貰ったことを全部書き留めることにした。
値段は後日服屋で見よう。
「家を借りるとまたお金がすごいだろうし。
アンヌ、もう暫く良いわよね。」
アンヌちゃんは一瞬顔を曇らせた。
「私、納屋で良いですよ。」
トステさんもアンヌちゃんも慌てて止めた。
「とすて、小屋作ろうよー。ぼく丸太たくさんとってきてあげる。」
「そうねー。異世界人泊めることはこれからも多そうだし。今のところこの子みたいなおとなしいのばかりだけど……そのうちエロガキが来るかもしれないしね。」
また子供扱いされた。
午後は、小屋作りのために材料を運ぶことになった。
私は地図を貰って大工さんに錆びた釘を貰う係、ルナくんは材木集め、トステさんは建てる場所の整地。
魔法って便利だなー。
錆びた釘の山は魔法で還元され、丸太はあっという間に板材に。
岩魔法で土台を簡単につくると、あれよあれよと板が踊りながら組み立っていく。
数分で小さな木造の小屋ができた。
「トステさんって魔法使いの中でもすごいひとなんですか?」
アンヌちゃんがそれを聞いて、苦々しく頷いた。
「怪物クラスよ。ルナの封印もあいつがやったんだし。」
「ルナくんの封印?あの耳とかについてる宝石ですか?」
アンヌちゃんは、それがある限りはルナくんはおとなしいと言ってたけど……何だろう。それがないとどんな感じになるんだろう。
雑談している間に簡単な家具も作ってくれたようで。
トステさんが得意気に小屋の中を紹介してくれた。
「鍵付きドアをあけたら、木のベッド……あとで布団と毛布を出すわね!床下に空間安定の魔法陣がひいてあるから夜が寒くても凍えないわ。
簡単なテーブルと、こっちが水魔石の器……あなたの世界の水道ね。石の魔素で水が出るから、魔力無くても動くわよ。」
手をかざすと器の中にに水が生まれた。
「魔素切れを起こすと水が減るから、その度に声掛けしてね。トイレとお風呂、キッチンは私たちの家のを使って。」
「ありがとうございます。」
これはいくら払えばいいのだろう。
とりあえず手帳にメモを残した。
「あなたが帰ったら客用の小屋として使うから遠慮しないで。」
背中をパンと叩かれ、ビックリしたが、好意に甘えることにした。
ここ3日間、ずっと動きっぱなしのためすぐに眠気が襲ってきた。
「すみません……晩御飯、食べられないかもしれません。」
「あら?体調不良?大丈夫?」
「体力不足です……。食欲より眠気が勝っちゃって。」
「なら少しでいいから食べなさい。動いたら食べる!本当に無理そうなら寝ていいけど……生活習慣は大切よ。」
言われたとおり、スープだけでもいただこうと食卓についた。
すると、あまりに美味しくて、結局普通に食べてしまった。
トステさんって見た目は若く見えるけど……たまに田舎のおばちゃんみたいな感じになるなぁ。
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