2日目
2日目は特に色々あったので会話とかは覚えてる範囲で適当に誤魔化して書く。
2度と味わいたくない朝だった。
小石のベッドで寝てから何時間たったろう。
空が白んできた。
何時かわからないけど一度体を起こした。
腕に小石の跡がついている。
痛くてたまらない。気温もかなり下がってつらい。
仕方なく荷物をもう一度まとめて移動する準備をした。
息を吸えば少し冷たい空気を感じるが…喉も乾いたしお腹もすいた。
耳を澄ませると、少しだけ水音が聞こえた気がした。
もう1度目を閉じ、静かに耳を傾けた。
やはり水音がする。
まず、水を飲まねば。
体力は限界だが、水音の方向に移動することにした。
体がギシギシいうし、こんな悪環境では腰痛も再発してしまいそうだ。
一刻も早くまともな場所で横になりたい。
へとへとになりながら水音の正体にたどり着いた。
小川というにも小さすぎる水流。
飲んでもいいかわからないが、もう喉が限界だ。
少し手で掬ってみると透き通っている。
恐る恐る飲むと冷たくておいしかった。
飲み終わったゼリー飲料のカラとレモンライムソーダの缶を軽くすすいで水を入れた。
これで今日の水分はどうにかなるといいな。
歩く前に近くに腰かけて休むことにした。
朝露でお尻が濡れてしまいそうだ。
地面ではなく、やや大きめのちょうどよさそうな岩の上に座った。
背中側にもう一度リュックを置き、体重を預けて目を閉じた。
寝れはしないが少しだけ休まる気がする。
草の音が近づき、驚いて振り向いたら…最悪なことに何らかの獣がこちらを睨んでいた。
目が鋭く、犬くらいの大きさで黒くて毛むくじゃらだ。
水を飲みに来たのだろうか。
全力で逃げたいが背を向けるのも怖くて、ゆっくり獣を見ながら距離を広げていった。
脂汗が気持ちが悪い。
どうしてこんなことになったんだろう。
泣きそうになりながら、ゆっくりゆっくり。
しかし、湿った砂利に足滑らせて視界が回った。
転びはしなかったが獣から目を離してしまった。
その途端、獣は私に向かって突進した。
私は
獣は日傘に当たると、犬のような声を上げて私から離れた。
だが、まだ突進できる位置でずっと睨んでいる。
やめてくれ、私は体育の成績が最悪なんだ。
とにかく運動センスがない。反射神経も体幹もダメ。それに喘息と腰痛を患っていて持久力が無く、激しい運動もできない。
なんだこのゴミステータス。
こんな悪夢のような意味の分からないところに急にとばされるなんて。
運も尽きているし、正直頭の回転だって良くない。
頭が良かったらここに来てすぐに火をおこせている。
どうせなら転生して最強ステータスで綺麗な顔立ちになってウハウハしたかったな。
ため息をついて開いたままの日傘を構えてしばらく獣と睨み合っていた。
いちど獣とぶつかっているせいで傘は歪んでいる。
次、耐えられるかはわからない。
「ルナ!*****!?」
女性の声が聞こえた。
草をかき分ける激しい音が鳴ったと思うと、目の前の獣が小さな影にかみつかれて悲鳴を上げた。
ぶちぶちと肉の剥がれる音がなり、血しぶきが上がった。
獣の断末魔がおさまると、小さな影が口でひきちぎったもの―恐らく毛皮だろうか…を吐き捨てた。
「とすてー **ー。」
影は後ろを見て何か言った。
まずい。言葉がわからない。
昨日からなんとなく思っていたけど、私は日本じゃないどこか…どころか漫画とか小説でよく見るあの…異世界的なやつに転移的なやつとかしているのか?
日が上がり、血みどろの獣のあたりに日が差した。
私の愚かな考えが正しいと言わんばかりに、その陽だまりに立っていたのは小さい中型犬のような大きさの白い髪の少年…?のような…。
頭の上に犬の耳、ふかふかの大きな白い尻尾を持った…見たことのない小さなヒトのようなイヌのような存在がいた。
「**?*~*******。」
女性の声の主は焦げ茶色のウェーブがかかった髪で…耳の長い…人?だった。
「ルナ、*******?」
「****~。」
一部、名前だと思われる部分だけ聞き取れる気がする。
「すみません、日本人です。ことば、わかりません。
アイムジャパニーズ。 アイドントノウ ユア…えーっと…ワード?」
ゆっくり声を出してみた。
緊張したが、ちゃんと声を出せてよかった。
小さな白い犬少年は、口元を血だらけにしたまま笑った。
純粋にこわい。
耳の長い女性は慌てて犬少年の口元をふき、笑顔でぺこぺこしている。
「***、*********。********!」
何か言うと、女性は手で空中に何かを描き始めた。
じんわりと指先が光り、その軌跡が魔法陣のように残っている。
信じられない光景を見て、さぞかし間抜けな顔をしていただろう。
魔法陣が完成すると、1つの光となって女性の喉に集まった。
「あー。 どう?」
「ど、う…?」
日本語に聞こえた気がした。
「とすてー***!」
「まってなさいルナ。私があの人に翻訳魔法をかけた方が早いから。
説明するために先に私に魔法をかけたのよ。
…ごめん、私はトステ、こいつはルナ。」
女性はトステと名乗った。犬少年はルナというらしい。
犬少年―ルナの耳や首もと等に丸い宝石がたくさんついていた。
綺麗なので眺めていたが、まだ血の香りがするので少し離れた。
そのあとトステさんに魔法をかけてもらい、ルナ…くん?とも話せるようになった。
定期的に魔法をかけてもらわないと翻訳効果も消えてしまうらしく、今日はお世話をしてもらうことになった。
それじゃ悪いからと自分の荷物から何かいいものがあったら貰ってほしいと話しながら、町へ向かった。
森を抜けてすぐに町が見えた。
舗装のされてない道と、木造やレンガ作りの建物、素朴な服をきた人たちが物珍し気に近づいて、口々にトステさんに話しかけていた。
翻訳魔法をかけてもらっても、多すぎて覚えていられない。
のどが渇いて死にそうなのを伝えると、トステさんは笑顔で私を店に連れて行った。
氷の入った水が出てきて驚くと、トステさんは青く光る厨房を指さして教えてくれた。
日常生活に魔法が混ざっているようだ。
電気は無いらしい。
「私の荷物に……電気で動くものがあるのですが。」
トステさんにスマホやタブレットパソコンを見せると、少し考えこんだ。
「海を渡った先、汚れた海の上に電気と機械で暮らす国があるわ。そこで働けば充電もできると思う。…だけど私あの国嫌いなのよねー。純人間以外を見下してくるし。」
そう聞くとできれば私もそこに行きたくないが、充電はしたい。
「発電機のようなものを買えるくらい働いたらここに戻って暮らす、というのもできますか?私は魔法をもっと見たいので。」
トステさんは表情を曇らせて断った。
「発電機って臭い油を燃やすやつでしょ。そんなものこの村でずっと使われちゃ困るわよ。ここで暮らしたいなら電気生活は捨てなさい。」
魔法もあるし、それもいいかもしれない。
「それに、元の世界に戻りたいんでしょ?」
「はい。」
それなら、とトステさんが羽ペンで簡単に地図を描いてくれた。
この世界の地図、私が行くべき場所、今いる場所が記された。
異世界転移の漫画とかの話は簡単に元の世界に戻れないものが多いので、こんなにトントン話が進むと思っていなかった。
トステさん曰く、私が来たここが異世界島とよばれていて…定期的に異世界人が飛んでくるらしい。
だから散歩ついでに毎朝森を歩いているそうだ。
戻るためには元の世界に関するものを持って、大きな魔法学校のある国にいけば詳しい事がわかるそうだ。
そのためにはお金がいるので、わたらなきゃいけない国と、航路を覚えて、それにかかるお金を教えてもらった。
ちょうど仕事道具でいろいろ筆記具と、ちょっとした仕事のものを持っていたので、そこから白い紙をだしてやることリストを描きだした。
「いまチラっとみえた絵ってあなたの絵?」
トステさんが興味を持ってくれたので仕事の作品を少し見せた。
青やピンクのシャーペンで下書きをし、黒いシャーペンで整えた背景画。
私の仕事は絵を描く仕事と飲食業の接客だったと伝えた。
「あらいいじゃない。私に何かくれるって言ってたけど、これ貰っていい?」
「あ…向こうに戻れたらこっちは納品に使うので… でもすぐは戻れないんですよね?」
「あなたは時空を越えてきたのよ。空間だけじゃなくて時間も越えてきている。過去は難しいけれど、飛ばされたちょうどその時間に戻るのならできるわ。時差があっても数分程度よ。」
「じゃあ、仕事に遅刻しないで済むんですね。」
トステさんは笑いながら頭をなでてくれた。
私はけっこう年齢いってるはずなのに…子供にでも見えたのだろうか?
トステさんに、作画済みでもう使わない下書きを選んで渡すと、思った以上に喜んでもらえた。
「私のことも描いてもらえるかしら?」
「ルナもー!!」
犬少年が急に元気になって跳ね上がった。
動くたびに血の匂いがするのでまだ怖い。
「イラストになっちゃっていいなら。」
簡単に描いて渡すと、2人は喜んで受け取ってくれた。
こんなもので本当にお礼になるのだろうか。
そのあと、料理までおごってくれて申し訳ない気分になったので、1万円を取り出してトステさんに渡した。
「私の世界のお金ですが…。1万円…向こうの世界の宿代とご飯代くらいになります。」
ちょっと安すぎたかな?とおもったが、トステさんは笑顔で受け取ってくれた。
「なら!そっちの硬貨一個ずつもらうってのでもいい?これが一番高いお金?」
「はい。あとは1000円…500円…。あ、おさつには5000円札もあるんですが今もってないので出せないです。」
財布に入っていたお金…500円は綺麗な元年のものをお守りのように持っていた分しかなかった。
少し躊躇したが…命を救ってくれた相手だ。
喜んでもらえるなら渡そうと思って並べた。
「1万円を出す時より500円を出すときのほうがちょっと嫌がったわね。」
「……ここ、の製造の年が…ちょっと貴重なやつで…。」
「じゃあいいわよ。見たかっただけだから。1万円をもらってあげる!」
何もかも本当に申し訳ない。
「それにしてもニホンジンって何回も来てるけど、お札の顔が変わってたりして面白いわね!」
顔が違うということは、前の日本人が来てからけっこうたっているのか。
頂いた食事はスペイン風で、とても美味しかった。
昨日はゼリー飲料と飲み物だけだったので胃が弱っていて全部は食べきれなかったが、魔法のポケットというものにつめてもらった。
そして、トステさんの家に連れて帰ってもらった。
家には黒髪の、アンヌという女の子が1人いて、帰るなりトステさんと軽く口論になった。が、私がいるのを見てすぐに作り笑いで迎えてくれた。
知らない人が急に来たのだから気分が悪いのかもしれない。
お風呂を頂いて、こちらの世界の服を貸してもらって…リビングらしい場所で髪を乾かしていたら、ルナくんがそわそわ近づいてきた。
犬の大きさで人間の顔と胴体の…よく見たら手足も犬…。
見れば見るほど不思議な感じがした。
「もうこわくない?ぼく、血、あらってきた。」
怖がっていたのがバレていたようだ。申し訳ない。
怖くないというとルナくんは喜んでしっぽを振りながら傍に来た。
これは見たことがあるぞ、猫が撫でてほしいときに見せる頭の角度だ。
撫でると、気持ちよさそうにしたので、しばらくモフモフした。
すると、トステさんと喧嘩していたアンヌちゃんがおずおずと紙を持ってきた。
トステさんにあげたような絵が欲しいらしい。
時間はのんびりあったのでルナくんのしっぽに癒されながらゆっくり描いて渡した。
「勝手に男だと思っていたけど、ルナくんって男?」
「そうだよ~。一緒に寝ていい?」
「いつもはトステさんやアンヌちゃんと寝ているの?」
「うん。」
「じゃあきみはいつも通り寝てもらって…私は空いてるところならどこでも寝られるので…大丈夫ならあそこで寝ますよ。」
指をさした場所は大き目の木箱が並ぶ納屋のような所だ。
その中に特に大きく頑丈そうな木箱がある。あそこなら寝るのにちょうどよさそうだ。
「あの木箱は頑丈そうなので、あそこで寝ていいなら…。」
「いや、確かにあなたが乗れるくらい頑丈だけど…木箱よ!?痛くない!?」
アンヌちゃんが大きな声を上げた。
「昨日は小石の上で寝たのであのくらいなら…それに向こうでもよく床で寝ていたので…。」
「ベッドで寝なさいよ!私は細いから一緒に寝てもいいわよ!?」
なんか急にモテ始めた気がしてちょっとうれしい。
「腰痛もちで…程よく硬いところの方が気持ちいいんです…。毛布と枕になるものがあればもうそれで最高です。」
「大変なのね…。トステに聞いてくるわ。」
アンヌちゃんがトステさんに聞くと、もともと寝かす場所は決めていたみたいで、アンヌちゃんの部屋にお世話になることになった。
「見ず知らずの私ですよ?こんな若い女の子、襲ってしまうかもしれませんよ?」
「襲うの?」
「襲いませんが。」
トステさんはケラケラ笑った後にアンヌちゃんと軽く話をして、私をアンヌちゃんの部屋に置いていった。
ルナくんは俵のようにトステさんに担がれていった。
モフモフ…明日もさせてもらえるといいが。
朝はひどい目にあったが、本当にいい人が拾ってくれてよかった。
明日から仕事を探さないと。
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