1日目(8月20日)
何とか良い場所でお仕事をいただけるようになった。
最近身体の調子が悪く心配だ。
この駅で電車に乗って……向こうで少しごはんを食べよう。
ちゃんと食べて体力作ってしっかり仕事せねば。
しかし、かなり暑い。
家から出る時、玄関の鉄ドア越しでもわかるほどの暑さだった。
熱中症が怖くて冷やしたゼリー飲料を持って来た。
電車はまだみたいだから飲んでしまうか。
私の荷物はいつも多い。
忘れ物が多く、なんでも詰め込め精神でぶっこんでるせいだ。
大きめの防水リュック、日傘(無いと死ぬ)、仕事道具入りの肩掛けカバン、貴重品の入ったウエストポーチ。
仕事道具は紙と筆記具、タブレットパソコン。
たまにバイトをする時だけ制服も持ち歩いているが、今日は無い。
この日、うっかり入れっぱなしにしておけば役に立ったかもしれないな。
電車は、来なかった。
それどころか人も居ない。
私だけしか居ない。
一応都会なのに珍しい。
暑く、日はギラギラしていた。
時計を見たら針が扇風機みたいに回っていた。
ゾッとしてスマホを見ると、1分も進んでいない。
白昼夢かと思った。
それにしては喉が乾くし汗も滝のようにながれている。
何でも良いから飲まねば。
スポーツドリンクでも買うか。
しかし、自販機はスポーツドリンクだけ売り切れている。
仕方なくレモンライムソーダを買った。
小気味良い音を立て自販機の中に目的のジュースが落ちた。
飲み物を開けて飲もうとした時、足元が消えた。
変な声を上げ、こぼれそうな飲み物を口に押し付けて耐えた。
浮遊感は数秒で終わり、衝撃もなかった。
地面に足がつく感触と音。
駅のホームにいたはずなのに足下が土になっていた。
いつまで夢を見ているのかわからない感覚。
駅だからきっと倒れたら運ばれているだろう。
飲み物が鼻に少し入り込み、
飲み物を無事にこぼさずいられたのはいいが、かなり異常な状態だ。
森、森、森。
見渡しても森しか見えない。
さっきまで駅のホームにいたのに。
見上げると、奇怪な声を出す巨大な鳥が空を飛んでいた。
遠くて正確な姿はわからないが、見たことのない形で、かなり大きい事だけはわかる。
少なくともカモメよりも遥かに……いや、羽を除いても人間より大きい。
ニュースになるレベルだ。プテラノドンがいたらあんな大きさだろうか。
正気に戻ろうと頬に飲み物を当てたが、冷たいだけだ。
声を出しても情けない声しかでない。
気温は……都内より全然良い。
というか涼しい。なんだこれ。夏の気温じゃない。急にそんなことあるか?
少しひんやりした気持ちの良い風。
だが、知らない花に知らない木。
変なキノコも生えている。
アマゾン?外国?
スマホで軽く写真を撮り、すぐに電源を落とした。
そして何となく自分のいる場所に日傘でバツ印をつけた。
これだけではすぐ消えそうだ。
見回すと小石がたまに落ちているので、一旦日傘をおいて石をいくつか集めては自分のいた場所に集め始めた。
自分でもうまく説明はできないが、状況が全く理解できないから無意味にでも手を動かしたかったのだろう。
ある程度立ってた場所に石を置き終わったあたりで急に怖くなった。
スマホをもう一度つける。
時刻は止まったままで、詳細な内容は見られるし、写真も残っている。
感触も視界もクリアで夢とは思えない。
夢としか思えないのに夢と思えない……なんだこれ。
さっきからなんだこれとしか言えないのだが、本当にそうなのだから仕方ない。
おしゃれな言い回しなど思い付かない。
国語の成績は悪いのだ。
とにかく何もかもがわからないけど、夢でないとしたらあの変な大きい鳥とかに襲われるかもしれない。
集めた石のそばの木に一旦荷物を置こう。
そうだ。いつ大雨が降って良いように、リュックの中に被せるための大きめの頑丈なビニールを入れていた。
取り出して広げ、その上に荷物を置いた。
次は座る場所だ。
迷わないように近場で何か無いか探した。
枝、葉っぱ、土、変な虫、変なキノコ、謎の鳥。
目ぼしいものは何もない。
むしろ見慣れたものさえない。
木の幹の感触さえ形容しがたい感触だった。
初体験だ。
何となくまた小石を集めて、最初の場所にバラバラと乗せていった。
ある程度で疲れてしまい、木の傍に置いた荷物を小石を集めた場所にうつして、小石の山の上に座って休むことにした。
危なくなるまでは動かずにいよう。
そのまま、石を集めて休んでを繰り返すと日が沈み、夜がきて、真っ暗になった。
かなりの小石が集まったので軽く横になれそうだ。
虫が怖いが腰痛も怖い。
小石のベッドの上で横になった。
予想以上に痛い。
全身ツボ押しされてるみたいだ。
肩掛けカバンから潰れては困るものを取り出して、頭の位置に置いた。
折り畳み傘がなぜか二つあったので日傘と合わせて三つ、開いて立てて、何となく壁がわりにした。
星も見える。
詳しければ現在地とかわかるのに。
不安な気持ちのまま、傘に囲まれて横になった。
眠れそうにないが、暗い所を歩き回るわけにも行かない。
明日は高いところでも探そうか。
空気が綺麗なお陰で持病の喘息はおこらずにすんだ。
腰をきちんと伸ばして、腰痛が再発しないようにせねば。
こんなタイミングで動けなくなれば確実に死ぬ。
冷やさないように、腰の下にも潰れても良さそうな荷物を選んでひいた。
トイレは……仕方ない。
したくなったら穴をほろう。
石だけはすごく集めたから中くらいのやつで掘ろう。
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