「出撃!彼岸フォーム!!」

「なんだよその彼岸ナンタラって」

 と聞くと、まーちゃんが振り返ってまくし立てるように

「彼岸フォームってのはな!彼岸の技術を総動員した最新鋭のフォームじゃ!使うと身体能力を何倍も引き出す事もできるし自分だけ時間の概念を引き伸ばして高速で移動できたり、さらに頭の回転も1.45倍(当社調べ)になる!私たちの最高傑作じゃ!これを作るのにも色んな過程があってな…最近の情勢とか」

「あ〜…もう分かった。大丈夫。」

 話が暴走する前に止められて良かった。とりあえずなんかパワーアップするんだな、子供の時に見た特撮ヒーローみたいに。

 いい所だったのに〜、と話すまーちゃん。どうやら本当に手のかかったものらしい。

 …今はそんなことより

「で、どうやってそのフォームとやらを出すんだ?まさかポーズとか決めて『変身!』って言うわけじゃないだろ?」

「おお、よく分かっておるな、だいたいその通りじゃ。」

「…まじか」

「正しくは『要請!彼岸フォーム!!』じゃな、ちゃんと右手を天に掲げて言うんじゃぞ」

「…」

 今はまだいい、真夜中だし人通りも少ないし。

 だけどこれをもし人のいる前でやったら赤っ恥所ではないだろう。研修期間終わる前に死ぬ。

「ほれ、早くせんと尊い子供の命が失われるぞ。」

「わ、わかってるよ!」

 背に腹は変えられない。覚悟を決めろーー。


「要請!彼岸フォーーーーム!!!」


 そう叫んだ途端、まーちゃんがいなくなり


 脳裏に浮かんだイメージ…



「彼岸フォーム要請確認!壱番から六番まで彼岸フェーズ解放!」

「第八までセット確認、テンカウント!」

「閻魔様!承認許可を!」

 …なんかアニメで見たことある。

 恐らく艦橋だか基地の司令部みたいなところでよく分からない言葉を羅列してくやつが頭の中で強制的に流されていた。

 そして1番上の段にはー。


「…承認」

 まーちゃんがいた。いや、初めて会った時の姿だから『閻魔』と言った方が正しいだろうか。その閻魔様が腕を組んで仁王立ちしていた…。謎の向かい風付きで。



 急速に意識が現実に戻る。

 上に突き上げた右腕に金色の雷が落ち、徐々に全身に伝っていく。

「うおおおおおおお!?」

 そしてさらに輝きを増し、最大限の光を放つ。

 そこには全身に輝く黄昏色の鎧ー。


「あれ?」

 はなかった。

 パッと見、何も変わってない。

「どうじゃ!うちの最高傑作彼岸フォームは!?」

「…これ不良品じゃね?」

 はあああああああああああ!?まーちゃんが怒りを顕にする。

「よく見い!この周りから出るオーラ!これが彼岸のオーラじゃ!見えるじゃろ!?」

 …目を細めて見るとほんとびみょ〜に黄昏色のオーラが出てる…気がする。せっかくだからもっと分かりやすくしてもいいのに…野菜人みたいに。

「そのオーラで色々な力を使えるようにするんじゃが…詳しい話は後でいいか。」

「後でいいかって…」

「ほれ、それよりも上、もう落ちて来とるぞ」

「は!?それをもっと早く…って」

 確かに少年は飛び降りていた。のだが、

「…なんかゆっくりじゃね?」

 パラシュートを着けて降下するみたいにゆっくりと降りてきていた。

「じゃからさっきも言うたじゃろ、時間を引き伸ばせるって。」

「…まじか」

 目の前でその光景を見せられると納得せざるを得ない。現に自分の周りの世界がゆっくりと動いているのだから。

「これだったら受け止めるのも余裕じゃろ?」

「確かに…。これ本物だったんだな」

 ゆっくりと落ちてくる少年を受け止める。まるでジ○リのワンシーンのようだった。

 …軽い。

 だいたい10歳の子供にしては体重が軽いような気がした。これも彼岸フォームの補助のおかげか?

「…?」

 ギュッと目を瞑っていた少年が目を開ける。いつまでも地面と激突する感覚が来ないのが気になったのだろう。

「…え、あれ?なんで!?」

 混乱している少年を立たせてやる。

 …どうしよう、なんて声かければいいか全然わからん。

「…まあ、何があったのかは知らないけど、まだ俺よりも若いし…」

「まだ、死ぬべきじゃないって」

 少年は俯いたままだ。

「あの〜、だから、ほら!まだ生きてれば楽しいことあるだろうし!まあ気楽に生きればいいじゃん?家族でどこか出かけたりとか…」

 我ながらすごい下手な言い方だったと思う。

 少年は俯いたまま、手をギュッと握りしめ、涙の粒を落としながら。

「…ありがとうございました」

 とだけ言って、病院の中に走って行ってしまった。


「…これで良かったのかな」

 ポツリと独り言ちる。

「まあええじゃろ、あいつの事情は分からんがまだ死ぬ人間じゃなかった。それで十分じゃ。」

「…本当にそうだろうか」

 あの少年の様子は、明らかに何かしら覚悟を決めていた。あの少年をここまでさせるような出来事があったに違いないのだが…

「…そうか、人間はそういう考え方をするのか。」

 2人の間に、暫しの沈黙が流れる。


「…とりあえず終わったことだしええじゃろ!彼岸フォームのチュートリアルにもなったしな!」

 まーちゃんが微妙な空気を吹き飛ばすかのように言った。

「…てかこれ、どうやって元に戻るんだよ。」

「ああ、なんか適当に力抜く感じでやれば出来るぞ」

 じゃあ…、と力を抜いてみる。

 すると、

「うわっ、いっ痛てててててて!」

 いきなり全身にズドーンと来た。衝撃が。

「ああ、言ってなかったが彼岸フォームの時の負担は終わった時に一気に来るぞ?どんどん使ってけばそれも改善していくはずじゃが…」

「そういうことは先に言え!」


 …この調子だとまだ病院からは出れないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄泉の国から内定もらった! るみや きぐ @kigurumiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ