「研修課題:六+一」

「つっても今真夜中じゃん」

 外は既に夜闇が周りを包んでいた。

 自分が起きた時は既に日が沈んでいたらしい。街灯も少なく、道路を走るトラックの音が人気ひとけのない街に響いていた。

「真夜中でも課題は生まれるんじゃ。うちの研修は時と場所を選ばんからな。」

「…それってもしかしてブラック?」

「とは言ってもそんなに頻繁に出るわけじゃないからな、多くても1週間に1個じゃ。」

「そのくらいだったらまあ…」

 ホッと胸を撫で下ろす。ちゃんと福利厚生は守られているようだ。

「ただ、一日や二日で終わるような物は少ないと思っていい。うちはちょっと特別な仕事が多くてな。」

 特別な仕事?

「まあその辺はおいおい話すとして、そうじゃな…」

 まーちゃんが辺りを見回す。何かを探しているみたいだが、

「なあ、そういえば俺の1つ目の課題は?さっき意気揚々と『開始じゃ!』って言ってたけど」

「あー…。そうじゃな!ちょっと待ってくれ〜…。えーと…」

 ーーこいつまさか。

「お前…特に何も考えずに出てきたな?」

「そっそそんな事あるわけないじゃろ!?待つのじゃ、今思い出すから…!」

 さっきよりさらにキョロキョロと辺りを見回している。最早何も考えてなかったことは確定的に明らかである。

 でもまあ、必死で探してる様子が面白いから見ていよう。

「…あっ!あーあれじゃ!見つけた!」

 思いっきり見つけたと言って指さした先は


「…屋上?」

 病院の屋上を指していた。

 しかし暗くてよく見えない。何があるのかよく目を凝らしてみる。

 ようやく暗さに目が慣れてきた。だんだんとシルエットが浮かんでくる。

 一体何があるのか。あれはー

「子供…なのか?」

 屋上にポツンと、まだ年端も行かない少年が一人いた。恐らく小学生くらいだろうか。

 問題なのはそこではなく…


「あの子、手すりの外に立ってない?」


「そうじゃな。大方、あそこから飛び降りるつもりじゃろう。」

 まるで何も問題はないかの様に言った。

「って一大事だろ!自殺しようとしてるんだぞ!?早く助けないと…」

「落ち着け、イト」

 先程とは違う声。生温い夏夜の風に一瞬凍えそうになる程の冷たい声だった。

「妾には死にゆく人とそうでない人の違いが分かる。」

「彼奴はまだ…死ぬべき人間では無い。」

 今のお主と同じじゃな、と黄昏ながら。

「ま、閻魔のあたしが言うんだから大丈夫じゃ!心配ない!」

 急にさっきまでの口調に戻った。急に落ち着いたり元気になったりするな。

「じゃあ…死ぬべきでないって言っても、どうやって助けるんだよ。今から登って間に合うのか?」

 ここの病院は10階位ある。飛び降りて死ぬにも充分な高さだし、今からエレベーターなり階段で屋上まで行ったとしても間に合う確証はない。

「簡単じゃろ?受け止めればええんじゃ。」

 なるほど受け止め…

「ってさすがに無理だろ」

 いくら子供の身体とは言え、10階より上から落ちてくる人間を受け止めきれるだろうか。というか一応入院中だし。

「大丈夫じゃ!研修中に設けられるを使えばちょちょいのちょいじゃろ!」

 あれ?あれとは?

「彼岸の秘密兵器、彼岸フォームじゃ!」

「…は?」

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