「黄泉返り」

「内定…ですか?」

「はい」

「それって要は…天界に行けるってことですよね!?」

「そうです」


 良かったーー

 内定承諾を言い渡されて初めに感じたのが、安心だった。よく分からないがあの紙に書いてあったことが決め手だったのだろう。まずはこの圧迫面接から逃れられたことを喜ぶとしよう。

 けど卒業見込みってなんだ?確かに大学はまだ退学も休学も卒業もしてはないが…


 向こうの面接官達がまだ何やら相談している。

「あの…なにかありましたか?」

「…ああいえ、なんでもありません。あなたにこれからどうして貰うかの説明をするところでした。」

 そういえばさっき「研修期間」とも言っていた。本当に仕事の内定みたいなワードだが、一体何を…?


「あなたには研修期間中に、色々な課題に取り組んで貰います。それを達成出来れば、極楽浄土へ行くことができます。」

 なるほど、ミッションをクリアすれば天国に行けるってことか。この彼岸でなにかやるのかな?

「そして、あなたは卒業見込みとの事だったので…」


「これから現世に戻って貰います」

 なるほど、現世に戻ってミッションを…


 現世に?

「ちょ、ちょっと待ってください!現世に戻るって、生き返るってことですか?俺てっきりもうここで働くもんだと思って…」

「ですから卒業見込みだと言ったでしょう」


 面接官から、思いがけない言葉が

「あなたはまだ生きてます。魂は現世に残っていますよ。」



「あ、はは…」

 自然と声が、口からこぼれる。

「なんだ…良かったじゃん、心配して損したよ…」

 へろへろと、いつの間にか外していた席に座る。


 生きているーー。

 普段全く気にしなかった事。当たり前だったことが、ここではとてつもなく嬉しい。また自分の見慣れた場所に戻れる、そう考えただけで涙が出るほどの安心感と喜びを噛み締めた。涙は出てないけど。出そうになっただけで。泣いてないが!?


「それではこれから現世に戻って貰います。」

「あ…はい。ありがとうございました。」

 立ち上がって礼をする。お互いにトラブルや予期してない事が起こってたが、なにはともあれ無事に終わってよかった。しかし、

「…あの」

 先程のグラサンの女性に話しかける。

「失礼ですが…あなたは?途中から入ってきたみたいですが…」

 途中から入ってきてあの横暴な態度。そしてあの目ー。

 せめて名前だけでも聞いておきたい。

「ん?あたし?」

 格好や態度からは半ば想像出来ない可愛らしい声が聞こえてきた。気のせいかドキドキする。

「あたしは…まあいいか、これから一緒に着いてくし。そこで話すね」

 これから?一緒に?

 どういうことだ。この人が着いて来るのか?もしかして教官みたいな方?

 そうだ、そういえばここからどうするか聞いていない。来た道を戻れば現世に着くのだろうか?でも来た方法もわかってないし…


「そうですね。それではもご同行お願いします。」

 は?閻魔えんま?この人閻魔様だったの!?

 待て、思考が追いつかない。この不良が閻魔様で?着いてくる?そもそもどうやって?まず帰る手段もー


「それでは、行ってらっしゃい」

 と言って、面接官が机のボタンを押す。

 すると


 カパッと

 足元の床が開いた。


「待っうわああああああああああああああああああああ!」

 全く状況が掴めないまま、奈落に落ちていった。






「さて…」

 静寂が戻った面接室。スーツを来たもの同士が再び話し合う。

「こんな珍しいケースもあるもんですな」

「全くです。特殊な要素が重なって、判断を決めかねました。」

 途中から渡された紙に再び目を通す。

死暦書しれきしょに書いてある名前。それに死亡理由も」

 紙をファイルにとじた。




「予定では彼は、死んでいたはずでは?」

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