「裁判(面接)、そして邂逅。」後編

 バターン、と

 大きな音を出して入ってきたのは、


「不良…?」

 そう見間違えても仕方ないような風貌をしていた。

 頭には閻魔の帽子、そこから流れる長い白の髪。上着は肩にかけて袖を通しておらず、更にはグラサンをかけていてなんか怖い。

 なんでこんな人がここにーー


 よく見ると手に1枚の紙を持っていた。なにか書いてあったようだがよく見えない。

 そいつは何も言わず、面接官の人にその紙を渡して空いている面接官側の席に腰掛けた。



「それでは続けます。いいですか?」

「えっ、そこの人はいいんですか?」

 面接官の1人が何事もなかったかのように続きを始めようとしてくる。ここではこれが普通なのか?

「…?、なにか問題でも?」

「…いえ、何でもないです。」

 どうやらあいつを気にするだけ損らしい。とりあえず続きに集中しなければ。気を取り直して面接官の方をむく。


 あの人は足を組んでテーブルに乗せていた。まるで教室窓側最後尾でさも授業なんか興味無いぜ的な雰囲気を出してる不良である。

(ここにいていいのかよあいつ…)

 もう気にせず行こう。そう思った。


「では、あなたは天界道が第一志望と言っておりましたが、その理由をお聞かせください。」

「はい。えっと…天界?だと死後ものんびりできそうだし、あまり辛いこともなくてゆっくり過ごせそうだなって。」


 また空気が凍る。ここは地雷原かなにか?

「あなた、天界道は楽で辛いことがない。と言っていましたがちゃんと辛いこともあります。そもそも輪廻転生の道において、全く苦がないというのはどこにもありません。」

 そうなのか、てかそもそも天界道自体初耳なのにそこまで言われても…。

「天界道では死の間際、体が穢れていく感覚に襲われその苦しみは地獄道も凌ぐと言われています。楽な道なんてないんですよ。」

「…そんなぁ」

 やはり「死は救済」は嘘だった。現世の奴らに今すぐこれを伝えて回りたい。死んでも圧迫面接とかあるぞーって。



 冒頭に戻る。


 半ば高圧的な質問にタジタジした。

 急に別のところと言われても…。頭を抱えたくなる。

 こちらは事前に御社の方針や経営理念を調べてきた訳でなく、ましてや他の場所どころか第一志望のところすらほとんど知らないのである。

 何答えりゃいいんだーー。


 思考が路頭に迷っていると、面接官の隣の不良が何かに気づいたらしい。

 先程持ってきた紙を見て、何かに頷いていた。

 何に気づいたのか。そう思っていると、隣の面接官と相談し始めた。


 俺はそれを傍観しかできない。この相談によって何か変わるのだろうか、とりあえずこの終わった雰囲気をどうにかする何かを期待していた。


(というかあいつ…女?)

 あの不良、先程は上着で隠れて見えなかったが体格が華奢で女性的な膨らみがある。ワイシャツにズボンと、服装も相まって気づかなかった。

 全く意識してなかったが、そう言われてみるとスタイルもいいような…


 彼女の黒眼鏡がズレて青く綺麗な切れ長の目が現れた。透き通るような青に見惚れてしまう。

 …不覚にも自分の心臓の鼓動が一瞬早まった気がした。



 ほんの一瞬、見とれていると面接官達が相談している声が耳に届いてくる。

「………卒業見込み?予定では……」

「これ……研修……内定………」

 なんだか聞きなれたようで異質な言葉が聞こえてくる。彼岸に来て卒業?研修とは?


 程なくして相談が終わり、改めて面接官がこちらに向き直り、

「…今話し合った結果、あなたは卒業見込みであることが分かりました。」

「よって、あなたは研修期間の後、然るべき場所に案内されます。」




「黄泉の国への…内定承諾です。」


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