「裁判(面接)、そして邂逅。」前編

「…それであなたの第一志望は天界ということでしたが、志望理由を聞く限り天界では無くてもいいんじゃないですか?他の道でもそれは出来ますよね?」

 そんな事言われても。というかそもそも自分が死んだ理由も状況もわからんのにそんな事言う…?。


 何も分からないままここに連れてこられて圧迫面接紛いの裁判を受けている。

 現世でよく言われてた「死は救済」って嘘だろ。現在進行形で辛いんだが。

 どうしてこんな面接受けてるんだ、俺は…。




「次の方、どうぞ。」

 受付の人に言われた通り、面接室の前で座って待っていると、ドアが開いて声をかけられた。

 どうやらこの人が面接官なのだろう。とひと目見て理解出来た。

 なぜかって、それはワックスでバッチリキメた髪型、パリッとしたスーツに新品のネクタイ。そして度の強そうな眼鏡ー。

 どう見ても現代風バリバリのサラリーマンと言っても過言では無いだろう、ただ気になる点が1つ。

(角だ…)

 角が頭から生えていた。そこまで大きい訳ではなかったが、少なくなった髪の間から自己主張していた。

(そういえば受付の人も生えてたような)

 長い髪に隠れてよく分からなかったが、あったような…。

(鬼…)

 小さい頃絵本が何かで見た事がある。死んだ人は鬼に案内されて、良い行いをした人は天国に、悪い事をした人は地獄に送られるらしい。

 そしてそれを裁く人がー。

「それでは席の前にどうぞ」

「えっ、あっはい」

 声をかけられ思考が中断される。よく1人で思考の世界に入ってしまう、悪い癖だ。

「…今ボーっとしてましたか?」

「いっ、いえ!全然…」

 少しため息をつかれ、

「…いいです、席に着いてください。」

 若干呆れられたように着席をうながされた。


「それでは裁判を始めます。」

 目の前の裁判官(面接官?)が言った。俺の方には椅子1つ、向こうにはテーブルにスーツを着た鬼が2人。これで裁判と言い張るのか。

 ちなみにこちらにはなんの準備も無い。気がついたら老人?に会って近代的な電車に乗りとりあえず案内されてきただけなのだ。現世でやったら落とされること必至だろう。

「では、まず享年を教えてください」

「はい。享年は…、えっ享年?」

 うっかりしていた、自分死んでました。

 きょうねん、享年だと数え年だからー…

「はい、えっと20です。」

「なるほど。ではあなたがその20年の間に学んだことや、これから生かせる様なものはありますか?」

 死んだ後に生かすも何も。

「はい、今まで自分が生きてきて、子供の時から色々な人に関わることが多かったです。なので人に接することは得意だと思います。それに、家庭の事情で我慢することが多かったので、忍耐力には自信があります。」

 とりあえずそれっぽい事を適当に言った。コミュニケーションとか全く自信はない。

「はい、分かりました。」


「それでは、第一志望を教えてください」

 第一志望?

 一瞬言葉の意味を呑み込めなかった。

 第一志望って、死んだ後にどこに行くかってことか?それって天国か地獄どっちに行きたいかってことなのか。だったらー

「はい!天国に行きたいです!」


 場の空気が一瞬凍る。

 2人の面接官も、少し顔を引き攣らせていた。

(…俺なにか間違ったこと言った?)

 なぜこんな雰囲気になったのか、わけが分からずあたふたしているとー。

 面接官の1人が咳払いをして言った。

「天国でも合っていますが、ここは一応仏教が管轄している裁判所です。出来れば六道の道で答えて貰いたいですね。」

 り、りくど…?と頭から?を出していると、面接官のもう1人が、

「あなたの言った天国と1番近いのは、六つの道の中だと天界道というところですね。正確には色々と違いますが…」

 と説明してくれた。案外親切なのかもしれない。



 すると、自分が入ってきた逆の方のドアから、バターンと大きな音を出して、誰かが入ってきた。




 俺はまだ知らない。



 この出会いが、文字通り俺の運を狂わす、始まりだった事に。

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