「彼岸」その1
「あれ?」
気がつくとよく分からない場所に来ていた。
確か交差点を走っていたはずー、なのに今は信号ひとつ見当たらない。代わりに周りには先程の数倍彼岸花が咲いていた。
「???」
自分に何が起こったのか、事態を飲み込めないまま、自転車を漕ぎ出す。
予想外の状況だが、自転車、バッグなど身につけていたものは全て無くさずに持っていた。
今自分がどこにいるか分からないー。そんな時は周りの人間に聞くのが1番早くて適切である。恐らく自分よりかはここの事を分かっているだろう。
(…というかいやに人の気配がない)
普通なら、この時間だったら少なくとも学校や会社から帰ってくる人で探さずともそこらじゅうに人がいるはずなのだが…。
(少し走っても1人も見つけられない…)
おかしい。
この時間帯で人と出会わない。
ここは明らかに自分が今までいた場所とは違う。
じゃあ渋谷から宗谷岬に行ったのかという感じでは無く、
まるで次元を超えたりまた違った世界に来たようなー。
「おや珍しい、若いの」
急に声をかけられた。考え事をしながらだったので、驚いて転けそうになる。
何とか体制を立て直しながら、待ちに待った第一村人からなにか聞けないかと思った。
(周りに人の気配はなかったし、この人から色々聞いてみよう。)
と思っている間に、再び向こうの方から話しかけてきた。
「驚いた…お主、死んでおるのか?」
「…は?」
言っている意味が分からなかった。唐突に人に「死んでいるのか?」と聞いてくるのは初めてだ。常識的に考えて自転車を漕いでいる人間に「死んでる?」と聞くのはあまりにも普通じゃない。普通ならー。
待て。
おかしい。
なんでこの人は普通じゃないことをさも当然のように聞いてきた?
「死んでる?」普通なら「生きてる?」だろ?
そもそも、人の気配すらなかったのにこの人はどこから話しかけてきた?
まさか、この世界では、普通が、
「おい、じいさんー」
そう言いながら声をかけてきた方へ向き直った。
そこには人影なんてなかった。恐らく老人であろう外見の人などどこにも存在していなかった。
代わりに、
「人魂だああああああ!」
そこには火の玉が浮いてた。
覚悟はしていたが、改めて超常現象を目の当たりにして少し冷静さを欠いてしまった。
本来なら幽霊や心霊現象は全く怖くないのだが今回は状況が状況なのでちょっとオーバーリアクションを取ってしまった。いや全然怖くなかった本当に。
「うわあああああああああああああ!」
それとなく危機を感じ取った俺は自転車でその場から全速力で逃げ出していた。怖くなかったけど。
なのに後ろから、
「こら待て、若いの」
フルスロットルの自転車と同じ速さで人魂が追いかけて来ていた。
「やめろぉぉおおおおお!来るなああああ!」
こんなやり取りが数分続いた。
「やっと落ち着いたか」
老人(?)が話しかけてきた。さっきは僅かに我を忘れてしまったが、ようやく目の前の状況を落ち着いて把握することができた。
(…てか、全力で数分走ったのに、息も上がってない。)
走っているうちに何となく気がついていた。自分の身体にもなにか異変が起こっていると言うことが。
自分の仮説が正しければおそらくー。
「じいさん(?)、ここはどこだ?帰り道自転車を漕いでたら急にここに来たんだが…。」
「まさか、死後の世界か?」
答え合わせをするように問いかけた。
老人は笑いながら答えてくれた。
予想していた解答とは少し違っていたが。
「ここが死後だと思うのも仕方ないじゃろうな」
「ここは
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