どうわ

keimil

おに

『むかーし、むかし、ある所にチンギスハンという男がいました。』


「ああ!!それ知っている!確か、お野菜しゃんの名前なんだよね」

 息子は、可愛らしい声を出しながら、小さな顔を得意げな笑みに変えている。


「それは、チンゲン菜でしょ?」


「しょー!それ。おかあしゃん、そういったじゃん」


「そうがないわね、じゃあ、そういうことにしておきましょうか」


「そういうことにしておきましょうか。じゃないもん。いったもーん」

可愛らしくむくれる息子の頭を撫でながら、話の続きをする。


「それで、チンギスハンは…」


「それより、お腹しゅいたよー、ポテチたべたーい」


「昨日、食べたからダメよ。ポテチは身体に悪いんだから」


「でも、ぱぱは、毎日、身体にわるいおしゃけ飲んでいるよ?」


純粋に首をかしげてきた。

子どもは時々、純粋なツッコミをしてくる。

教育のためにも今日から、お酒は我慢してもらおう。

家計的にもそれがいいわね。


「確かに、そうねぇ。今日から、ぱぱもおしゃけ、バイバイさせるね」


「むー」


「それで、チンギスハンだけど」


「それより、ももたろーみたいな格好いいお話の方がすきー。お野菜みたいなお名前、かっこー悪いよ」


その言葉に、私は、苦笑した。

お野菜みたいな名前は格好悪いのに、桃太郎はいいのだろうか?

果物の名前がそのまま使われているけど。


「けんた君は、チンゲン菜が嫌いなの?」


「そんなことないもん!ぼく、何でもたべられるもん!」


「じゃあ、チンギスハンのことも好き嫌いせずに、聞きなさい!」


「でも、ちゅまんなさそー」


「そんなことはないわよ!チンギスハンは、モンゴルっていう国で最強の将軍だったんだから!鬼ヶ島よりも、もっと強い国を支配したのよー」


「鬼ヶ島で、思い出したー」


「うん、何をかな?」



「ぱぱがね、ままは、オニヨメだって言っていた!」


これは、パパの今月のお小遣い0ね。


ガチャリ


鍵が開く音がした。


「あーー!ぱぱだーー!」



今日はここまでね。教育は難しいものだ。

親になってそう思う。


小さい息子はとてとてと拙く歩いて、パパのズボンを掴む。


「ぱぱー、今日のお菓子はなーに?」


「しっ!ままに見つかったら、おやつ取られちゃうから、静かにしようね」


パパは、優しく微笑みながら、丸鼻に人差し指をあてる。

それを息子も真似する。


「お口チャックだね!ぼく、静かにする!!」


そう言って、全然静かになっていない息子たちに私は、声をかける。


「わたしは、パパのいう通りのオニヨメだからね!このお菓子は没収。あと、パパにはあとで話がありますからねぇ」


パパは、情けない顔をしていた。

わたしは、この家のオニとして、今日も幸せに暮らしている。



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