第15話「ステラを追って」
電車で揺られること半日。
やっとのことで、ステラの故郷の村である『ケフェウス』の最寄り駅にたどり着く。
(ステラ、こんな遠いところから『カシオペヤ』に来たんだ)
ステラからは北の方にある村だということは聞いていたが、まさか、ここまで離れているとは思っていなかったので、改めてステラのことを知らないんだって実感させられてしまう。
私は感傷に浸りたいと思ってしまうが、ここはあくまでも最寄りの駅であって、村『ケフェウス』ではないことを思い出し、ここにいても仕方がないと歩き出す。
(しっかし、上着持ってきておいて正解だったわね)
北にある村だということを聞いていたので、きっと寒いだろうとの予想をして上着を持ってきていたのだが、その予想は正しくものすごく寒い土地だった。
一応、『カシオペヤ』は四季があるため、暑い日もあれば寒い日もあるのだが、ここは一年中冬なのではないだろうかと思えてしまうぐらいに寒かった。
(『カシオペヤ』との温度差がすごすぎるでしょ)
ちなみに『カシオペヤ』は、いまは夏のためこことは真逆の気温のため体が全くと言っていいほど追いついていなかった。
(でも、そんなことを言っている場合じゃないよね)
ステラを迎えに来たのだから、そんな弱音を吐いている場合じゃないと思い直し、私は一歩一歩歩みを進めていく。
すでにここに来るまでに半日を有しているため、急がないといまのままでは完全に夜中になってしまいそうなペースなのだ。
すでに日は傾いていて街灯が辺りを照らしているので、これ以上夜が濃くなってしまえば、目の前を見通すことがさらに難しくなってしまうだろう。
この通りは街灯がそこまで多いわけじゃないみたいなので、夜中になってしまえば辺りはかなり暗くなってしまうだろう。
そうなる前には村に着いておきたいと、私は考えていた。
(一つ問題があるとしたら、『ケフェウス』は閉鎖的な村だとステラから聞いてるから、部外者である私を受け入れてくれるかどうかよね)
そこが一番の問題で最大の難題だと私は感じている。
どうしようもないまま道なりに進んでいると、目の前に案内板が現れる。
「この先が『ケフェウス村』」
私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、再び前に進んでいく。
案内板が現れてから、少し歩くと目の前に門が見えてくる。きっとその先に入ればステラの故郷である『ケフェウス村』になるのだろう。
「ステラ、元気かな?」
ステラが家を出て行って1週間しか経っていないのに、この心の中にある喪失感が生まれるのは、それぐらい私の中でステラの存在が大きくなっているということだろう。
(いつの間にか、私にとってステラはかけがえのない存在になっていたんだ)
改めて、ステラの大切さを実感していると、何かが突きつけられるような感じがする。そして、すかさず人間族を拒絶したような声が飛んでくる。
「動くな! 人間族ッ!」
私はいきなりのことに困惑したまま、体を硬くすることしか出来ない。少しでも動いたら、何をされるかわからない一発触発の雰囲気だったからだ。
私が何も言えず黙っていると、茂みの奥から2人の獣人族の男性が顔を出した。
その獣人族の男性二人を見て、やっぱりここがステラの村であることを確信する。
なぜなら、人間族にはまずついていない獣耳と尻尾がついていて、なおかつその耳と尻尾の形が、私の良く知るものだったからだ。
***************************
「リンクちゃん、元気にしてるかな……、ちゃんとご飯食べてるのかな……」
ステラはそう考えて静かにため息を吐いてしまう。
故郷に戻ってくることは、誰でもなく自分自身が決めたというのに、ここに帰って来て考えるのは、『カシオペヤ』で助けてくれたリンクの事ばかりだった。
(わたしは悪い子だ。あんなにリンクちゃんに助けてもらったのに、何も恩返しもしないまま、恩を仇で返したのだ。恨まれても仕方がないよね)
そうだ、恨まれたって何も言えないし、嫌われたって仕方がないことだった。
(それでも嫌われたくないと思ってしまうわたしは、相当に身勝手な生き物だろう)
ステラはそんな自分自身に、自己嫌悪に陥ってしまう。
「わたしって嫌な子だ……」
ステラがネガティブな思考に囚われていると、突然、扉が叩く音が聞こえてきてすぐさまガチャリと扉が開く音が聞こえてくる。
その音が聞こえた瞬間、ステラは慌てて目に溜まっていた滴を両手で払って誤魔化すと、扉の方に視線を向けた。
そこから顔を覗かせたのは、ステラと同じルビー色に輝く双眸に、これまた同じようなプラチナブロンドの長髪をなびかせた妙齢の女性が入ってくる。
何を隠そうステラを女手一つで育てた母親――セレスト・アルナイルだった。
「お母さん、どうかしたの?」
なんの前ぶりもなく突然部屋に入ってきた母親の姿に、ステラは首を傾げてしまう。
母親が少し焦ったような困ったような表情をしていたことも拍車をかけているのかもしれない。
「村長があなたのことを呼んでるのよ。何の用事はわからないんだけど」
「村長さんが?」
母親の言葉に、なおさらステラは困惑してしまう。
「う~ん、今日は何の用なんだろう?」
「詳しく説明されたわけじゃないから、わからないけど、なんだか困った感じでもあったから、行ってあげてくれる」
「うん。わかったよ」
ステラは頷くと、村長さんの元へ向かうべく身支度を始めるのだった。
『ケフェウス』の村は、村人全員で家族と言った考えがあるので、村人は全員顔見知りみたいなものだった。
そして、ステラは小さい頃に自分の父親を亡くしている。その際に、村長さんには良くしてもらった経緯があるために、村長さんからの呼び出しとなれば、断るにも断るわけにはいかず、ステラはこうして急いで向かっているわけである。
村長さんの家は、ステラが暮らしている家から5分ほど歩いた距離にあった。
ステラは玄関の扉をノックすると中に入る。
中に入ると居間のソファーには高齢の立派な耳と尻尾を携えた女性が静かに座っている。
何を隠そうその女性こそが『ケフェウス』の村長である――ルキフェル・フォークタイだった。
「来たね、ステラ」
ステラが来たことを気配で感じたのか、凛とした声がステラの名前を紡ぐ。
「うっうん。来ました」
ルキフェルに久しぶりに会ったせいなのか、ステラは少しだけ緊張してしまう。
「べっつにそこまで縮こまんなくたっていいだろ。ほら、早くソファーに腰をかけな」
「はっはい!」
ステラはルキフェルの言葉に返事をして、ルキフェルの目の間のソファーに腰を下ろした。
「わざわざ呼び出してすまなかったね」
「いっいえ。どうせ暇でやることがなかったですし、何をしようか迷っていたところなので。それに村長さんにはお世話になっていますし」
「家のことかい? 良いんだよ、そこは気にしなくて。私はこの村の村長なんだ。村人の幸せを守るのが私の仕事だよ」
ルキフェルのその言葉にステラは一度頭を下げて感謝の意を伝えると、再びルキフェルに向き直る。
「それで今日わたしが呼ばれた理由はなんですか?」
「いやいや、今日はそんな大した話でもないとは思うんだけどね」
「はっ、はあー」
ステラはますます呼ばれた理由に見当がつかず、なんとも言えないリアクションを取ってしまう。
ステラが何とも言えない表情を浮かべていると、ルキフェルは少しおかしそうに話を進めていく。
「何も難しい話じゃないさ。ステラに縁談の話が来てるってだけで」
ステラはルキフェルの言葉に思わず固まってしまう。
(えんだん……? えんだんって、あの縁談だよね? 全然難しい話だと思うんだけど……!)
ステラは内心で思うことはあるものの、あまりにもさらっとその話を持ち出された衝撃で固まったまま何も言えない状況だった。
ルキフェルはそんなステラの内情を知ってか知らずか、ルキフェルはステラの反応を見てけらけらと笑っている。
「ステラももう結婚できる年齢になったからね。知っているかい、あんたが結婚できる歳になった瞬間から、縁談の申し込みが殺到しているんだよ。いやぁ~、ステラも隅に置けないね」
ルキフェルは本当に楽しそうに話しているが、当の本人からしてみれば、たまったもんじゃなかった。
そんなステラの困惑をよそに、ルキフェルは話を進めていく。
「色々と縁談者が来ているけど、かなりの有望株ばかりだよ。ステラはどんな人が良いんだい?」
「まっ待ってください!」
このままだと勝手に話が進んでいきそうだったので、ステラは慌てて待ったをかける。
「ん? なんだい? この人物たちじゃ不満かい? なら他のやつも……」
ルキフェルは先に出していた用紙とは別に、新たに出そうとするのでそれも慌てて止めている。
「そういうことじゃないです!」
「ん? これも不満かい? なら、もしかして、ステラは誰か心に決めた相手でもいるのかい?」
その言葉に再度ステラは固まってしまうが、すぐさま「……そんなんじゃありません」と言葉を返している。
一瞬、ステラの頭の中にリンクの顔がよぎったのは気のせいだ。
そんなステラの反応にルキフェルは「ふ~ん」と言葉をこぼし、さらに追及しようと口を開きかけたが、その瞬間、バタバタと人が駆けこんでくる音がする。
「なんだい、騒がしいね。こんな時間にどうしたんだい?」
ルキフェルが声をあげると、一人の獣人族が入ってくる。
「村長大変です! 村に侵入者が現れました!」
その言葉にルキフェルは目をすぅーと細めている。
「そうかい。その者はいまはどこだい?」
「はっ、牢屋に閉じ込めて事情聴取を進めているところで、なにやら繰り返しステラに会いに来たんだと話しているそうです」
その言葉を聞いた瞬間、ステラはガタンと音を立てながら立ち上がり、「リンクちゃん……」と呟いている。
「そうか。なるほど、すぐさま牢屋に向かうとしようかね。ステラ、あんたも一緒に来な」
「うっうん!」
(リンクちゃんどうして……?)
ステラは逸る気持ちを抑えながら、ルキフェルのあとをついて行くのだった。
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