第11話「閑話ーーもふもふ」
ぴくぴく。ゆさゆさ。
ステラが料理をする動きに合わせて、ステラの耳と尻尾が動いている。
私はそんなステラの動く耳と尻尾を眺めてしまう。
ステラが私の家で暮らし始めて3週間ほどが経過していた。
ステラとの生活は驚くべきほど上手くいっていて、私の生活の質が上がってるぐらいだ。
(本当にステラには頭が上がらないわ)
本来であれば、私はステラに土下座してでも、お礼を言わなゃいけないぐらいにお世話になっているのだ。
「……リンクちゃん? どうかしたの?」
どうやら私がじっとステラのことを見ていたことに気づいたらしく、ステラが不思議そうにこちらを見ている。
「わたしの顔に何かついてる?」
「あっ……いや……そういうわけじゃないけど……さ……」
改めてステラにそう聞かれて、私は大きくたじろいでしまう。なんて言葉を返せばいいのかわからなかったからだ。
素直に答えるわけにもいかず私が何も言えないでいる間もずっと、ステラはこちらをじっと見ている。
私はそんなステラの視線に、なんともいたたまれない気持ちになってしまうが、こんな気持ちもとい欲望を素直に話しても良いのかとも思えてしまう。
(言えるわけないじゃん! ステラの耳と尻尾を思う存分もふもふしたい欲求に駆られているなんて!)
私としてはステラと出逢った時から、ステラのぴくぴく動く耳や、ゆさゆさウドいて、ふさふさの尻尾の触り心地が気になっていて、毎晩、ステラが尻尾や自身の毛を手入れしている姿を見て、ずっと触り心地が気になっていたのだ。
私が何も言えない間も、上機嫌なのかずっとその尻尾がゆさゆさと揺れている。
そんな尻尾に私の視線は吸い込まれるように引き寄せられて、目で追ってしまう。
そんな私の視線に気が付いたのか、ステラは「ああ」と小さくこぼして、にこにこの笑顔を見せてくる。
「リンクちゃん、もしかしてわたしの尻尾触りたいの?」
そんな無垢な笑顔で言われてしまい、私は誤魔化すことも忘れて、ただただ素直に頷くことしか出来なかった。
***************************
ステラが作ってくれた夕食を食べ――いつものことながら完璧な料理でとても美味しかった――、ソファーに2人並んで腰を下ろしている。
「それじゃあ、リンクちゃん。はい!」
なんだか妙に上機嫌のまま、差し出された尻尾を見て、私は思わずごくりと生唾を吞み込んでしまう。
妙に緊張している自分に笑いたくなってしまうが、獣人族にとっては大切な体の一部分なのだ。だからこそ、変な触り方は出来ないとも思うし、ステラが毎晩ていねいにケアをしていることも知っているので、なおさら粗末な触り方は出来なかった。
私は恐る恐ると言った感じに、ステラの尻尾に手を伸ばす。
ふさ、ふさ。
触った瞬間、予想通りのいや、予想以上の感触が手に伝わってくる。
「ほわ~……」
私の口からは感嘆の声が漏れてしまう。
「ふふ、どうですか?」
「うん、とっても気持ちいいよ」
(絶対に触り心地が良いとは思ってたけど、まさかここまで触り心地がいいなんて思ってなかったよ。くせになりそうだし)
さわさわ。
しつこく触っていたらステラに悪いとは思っているのだが、やめるにやめられない魅力を秘めていた。
そろそろやめないととも思っているのだが、なかなかにやめるという選択肢を選べない。
そんな私の様子に気が付いたのか、ステラがくすくすと笑いをこぼしている。
「リンクちゃん、幸せそうに頬を緩ませてる」
「そりゃあね。幸せだしね」
「わたしの尻尾触っただけなのに?」
「うん。だって、こんなふわふわの尻尾触ったの初めてだしさ。とっても気持ちいいし」
「そう言ってもらえると、毎日欠かさず手入れをしていてよかったなって思うよ」
そう話すステラの表情は、本当に嬉しそうに緩んでいる。
「そんなに嬉しいものなの?」
確かに素直な感想を口にしただけなのに、そんなに喜ばれるとは思っていなくて、そんなステラの反応に私は驚いてしまう。
「うん、嬉しいよ! だって、リンクちゃんに褒められるのは嬉しいから!」
ステラに真っ直ぐそんなことを言われてしまい、私は正面からステラのルビー色の赤眼を見られなくなってしまう。
(どうして、ステラはそんなことを臆面もなくそんなことを言えるのだろか)
私はそう思わずにはいられない。
ステラは本当に嬉しかったのか、耳をぴくぴく動かして嬉しさをアピールしている。
(そんなに嬉しかったんだ)
私はそんなステラの姿を見て、無意識にステラの耳に手を伸ばしてしまう。
「ひゃっ!」
ステラの白くて三角形の耳を触った瞬間、ステラがかわいらしい声をあげる。
「ステラ?」
耳に触った瞬間、そんな声をあげたので私は再び驚いてしまう。
私が不安でステラのことを呼びかけると、ステラは恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「えっ……えっと、耳はくすぐったいというか、なんというか……」
「耳にも神経って通ってるんだ」
「あっ当たり前だよ!」
ステラは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて肯定している。
「ああ、やっぱり感覚あるんだ」
「あるよぉ~。リンクちゃんだってあるでしょ」
ステラのその言葉に、私は確かにと頷いてしまう。
「確かにあるけどさ。やっぱり、人間族と獣人族だと耳の感覚違うのかなと思ってさ。実際に触られてみてどんな感じなの?」
「くすぐったいかな……ひゃっ! もうリンクちゃん!」
ステラが話している間も、私はステラの耳を触っていたので、再びステラの口からはかわいらしい声が漏れている。
ステラはステラで不満そうに頬を膨らませて、こちらを睨んでいる。
「ごめん、ごめん。尻尾もそうだったんだけど、耳も触り心地が良くてずっと触っていたいなって思っちゃったんだよね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、くすぐったいし恥ずかしいんだよ!」
ステラからの本気の抗議を聞いて、そろそろ止めないと本気でステラが拗ねてしまいそうだったので、私は名残惜しいけどステラの耳から手を離して立ち上がる。
「リンクちゃん?」
急に立ち上がった私の姿を見て、ステラは不思議そうにこちらを上目遣いで見つめている。
そんなステラの上目遣いに、私の心臓は少しどきりとしながら、そんな胸の高鳴りを誤魔化すかのように早口でステラに告げる。
「コーヒー淹れてくる! ステラは甘いカフェオレで良いんだよね」
「うっうん」
ステラは突然のことに、最初は戸惑った様子を見せたがすぐさま頷いている。
「とびっきり美味しいの淹れてくるから待ってて!」
私はそれだけ告げると、足早にキッチンへと駆けていくのだった。
頬の熱を誤魔化すように。
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