第38話 運び屋の仕事 その4
暗号表の入った箱を掴み飛び立とうとするフクロウ。
距離が遠いので、まず手前の木の枝に飛び移り前足をかける。すぐさま引き付けた後ろ足で枝を強く蹴る。が、もう少しのところでフクロウに届かず斜面に着地。そのままの勢いで目の前の木の幹を蹴って再度フクロウに向かって跳躍。
長く伸ばした爪の先端が箱に届く。フクロウは箱を放さないが、高度が落ち山の斜面にぶつかるように着地する。慌てて飛び立とうするが動きが遅い。今度はフクロウをめがけて飛びかかる。私に気づいたフクロウは箱から足を放し真上に飛び上がる。前足を上に伸ばすがフクロウには届かない。だが、箱は取り戻した。
箱を確保したはよいが私には運べない。エドガルを見ると、カイの方に向かって斜面を登っている。カイは魔法使いと戦っているが、カイが振り回す剣は空振りしているように見える。相手は半透明なこともあり、ここからだと状況がよくわからない。
「伏せてください!」
エドガルが叫ぶと、カイは山の斜面にしゃがみ込む。
すぐさまエドガルが杖を前に出すと、熱波を放ったらしくカイの前のあたりの枯葉が次々と飛び散る。魔法使いには当たっていないようだ。エドガルはさらに広い範囲に向けて次々と放つがどれも手ごたえがない。
「離れたようだ」
カイがそういうと剣を構えてゆっくりと立ち上がり、あたりを見回す。
「そのようですね」
エドガルも山の上の方を見る。
「みゃあ!」
この箱をなんとかしてくれ、と呼びかける。
「あ、そうでした」
そういうとエドガルが斜面を滑るように降りてくる。
エドガルが箱を背負っている鞄に押し込む。これで一安心だ。見上げると、フクロウが高い枝にとまりこっちを見ている。こいつがいるということは、魔法使いも近くにいるのか。
エドガルと一緒に斜面を登り始める。こっちを見ていたカイが突然斜面を転げ落ちる。魔法使いに突き飛ばされたのか。
「あ!」
エドガルが声を上げ、カイの方に向かって駆けだす。
私もカイの方に向かおうと思ったが、相手がどこにいるのかわからないので木に登りあたりを見ることにする。
「くそ」
木にぶつかって止まったカイが悪態をつく。
斜面の枯葉が次々と飛び散る。魔法使いがカイの方に駆け下りているようだ。
「みゃあ!」
上だ!
「このっ!」
エドガルも魔法使いに気づき熱波を放つが当たっていないように見える。
カイが剣を構えようとしたところでさらに突き飛ばされたのか蹴られたのか、体が回転しうつぶせに倒れる。直後、背中の荷物が持ち上がったと思うと、遠くに投げられる。肩にかける紐が切られたようだ。一瞬短い剣が見えたように思う。剣は透明にはならないのか。
落ち葉が動く。魔法使いが鞄に向かって駆けだした。
木の枝を伝って追いかける。空中を移動している際、ふと気配を感じたので上を見るとフクロウが爪を広げ向かってくる。私を攻撃する気か。体をひねり前足の爪を最大限に伸ばしフクロウの足をたたく。当たったが、フクロウに掴まれたのか足の爪に引っかかってしまう。が、これが功を奏した。背面のまま飛んでいたのでは枝にぶつかるところだったが、フクロウのおかげで移動の方向が少し変わり、さらに勢いが落ちて地面に落下する。背中から落ちるのは屈辱的だが、斜面なのとフクロウが飛び上がろうと羽ばたいていたおかげで衝撃はほとんどない。
落下したところで前足が離れ、フクロウは斜面の下方向に滑空していく。また戻ってくるだろう。鋼鉄の爪がフクロウの足に当たった際の感覚は、金属にぶつかったような感じだった。足に鎧のようなものを足につけているか。
それよりも鞄はどうなった。カイの鞄の方を見ると、魔法使いが鞄を開き中から暗号表の入った箱を取り出したところだ。そうはさせるか。斜面を駆け、魔法使いがいるあたりに向かって飛ぶ。私に気づいたのか魔法使いが箱を上に放り投げる。見上げるとフクロウが箱に向かってくるのが見える。半透明で見えにくいが魔法使いの体のあるあたりに爪を振り下ろす。
手ごたえあり。
「うっ」
魔法使いのうめき声が聞こえる。
飛びかかった勢いで魔法使いにぶつかる。再度鋼鉄の爪を振り回した後、魔法使いの体を蹴って間合いを取る。見えない相手の近くに長くいるのは危険だ。だが、爪が切り裂いたところから一瞬魔法使いの体が見えたように思う。半透明になる布のようなもので体を覆っているのかもしれない。さっき剣が見えたことの説明もつく。
「みゃあ」
このあたりにいるぞ、とカイに伝える。
そうだ。フクロウはどこだ。
あたりを見回す。いた。箱を掴んで斜面を滑空している。間に合うか。
斜面を駆け降り、勢いをつけて木の枝に飛ぶ。さらに枝を蹴って木から木に飛び移り追いかける。速度は滑空するフクロウに負けてはいない。が、追いつけない。
その時、フクロウの前方に枝が次々と落ちてくる。エドガルが放った熱波によるものか。
フクロウが枝を避けるために羽ばたき向きを変える。速度が大きく落ち高度も下がる。追いつける。
太い枝を蹴り、フクロウがいる方向に向きを変える。後一回の跳躍で行けるか。
最後の跳躍。
フクロウが頭をまわして私の方を見ると上昇に転じる。
爪を延ばし箱を狙うが届かないかと思った次の瞬間、フクロウの姿勢が乱れる。エドガルの熱波が当たったようだ。羽があたりに舞っている。遠くからなので威力は小さかったようだが、フクロウの上昇速度を落とすには十分で、おかげで前足の爪が箱にかかり、体がぶら下がる。さすがのフクロウも私と箱の両方をぶら下げては飛行できず高度が急に下がり始める。
木の枝が茂ったあたりに突っ込む。思わず目を閉じる。もう一方の前足も箱にかけ奪われないようにする。
枝の茂みを通り抜け地面に落下。フクロウはあきらめて飛び立ったようだ。山の斜面が見えてきた。箱から爪を引き抜き着地に備える。
着地後斜面を転がる箱を追いかける。ちょっとしたくぼみで箱に追いつき確保。やった。
見上げるがフクロウは見えない。
「大丈夫ですかー」
エドガルの声が聞こえる方を見ると、斜面を滑りながらこっちに向かってくる。
「みゃあ」
問題ない。
「あ、取り返したんですね。すごいですね、二つともです」
エドガルは背負っている鞄をおろす。
「二つは入らないですね。こっちはカイさんに持ってもらいますか」
エドガルと私は再度山を登る。エドガルは山道を、私は木に登り枝を伝って飛んでいくことにする。
「みゃあ」
私は先に行く。そう伝えると木の枝に登り枝を伝って斜面を登っていく。
カイが見えてきた。しゃがんでいるようだ。
もしかして魔法使いを抑え込んでいるのか。ちょっと急ぐことにする。
斜面に飛び降りカイの近くまで駆け寄る。魔法使いの足が見えている。やはり半透明になる布のようなものをかぶっていたようだ。
「こっちだ!」
カイがエドガルに呼びかける。
「はい!」
エドガルが駆け上ってくる。
この布をはぎ取ってやることにした。
足元の布のあるあたり探ってかみつき、頭の方に走る。魔法使いの腹のあたりまでが現れた。そこより上はカイが抑え込んでいるのでめくることができない。
「あ、やりましたね」
エドガルも魔法使いを抑え込み、半透明の布を完全に男から取り去る。
それほど若くはない男が現れる。ギースくらいの年齢だろうか。不機嫌な表情だが何もしゃべらない。
「こいつは魔法使いなのか?」
「どうでしょう。このマントは魔法使いじゃなくても使えるので」
「さて、こいつはどうしたものか」
カイがいう。
「ちょっと荷物を見せてもらいましょうか」
エドガルがそういうと、男が背負っていた鞄を体から引きはがす。
「暗号表は持ってない」
男が声を出す。
「確かに箱は入ってないですね」
鞄をのぞき込むエドガル。
「手帳とか書類とかですね」
鞄を中に手を入れ、入っているものを取り出しては元に戻している。
「今の書類をちょっと見せてくれ」
エドガルの取り出すものを見ていたカイが声をかける。
「これですか?」
「ああ」
「おい、暗号表を持ってないことはわかったんだから放してくれ。もう手は出さない」
男がいう。なんか焦ってる感じだな。
「この紋章は知っているぞ」
「暗号表以外は関係ないだろ!」
男が声を荒げる。
「何の紋章ですか?」
「確かこれはライゼルの商業組合のものだな。どの業種かは覚えてないが」
「え? そんなところが暗号表に関わっているというのは問題では」
「ああ」
「他の書類も確認してくれ」
「はい」
暗号表を盗む目的はよからぬたくらみのためということなので、そんなたくらみに商業組合が絡むのが問題ということか。
ギースなら、この情報をギルド本部に伝えて賞金を要求するところだな。後で賞金についてカイらに話してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます