第6話 作戦会議
白兎亭の食堂。朝食は宿泊者にだけ提供されるが、昼食と夕食、夜の酒場は誰でも利用できる。
昼食は宿泊者だからといって特に割引というのはないそうだが、それでも安く利用できるということでここで食べる宿泊者も少なくない。中には狩った獲物を中庭で解体して焼いて食べてるやつもいる。私はここで働いているので食事はでるが、朝と夕方の2回だ。腹が減った時は昼食の時間帯に食堂や中庭を歩くようにしている。食べ物を私に食べてもらいたがる人間もいるのだ。
作戦会議とやらをやるようなので私も参加する。打ち合わせのテーブルはちょうど窓際のテーブルだったので、窓枠に座ることにする。
「さてと、出発は明日、朝飯食ってから出発だ。で、まずはダンジョンの階層について確認しておく」
ギースが説明を始める。テーブルに何かを置く。ダンジョン心得と書いてある。これは本というものだな。
「ダンジョンは15層まであるんですよね?」
ハルトが質問する。
「ああ。15層とか17層まではあるって話だが、公式には12層だ。公式の地図がそこまでしかねえ」
ギースはテーブルに置いた本を広げ、織り込まれていた地図とやらを広げる。地図というのは街とかの大きくて直接は見えないようなものを小さく書いたもので、この地図はダンジョンの地図だろう。
「で、ダンジョンそのものは天然の洞窟と人工的に掘られた坑道でできている。0層ってのは地上と同じレベルで、そこから地下に降りるにつれて階層が深くなる」
ギースが説明を始める。
「建物の一階、二階、地下室のような明確な階層があるっていうよりは、深さによって決まるんだな。で、主な坑道には各層の道しるべが設置されている」
テーブルに広げた地図に目をやる。
「地図はあるが、階層がはっきりと分かれてないし、行ったり来たりしながら降りていくこともあって地図はわかりにくい」
そういうとギースは地図を指さす。
「これは地上から3層までの地図だ」
「冒険者ギルド本部には12層までの立体地図がありますね」
ハルトがいう。
「ああ。主な坑道だけだが、5層より深くまで行くやつらはあれを覚えてる。まあ、俺もだいたい覚えてるがな」
ギースがこたえる。
「主要な坑道は天井も高く幅も広いが、他に闇ネズミやコウモリとか大ムカデといった危険な動物が通る狭い穴もいたるところにあるから要注意だ」
「そうそう。ダンジョン大ムカデとかね」
メルノラはそういうと両手の指をムカデの足のように動かす。顔の表情からすると、嫌なものらしいな。ムカデはこの宿でも時々見かけるが、動きが早いので退治するのは厄介そうだ。大ムカデということはサイズも大きいのか。
「3層と5層には大きな空洞があって、常設のキャンプが設置されている」
ギースが説明を続ける。
「で、私たちが向かうのはその3層ってわけね」
メルノラがそういうとギースがうなずく。
「3層に向かうルートは5つあって時間を重視するならこれだが、垂直に近いところを降りる必要がある」
「新人もいるし、ちょっと遠回りで古いがこのルートがいいだろう」
そういうとギースが指さしたルートは、確かに最短のものと比べると距離は2倍近くありそうだ。
「それはそうと、お前らはダンジョンに入ったことはあるんだよな? 新人は別にして」
ギースがメルノラとベルナの方を見る。
「もちろんよ。私はこのあたりまでいったことがある」
メルノラはそういうと地図を指さす。
「なんだ、2層じゃねえか」
「わたしはこのあたり」
魔法使い見習いのベルナが遠慮がちに指さす。
「そこは0層だ。入口からちょっと入ったとこじゃねえか」
あきれたような表情のギース。
「新入りは初めてだよな?」
「はい」
ハルトはちょっと緊張したような表情だ。
「はあ。子供の遠足の引率みたいだな」
今回の目的地、ダンジョンの3層に行ったことのあるやつはいないようだ。
「ギースさんは何層まで行ったことがあるんですか?」
ハルトが質問する。
「俺は、まあ、7層のあたりまで行ったことがある」
「すごいですね」
「まあな」
「あれ、珍しい組み合わせね」
見るとリスタが食事を乗せたトレイをもってテーブルのわきに立っている。
「ダンジョンに入るの?」
テーブルに広げられた地図に気づいたようだ。
「はい。3層までですけど」
ハルトがこたえる。
「へー、いつ出発するの? 私も5層までいくからいっしょに行く? 明日、朝食食べたらすぐに出る予定なんだけど」
そういうと、同じテーブルにつく。
「5層まで行くんですか?」
ハルトが質問する。
「そう。5層のキャンプに時々出張して装備の修復やってるんだ。そろそろ10層あたりに出掛けてたパーティーが帰ってくる頃だから」
リスタはこの宿でも装備や服の修復をやっている。
「5層って、深く潜るパーティがベースにしているところだから結構仕事は多いし、いい稼ぎになるのよ」
「3倍の値段つけてりゃあ、そりゃあ儲かるわな」
昼食のパンをちぎりながらいうギース。
「危険なところを通って荷物背負って5層まで出張してるんだから、それくらいもらわないとね」
リスタはギースの皮肉は気にしていないようだ。
人間のお金は物との交換に使われるほかに、仕事への対価としても使われる。私もここでネズミ狩りをしているが、その対価は食事と寝床ということか。私の場合、お金をもらっても、そのお金と交換したいようなものはないから、まあ現状には満足している。
「5層って危険じゃないんですか?」
ハルトがリスタに質問する。
「キャンプまでたどり着けば塀で守られてて明かりもあるし、一応警備もされてるから大型の動物や魔物が入ってくることはまずないわね。小さいのは入ってくるんだけど」
小さいやつもいるのか。そいつらなら私でも対応できそうだ。
「まあ、俺らも出発は明日の朝飯の後だから、いっしょに来てもいいぜ」
ギースがいう。他の3人もうなずいているから賛成なのだろう。
「みゃあ」
私も歓迎するよと伝えておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます