第7話 出発

翌朝の朝食後、宿の前に集まる5人と私。

「あれ? シイラちゃんも一緒にいくの?」

リスタが私がいることに気づいたようだ。

「みゃあ」

昨日からそういってるだろと返事すると、ハルトが背負っている荷物の上に駆け上がる。

「あ、あれ? ほんとに一緒に来るみたいだ」



街を囲む塀から外に出てしばらく歩くと、ダンジョンの森というところに入る。ここは私が最初にこの世界に来た時の森じゃないか。ということは、あの半透明やつらが出てくるかもな。


「あ、ポライムだ!」

ハルトが指さす方を見ると、懐かしいやつらがいる。ポライムというのか。

ハルトが剣を抜いたところを見ると、やっつけていいんだな。


荷物から飛び降りると、一番近くにいたやつに近づく。とびかかってきたのでパンチ。地面にたたきつけられたポライムは以前と同じように細かく分解する。分解された際に目の前に文字が表示されるのも同じだ。今回は私だけじゃなくて人間もいるので、相手の数は多いが逃げる必要なく撃退できた。魔法使い見習いとか聖職者も手に持っている杖とやらで戦うことができるんだな。何か唱えるとちょっと光って相手に打撃を与えることができるようだ。


「経験値23獲得!」

ハルトが嬉しそうにいう。なるほど、あの数字は経験値というのか。ポライムを一匹倒すと経験値は1増えるようだが、一部の色の違うのとか固めのポライムを倒した場合は経験値が2とか5とか増えている。ネズミの場合は一匹倒して0.1と表示される。0. の右の数字が1から9まで進むと次に1になるから、ネズミ10匹で弱いポライム1匹ぶんということか。ポライムの方がネズミよりも簡単に倒せるが、相手の強さと得られる経験値には関連がないのだろうか。

まあ、いずれにしても、経験値を上げるならポライムの方が効率がよいということだな。私の経験値は今倒したポライムで198になった。たしか、私の言語能力は経験値が100になったところで獲得できたようなので、200に達すればさらに何かの能力を獲得できるのかもしれない。ちょっと楽しみだ。


「おいおい、23くらいでよろこぶなよ」

ギースがハルトに向かっていう。

「は、はい、でもこれで経験値が100を超えたんです」

「100? ほんとに初心者なんだな」

ちょっとあきれたような表情のギース。

「誰もが最初は新人よ」

これはリスタ。

ポライムのような弱いのを倒しても大した経験値を得ることはできないということか。つまり、ポライムより強い生き物がいるということだな。


視線を感じたので振り返ると、リスタが私の方を見ている。

「シイラちゃんも魔物と戦うなら、やっぱり防具とかあったほうがいいよね」

防具? ハルトらが服の上に着けてるようなやつのことか。ポライムに体当たりされても大したことないが、爪とか牙のあるやつがいるなら確かに何か体を守るものがあってもいいかもしれない。服を着るのはちょっと抵抗があるが。

「みゃあ」

まあ、ちょっと考えておくよと返事する。


「3層のキャンプにたどり着くまでに更に100は獲得できるはずだ」

ギースがハルトの方を見ながらいう。

「ということは往復で200はいけますね!」

ハルトはうれしそうだ。

「まあな。ポライムのようにはいかないからなめてかかるなよ」

「はい!」



森の中はところどころ高低差はあるものの全体的には平坦だ。

住んでいる街はダンジョンに向かう冒険者の宿場町として発展してきたと聞いたので、もっとダンジョンに向かう道中は人が多いのかと思っていたのだがすれ違うパーティはなく、道も雑草が多く木の枝も落ちていて人通りは少ないように見える。


「この小さな丘を登ったところが目的のダンジョン入口だが..」

ギースは何かなっとくいかないような感じだ。

「ここに来るのはだいたい1年ぶりだが、前はもっと人通りがあったんだ」


「いつもはキャンプまでの最短ルート使ってるんだけど、こっちはもう使われてないのかな」

リスタも背負った大きな荷物の位置を直しながらつぶやく。

「初心者向けっていわれてたけど、中途半端に遠いからここを使う人は少なくなったのかもね」

メルノラも振り返りながらいう。

「そうかもな。まあ、人が少ないってことは経験値が稼げるってことでいいじゃないか」

ギースは人が少ないことを前向きにとらえているようだ。


「僕のためにすいません」

ハルトが申し訳なさそうにしている。

「いいってことよ。俺も初心にかえった気分で頑張るとするか」

ギースがそういうと進み始める。


坂を上ったところは平らになっており、木でできた門がある。街の門のように人がいるわけではないが、扉が閉まっている。

「さてと、ようやく入口に到着だ。が、道中もそうだったがここもさびれてるな」

「だいじょうぶなんでしょうか」

ハルトはちょっと不安そうだ。


「人が少ないってことは魔物やらが多い可能性はあるが、3層までなら大したことはないだろう」

ギースがいう。


「それじゃあ、入るか」

ギースはそういうと、門を引っ張るがびくともしない。

「お前らも手伝ってくれ」

「はい」

5人がかりでなんとか人が通れる隙間ができる。全員が中に入ると、扉を引っ張って閉じる。戸締りするのは家だけじゃないんだな。


ダンジョンとやらにはこの山に開いた大きな穴から入るのか。人が少ないといっていたが、雑草も多く上から蔦のようなものが垂れ下がっている。洞窟の中は真っ暗だ。


「人通りの多い坑道にはランプ灯があるんだが、ここは期待できないな」

ギースが洞窟をのぞき込む。


「じゃあ先頭はベルナ、お願いするわ」

ギースが魔法使い見習いに向かっていう。

「え? わ、わたしが先頭ですか?」

「魔法使いなんだから、その杖で明かりをともせるだろ」

「あ、そういうことですか」


「じゃあ、いくか」

ギースが4人の方に向かっていう。

「あ、あの、皆さんは松明を持たないんですか?」

ベルナが遠慮がちにいう。4人は怪訝そうな感じで魔法使いの方を見る。


「え? おまえがいれば松明はなくてもいいだろ」

ギースは驚いたような表情をしている。

「まさか、明かりともせないとか?」

メルノラが魔法使い見習いに疑問を呈す。


「ま、まさか。もちろん明かりをともすことはできますよ」

ちょっと安心したような様子の4人。

「その、私、最初に言いましたけど魔法使いですがまだ見習いなので、一度に一つの魔法しか使えないんです」


「え?」

驚いた様子の4人。


「そうです。坑道の中で魔物が襲ってきても、明かりをともしている間は防御魔法も攻撃魔法も何も使えないんです!」

顔を見合わせる4人。

「剣は持ってるのか?」

ギースがベルナの腰のあたりを見る。

「これでも魔法使いですから、剣は使いません」

ちょっと自慢げだが、自慢できる状況ではないように思う。4人の表情からもそれは確かだろう。


「ま、ここまで来てどうこういっても仕方ねえ」

気を取り直したギースが自分に言い聞かせるようにいう。


「で、お前のそれは武器なんだろうな?」

メルノラが腰のあたりを指さすギース。

「一応これは護身用の剣」

「ならいい」


「坑道の入口には予備の松明が置かれてたりするんだが」

そういうとあたりを見回すギース。坑道の入口当たりの地面に落ちている短い棒を拾う。


「これが使えそうだが、燃やすものがねえな」

あたりを見回すが枯葉くらいしかない。


「誰か松明とか布とか油とか持ってきたやついるか?」

ギースがみんなに尋ねる。

「私はダンジョンに行くときは常に持ってるんだけど、今日は荷物が多くて携帯用の小さいのが1本だけ」

これはリスタ。修復用の材料やらがいっぱいつまった大きな荷物を下すと、荷物の横の小物入れに指してある金属の小さな棒を取り出す。さらに荷物小さな袋を取り出す。


「これを引き延ばして先に布を巻いてテレビン油を付けるんだけど、テレビン油はそれほどないのよね」

取り出した松明とやらは金属でできているように見える。引っ張ると長くなる仕組みのようだ。

「だから3層まではできれば使いたくないけど、すぐに取り出せるようにはしておく」


「私は聖職者のたしなみとしてろうそくは持ってるけど、歩きながら使うものじゃないのよね」

メルノラも闇を照らすものは持っていないようだ。もちろん私も持ってない。

「その手に持ってるやつは魔法使いの杖のように光らないのかよ」

ギースがメルノラが手に持っている杖は魔法使い見習いのものよりもずっと短い。

「これは光ることもあるけど、松明替わりに使うものじゃないのよね」


「ぼくは火打石は持ってますけど、松明で使えそうなものはもってないです」

これはハルト。


「しゃーねーな。まあ、俺も持ってこなかったし、事前の打ち合わせで確認しなかったのも悪いんだが、ここで時間つぶしてもしょうがないから出発するぞ」

「まあ、それしかないわね」

リスタが肩をすくめる。しかたないとかあきらめの感情を示すために人間は肩をすくめるようだ。


「予定通りベルナが先頭で明かりを灯す。で、なんか出てきたらベルナを守りながら戦う。いざとなったらリスタの松明を使う」

ギースはそういうと剣を抜く。

「じゃあ出発。念のため剣を抜いておけ」

そういうとギースが剣を抜く。

「は、はい」

ハルトも剣を抜いて手に持つ。魔法使い以外、リスタとメルノラも剣を抜く。私は爪を出してみるがすぐに引っ込める。


先頭に立つベルナが何か唱えると、手に持った長い棒の先が光りだす。真っ暗な坑道が昼間のように明るくなる。

よく聞こえなかったが、何かに呼びかけてたような感じだったか。精霊がどうとかいっていたように思う。これが魔法なのか。以前いたところでは闇を照らすものはいたるところにあったが、同居人も魔法使いだったのだろうか。


「お、いいじゃねえか」

みんな感心している。

「まさか、最大光度じゃないよね?」

メルノラはちょっとからかうような感じで聞いている。


「光度の調整がまだうまくできなくて」

そういうと光が弱くなるが、今度はかなり暗くなってしまう。


「まあ、足元が見えればいいんだが、3層まで照らしていけるんだろうな? 途中で力尽きるとかやめてくれよ」

ギースがいう。

「えっと、3層には昼頃には着く予定ですよね。それくらいなら何とかなるはずです」

「だいじょうぶかよ。まあ、とにかく出発だ」

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