第4話 新人冒険者の試練

気にかけている新入りのハルト・グリアだが、なんか最近元気がないように見える。

毎朝起こしてやっているが、着替えて食堂に降りていくまでの動作が日に日に遅くなるような気がする。体調が悪いということではなさそうだが。しょうがない。様子を見てやるか。食堂についていく。


「ハルトだっけ? 元気ないな」

「まだここに来て間がないよな。最初からそんなんじゃあ、やってけないぞ」

同じテーブルのやつらが声をかける。

「はい」

落ち込んでるな。食事のペースも遅い。


「どうしたの?」

メルノラ・トレランが話しかける。この女が話しかけると、ハルトはいつもなんか恥ずかしそうな感じになるな。

「申し込んだクエストなんですけど、どれも思ったようにいかなくて」

ハルトがこたえる。そういうことか。


「俺が初心者向けって教えたやつを選んでるか?」

同じテーブルのギース・ストランドがたずねる。


「はい。そのつもりなんですけど」

「なんだ、お前が紹介したのかよ。それじゃあロクなもんじゃないな」

名前は知らないが、ギースと同じくここに長く住んでそうな男が指摘する。


「いやいや、俺は難易度について説明しただけだよ。そうだよな? ハルト」

「はい。それで最初のクエストは難易度1の2のやつを選んだんです」


「えー」

「最初は1の0がいいっていったじゃねえかよ」

「はい。でも1の0だと報酬が少なすぎて」

食事の手を止めるハルト。


「それはそうなんだが」

ギースも報酬が少ない点については認めるようだ。

「1は初心者向けで0から3まであるけど、0以外は単に安いってだけで難易度は適当なのがあるんだよな」

名前を知らない男が説明する。

「教えてやってないのかよ」

「1の0選べっていったよ。なあ?」

「はい。でも0だとここの2日分程の宿泊費にしかならないから」

顔をみ合わせる3人。

「で、その1の2で何があったんだよ」


「ダンジョンから帰ってくるパーティーの荷物運びするやつなんですけど」

ハルトが説明を始める。

「ダンジョンの森か?」

周りの人間がちょっと驚く。

「まあ、昼間なら素人でも大丈夫だからな」

その発言を聞いて、驚いていた人間も安心したように食事を再開する。

「確かに昼間なら問題ないな」

それを聞いても浮かない顔のハルト。


「もしかして夜なのか?」

ギースが心配そうな感じでいう。


「日没前に返ってくるから、荷馬車を持って行って待ってるっていうやつで..」

ハルトが説明し始める。

「それって、帰ってくるのが遅れて夜になったとか?」

「はい」

「でも、パーティーと一緒に帰ってきたんだろ?」

「それが、荷物が思ったより多くて荷馬車への積み込みに時間がかかってしまって、パーティーの人たちは先に帰ってしまったんです」

「ひでーな」

「何人で引き受けたんだよ」

「ぼくともう一人です」

「二人か」

「荷物を積んで帰ってくるだけなんで、二人で十分だと思ったんです」

「で、その仕事いくらだったんだよ」

「70シルバです」

「それを二人で分けるんだよな?」

「はい」

「荷物運びで35なら悪くはないな」

大部屋の宿代は1日4シルバだから8日分で3シルバ余る。

「確かにな。掘り出しものだ」

「はい。でも、馬と荷台は自分たちで借りないといけなくて、馬1頭と荷馬車で10シルバかかったんです」


「まあそれでも一人当たり30か。ま、初心者にしては悪くねえ」

「ぼくもそう思ったんです」

浮かない顔だ。


「で、何があったんだ?」

ギースがたずねる。

「なんとか荷物を積み込んで、積めない分は膝の上に乗せて、ようやく出発するころにはもうほとんど日が暮れてて..」

「荷物って何?」

メルノラが質問する。

「パーティーの人たちの荷物の一部と、彼らが退治した紫トカゲとか採取した植物とか鉱石とか色々なものです」


「あ、なんかやばそうな雰囲気」

メルノラがいう。いつの間にか隣のテーブルについている。荷物の内容と日が暮れたことの間に何か関係があるのか。

「はい。ダンジョンの洞窟の入口近くだったので、出発するころには中からコウモリとか何か獣が出てきてて」

「日暮れになってすぐに出てくるのは、コウモリと闇ネズミだな」

ギースがいう。闇ネズミというのは街にいるネズミとは違うのだろうか。


「はい。でその闇ネズミの群れに追いつかれてしまって」

「紫トカゲとかやつらの好物だからな」

「もう一人が御者やってたんで、ぼくが荷台で頑張ったんですけど足場も悪くて暗くてよく見えなくて」

闇ネズミというのは見たことがないが、ネズミというからにはネズミなんだろう。私がいればなんとかなったのにな。


「結局、荷物の一部を失ったってことで報酬が引かれて、馬代とかを引くと一人3シルバにしかならなかったんです」

「そりゃ災難だったな」

「はい。で、一緒に行った人も僕と同じくらいの年で冒険者始めてまだ10日ほどらしいんですけど、彼にも散々文句いわれてしまって」


「まあ気にすんな」

「一回や二回の失敗で落ち込んでたら冒険者なんてやってらんねえぞ」

「赤字にならなかっただけいいじゃないか」

「そうそう」

話を聞いていた隣のテーブルのやつらも慰めている。


「はい。翌日から三日間は15人くらいのパーティーに参加させてもらったんですけど、初心者だってことで下働きばかりで、いろんな手数料ひかれて報酬も聞いてたのよりずっと安くて」

「やられたな」

「よくあるやつだ」

「何もかもうまくいくもんじゃないんだからよ、次に稼げばいいんだよ」

「そうですよね」

ちょっと元気が出てきたようだ。


「今日も冒険者ギルド行くんだろ?」

ギースがたずねる。

「はい」

「俺も行くからアドバイスしてやるよ」

ギースがいう

「ありがとうございます」

「じゃあ、私もついてってあげようかなー」

メルノラがちょっと楽しそうな感じでいう。

「あ、ありがとうございます」


二人がハルトを助けるというなら、私もちょっと面倒見てやるか。

「みゃあ」

私もついていってやるよ、と伝える。

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