第12話 新たな火種(レイマン視点)
この迷宮都市に来てから四年。僕は『金剛』などと呼ばれるほどのトップ冒険者となった
そんな僕は大抵のものが手に入る。莫大な金も綺麗な女性も貴族の地位だって貰えるだろう
そんな僕が目をつけた少女がいた。顔立ちも良く露出の多い服装に男たちの劣情を刺激するような体型。
僕もほんの少し魔がさして声をかけたけど、あの少女は、
『あ?』
あんなに女性から睨まれたのは初めての経験だった。今思い出しても信じられない。
「くそっ!!なんだったんだよあの女は!」
「せっかく俺らが声をかけてやったってのによ!!」
「今度見つけたら身ぐるみ全部剥いでやろうぜ」
今は店を一つ貸し切ってクラン単位で依頼達成の祝杯を上げている
ちなみに、パーティが四〜六人で組まれてあるのに対してクランはいくつかのパーティで組まれた大きな団体。
この場にも三十人近い冒険者達が酒に溺れ、食事に舌鼓を打っている
それにしても、コイツらときたら下品な会話ばかりだ。おこぼれでウチのクランにいれてやったのに、少し助長しすぎてるんじゃないかな
「それで、あの依頼はどうするのレイマン?」
私とともに卓を囲むの四人の男女は正真正銘のパーティメンバーたち。
その中の一人、魔導師のレベッカが私に話しかけてくる。依頼?なにかあったかな
「どうするって受かるんじゃないのか?」
隣から会話に入ってきたのが盾役のロイドだ。ウチのパーティでは一番の怪力の持ち主で、彼無くして迷宮へはのぞめない
「それを決めるのはレイマンよ。王国貴族から何度も催促が来てるでしょ?そろそろ返事をしないと」
「強敵なら戦ってみたいぞ!」
好戦的な男が剣士のリド。攻撃力はすごいが、いかんせん大雑把すぎる
「えっと、私は、お任せします」
オドオドと表情を見ながら焦りながら答えたのが治癒師のマーシャ。これでも腕は超一流だ
この四人こそが、僕と一緒に戦ってきたパーティメンバー達だ。
「でも、あんな額の報酬、信じられる?」
「貴族が嘘をつくはずないでしょ?それにクエストに出された物も相当だから虚偽じゃないはず」
僕たちが話し合ってる内容は以前迷宮都市にやってきた貴族からもたらされた指名依頼の話だ
内容は『神聖石の入手』。提示された報酬はこれから一生は遊んで暮らせるだろう額だった
「これはチャンスよ。レイマンが都市で、いや王国一の冒険者になれるチャンスなのよ!」
たしかにそうかも知れない。この依頼は貴族を介しているけど実際は王家からもたらされたものだ。
成功すれば、報酬も名誉も今以上に受け取れる。それこそ王国一の冒険者も夢じゃなくなる
よし。リスクもあるだろうけど、この依頼、受けてみる価値はあるかも知れない
「よし、やろ———」
「それ、ちょっと待ってくれるかな」
「———えっ」
「「「?!?!」」」
優しさを感じさせるような声音。声がしたのは後ろからでも横からでもなく、真正面からだった。黒い装束とフードで顔を隠してるから不気味だけど冒険者なら大して珍しいことでもない
気づかなかった…。僕だけじゃなく、他のみんなも気づいてなかったみたいだ。一体いつからいた?
「誰だ!?いつからいた?!!」
「えっと、依頼がどうとかって辺りからは聞いてたよ」
まさか、そんな前からいたのか……。それなのに、僕も他のみんなも気付かなかった?
ありえない。これでも上位の冒険者だ。日々危険と隣り合わせの迷宮で生き残ってきた自負もある。危機察知にかけては全員が敏感なのに
「まあまあ落ち着いて。周りも静かになった事だし、ゆっくり話そうじゃないか」
「…周り?」
たしかに静かだ。さっきまで騒いでいたのに、どうしたんだ?
見回してみると、この場にいたこの卓以外の冒険者は全員が意識を失って倒れていた
「おい!お前らどうした!?」
ロイドがその内の一人に駆け寄って身体を揺さぶるが、起きる気配はない
「テメェ、何しやがった!!」
「ちょっと寝てるだけだよ。時間が経てば勝手に起き上がるさ。それより、えっと、レイマンくん!俺と話しをしよう!」
「話し…?」
「レイマン!耳を貸しちゃダメ!!」
「誰だか知らんが、とりあえず斬る!!」
レベッカが僕を守るように前に立ち、リドが斬りかかる
「外野は黙ってくれるかな」
地面が黒く染まり、そこから伸びた手が斬りかかる直前のリドを掴み拘束する。
「くっ、なんだこれ?!」
「う、動けません!!」
他のみんなも同様にその場に縫いとめられてしまっている
「やめろ!!」
「話しが終わればね。今は拘束してるだけだから心配はいらないよ」
今はだと…。つまり、交渉次第では仲間を殺される可能性もあるってことか
「それで、何が望みだい?」
「望みって言うか、ちょっとしたお願いがあってね。大丈夫!双方にメリットがあるはずだから!」
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