第8話 探索開始

「いててっ、この能力って……」


俺とノアも少女と同じ場所に降り立つ。少女の方は着地がうまく出来なかったのか、お尻をさすっている


向こうも俺たちに気づいたみたいで非難するような視線を向けてくる


「どう言うことだボス」


「久しぶりだねミロ」


この少女、実は俺の知り合いというか、部下である


「急に飛ばされた奴にかける言葉がそれか?こんなもん拉致だぞ」


「いやいや。あの場の人間全員焼き殺そうとした奴が何言ってんの?」


あの瞬間、ミロは目の前の男だけじゃなくて他のも全員殺す気でいた。俺が止めなきゃ血の雨すら降らない地獄が完成してたぞ


「いやでも、あの男は強い側なんだろ?だったらちょっとぐらい大丈夫だって」


「君もだんだんシドウやソロモンの考えに近づいてきているみたいだね」


これは不味い傾向だ。あんな頭狂った天然サイコパスをこれ以上増やすわけにはいかない!


今は関係ないからそんな事どうでもいいけど


「あ、そうだミロ。俺らのこと手伝って」


「あー、石の話か」


「正解。よく分かったね」


「そりゃ、私がここに来たのもそのためだしな」


ん?どう言うことだ


「知らないのか?組織内じゃ、ボスが勇者召喚の石を使ってまた碌でもない事を企んでるって情報が流れてる」


「知らなかったし初耳すぎてびっくりしたよ」


はぁー?組織全体にこの話し広がってんの?たしかにみんなに協力を仰いだけど、個人的なお願いとして受け取って貰えなかったのか?


「それで、報酬も出るって話だしアタシも個人的に探しに来たんだ。都市を周ればあと数人はいるんじゃないか?」


マジか。棚ぼたで労働力が手に入った上にまだ来てくれる可能性も高い、と。いいこと尽くめじゃないか!


「それなら話しが早い。一緒に探しに行こうじゃないかミロ!」


「それはいいんだが、急がないとまずいぞ」


「ん?まずい?」


はて、何があるんだろう


「王国の奴らも神聖石捜索の為とか言って馬鹿みたいな褒賞をかけて冒険者を使った人海戦術で探し回ってる」


べつに王国のトップに渡るんならそれはそれでいいよ。なんならそれがベストかもしれない


「それに、魔王軍の部下もこの都市に来てるらしい。狙いは十中八九その石だろう」


「なに?」


それはまずいな。人間側じゃなくて魔王側に勇者なんて召喚されたら決闘の観戦もあったもんじゃない!


「じゃあ、そいつらに見つけられる前に俺らが手に入れるぞ。ノア、起きろ!」


「うぅぅ。話し終わった?」


「終わったから、早く探しに行くぞ!」


「おー……」


「…なんでボスはノアさんなんか連れて来たんだ?」



こっちが聞きたいよそんな事!



———



ガリラー迷宮は地下に広がるタイプの迷宮だ


一回層から始まり、踏破された階層は六十三階層にもなるが、最深部へ到達できた人物はいないと言う


出てくる魔物もアンデット系が多く、運が悪いともっとタチの悪い奴に目をつけられてしまう


「んー。リース連れて来ればよかったかな?」


「むっ。私じゃ不満?」


ノアが頬を膨らませても威圧感が全くない。怒ってるんだろうけど全然怖くない


「そんなことないよー、ノアは優秀だねー」


「うん、分かってる」


頭を撫でてやれば気持ちよさそうに目を細めて自分から頭を擦り付けてくる


ふぅー、ちょろくてよかった


「…失礼なこと考えた?」


「まったく」


やべ。地味に勘がいいじゃないか、ノアよ


さて、こんな馬鹿らしいやり取りをしている暇があったらさっさと探してしまおう


「ボス、ここは迷宮の中だぞ?そんな遊んでていいのかよ」


「あれ?俺の心配してくれてんの?」


「いや全然。ボスを傷つけられる奴なんてこの迷宮内にいるわけないだろ」


うん。その信頼は嬉しいけど、俺だって怪我ぐらいするからな?


「周りから怪しい奴に見られるからもう少し冒険者っぽくして欲しいってことだ」


「ふっ。ノアにそんな事ができると思うか?」


言っちゃなんだがノアだぞ?ウチの我儘を極めた幹部の中でも飛び抜けてるノアだぞ??


ミロも上下関係を気にして何も言わないけど、内心はわかってるはずだよ


「…ディー、私は何したらいい?」


「いつも通りだ。敵が来たら粉砕しろ。追っ手がいたら尋問しろ」


「うぃ!」



ノアにはこれくらいの指示がちょうどいいよ。


「じゃあ、敵は任せたよ二人とも!」



俺の仕事がどんどん減っていく。これ、そのうちニートになるんじゃないかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る