第6話 陥落


大陸に数百存在する国々の中でも大国と名高いリデリア王国の王都には三つの要所が存在する


王族達の住まう場でもあり、王国の繁栄を象徴する白亜の宮殿、リデリア王城


精強と名高く、大陸中にその勇名を知れさせる王国騎士の騎士団本部


国内屈指の優秀な魔導師達が集い日々研究を行い時には王国に貢献する宮廷魔導師団の学院



長い王国の歴史の中で幾度となく危機を救い、王族によって守られてきた歴史深く、王国が大国たる所以でもある場所




その内の一つが墜ちようとしていた



「ぎゃぁぁぁぁ!?!?」

「迎え撃て!!魔法の一斉放射だ!!」

「う、うでがぁぁ!?!?」


宮廷魔導師団の管理する学院に悲鳴が沸き起こる


天才と持ち上げられ、神童と謳われた数多くの魔導士達。そんな王国の未来を担うべき人物達が黒い軍服を着た男の振るう剣の一太刀ごとに斬り刻まれていく


時に足を、時に腕を、時に胴体を、時に首を、斬り落とし剣が振るわれれば必ず血飛沫が舞い上がる


「そういえば、シドウくんは知ってる?」


「なにがだ?」


そんな状況を作り出している軍服の男も緑髪の男も世間話に興じている


その間にも死人は増え続ける


「ウチのリーダー、石を探しに自分で迷宮に向かったみたいだよ」


「ほう、ハディス殿が自分から動くとは珍しい。そんなに興味を引くものなのか?その神聖石とやらは」


撃ち込まれた炎の球を切り裂き正面にいた三人の魔導士の首を一瞬の内に落としてみせる


「そりゃあ、ほとんどの英雄譚に登場する勇者を呼び出せる石だよ?他の国だって欲しいに決まってるさ!」


「それを自分の道楽のために使おうとするのだから、なんと言えばいいものか」


シドウがこの場にいる最後の一人を斬り伏せて困ったように眉を寄せる


「あははっ、それもリーダーならではの価値観だからさ。おっと、そろそろ本命の登場らしい」


ノイズとシドウの目線の先にいるのは、後ろに十数人の魔導師を引き連れた壮年の男性だった



「…よもや、こんな事になってしまうとは」


絶命した魔導師達の姿を見て目を細め、声を震わせる


「手を出す相手は選んだ方がいいって学べたね。その年になってまた成長できたよ。君たちはそう言うの好きだからねぇ」


「き、貴様!!師を愚弄するか!?」


後ろに続く魔導師の一人が激昂する。それを見てもノイズのヘラヘラとした態度は変わらない


「ノイズ、あれか?」


「そうだよ。王国宮廷魔導師団団長ラージャ・コルクニス。リーダーの周りを嗅ぎ回ってた羽虫の大元さ」



この老人こそが、王国を支える者の一人。


魔導師の祖、知識の書庫、王国最高の叡智などと称えられる最高クラスの魔導師


ラージャ・コルニクス。現代において英雄と呼ばれるに近い存在だ


「みな、下がっておれ。死んでいった者たちの仇はワシが討つ」


「ですが、師匠……!!!」


「安心せい。この程度の剣士、今まで何度もやりおうてきたわ」


手に持つ杖を構えて二人に向ける


「なんじゃ?抵抗の一つも無しか?」


「いやいや。やっぱり生い先短い老人が頑張ってくれるんだろ?それなら黙って見ていてあげないと」


「言うたな?小僧が!!」



シドウとノイズの地面に光の円が二重三重と描かれていく


「ほう」


「これはこれは」


それでもまだ二人は動かない。


「『聖天結界』!!!」


いずれ光の円は立体となり二人を完全に外壁と隔離する


「やりましたな師匠!!」

「師匠の結界内からの脱出など不可能!!」

「あの『夜会』幹部を二人も……流石ラージャ様だ!!!」


『聖天結界』は世界に知れ渡る数々の魔法の中でも結界系では最強クラスの技だ。後ろで見守る


圧倒的な脅威が去り、緊張の糸が切れ喜び合う魔導師たち


(おかしい……。なぜ奴らは一切の抵抗をせん?できない筈はないのだ)


ラージャはそれなりの年月を魔導に費やし時には戦場でも生き抜いてきた


戦士ではない。が、自分の中で警鐘が鳴り響く。決して油断するな、と


パキンッ



「むっ?!みな、伏せよ!!!」


ラージャの言葉は数秒遅かった。光の線が一瞬走ったように見えた。気付けば後ろにいた魔導師は一人残らず斬り殺された後だ


「わーお!さすがシドウくん!!見事な剣と冷徹な性格だねぇ!!!」


「うるさい。俺たちがここに来ている時点で、コイツらが死ぬ事は決まっていた。早いか遅いかの違いでしかない」


「言えてる!はははっ!!」


ラージャが張った結界は内外からの攻撃をほとんど無効化できる。しかも、自分は王国一の魔導師だ。剣で破られるほど軟弱なはずがない


「で、残ったのは老人だけかー」


「くそっ!!舐めるな!!!」


「もう興が削がれたし、あとは僕がやってもいいかな?」


「好きにしろ」


シドウが剣を鞘に収めて後ろにさがる


「『湧き出ろアニクラス』」


ノイズの辺り一面から黒色の水玉が浮かび上がり空中に浮遊する


「な、なんだ、それ———」


ドサッ


ラージャは何が起こったかも分からず身体中に穴を開け、血を垂れ流しながら絶命し倒れ伏す


「話しの時間は終わったよ」


「最後ぐらい教えてやればよかったろ」


「ははっ、冗談。僕の時間はそんなに無駄に使っていい物じゃないからね」


「まったく…。ウチの組織には変人が多すぎるのが問題だな……」






王国魔導師団の壊滅


国内に衝撃をもたらすこの事件は事情を知った王国の上層部によって揉み消されることとなる



関与した組織の存在が表に出ないように……

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