第5話 各勢力行動開始
えー、みんなと会議を済ませてから数日後
いつも通りに黒い衣装に身を包んで腰には愛剣を指したままの姿。元の世界では異様でもこの世界では注目されることはない
そんな格好で俺はいま…
「よっ、と!!」
釣りをしていた
いや、みんなが頑張ってくれてるのは知ってるんだけどね?
なんて言うか、仲間が優秀すぎると俺のやることが何にもなくなっちゃう
とりあえず、釣れた数匹の魚は塩焼きで食べよ。旅の途中もこうやって食べてたなぁ。懐かし。
「はむはむ、もぐもぐ………むっ?」
魚を食べながら川を眺めていると、気配を感じたので振り向く
「やっほー」
「やっほー」
何もない空中からされる挨拶に返答する。虚空を見つめていると、陽炎のように空間が揺らぎ始め、少女の輪郭が現れる
「やあノア。なんか用事?」
薄い水色の髪にこれまた薄い生地の服を着た小柄な少女が姿を表す
彼女はノア。先日の会議にも姿を見せていた俺ともそこそこ付き合いの長い人物でもある
「うん用事。えっと……なんだっけ?」
「おいおい」
ノアは興味のないことは基本的に覚えていない。頭の中に入っている名前だって、俺らみたいな身近な奴しかないだろう
今もうーんうーんと唸りながら頭を抱えて捻り出そうとしている
「あ、そうだ。ソロモンが、『そういえば、昔なんかの本に神聖石のありかを書いたな〜』って言ってた」
「お!嬉しい情報じゃないか!」
アイツ、趣味は最悪だけど知識量と魔法の種類と魔力の量なら誰にも負けないからな
「ん?ソロモンは石の場所知らないの?」
「ううん。教えてくれたよ。場所の名前は…、えっと、がら、ガル、ガリア、………………なんとか迷宮だって」
「ガリラー迷宮?」
「そんなかんじ」
あそこかー。昔一回行ったことあったな。けど王国内で済んでよかった。帝国とか共和国だったら他の奴に行かせてたところだ
「よし!そこを目指そう!!ノア、暇だろ?一緒に行こう!!」
「えぇ…」
「アイス買ってやるぞ?」
「いく」
最強のお供も手に入れた事だし、久々の運動がてらに迷宮一つ攻略してやろうじゃないか!
———
リデリア王国のはるか北方
年中を雪で閉ざされた未開の地。生物が生きていける環境ではなく、生き残ったのは余すことなく強者達。弱肉強食の理念が強く根付く極寒の大地
その中心に聳え立つ壮大な城の中で、彼の王もまた動き出そうとしていた
「ふむ。貴様、勇者と言ったか?」
呟いたのは色黒の肌の青年。容姿は整っていると言えるだろう。足を組み玉座に腰掛けるその姿は紛う事なき王のそれである
しかし、彼は人間ではない。誰もが彼の頭に生える二本の角を一眼見ればわかるだろう
「はい。と言いましても神話の話です。ですが、アルガス様のためにも邪魔となる芽は摘んでおくべきかと」
膝をつき、頭を下げて臣従すら姿勢を見せながら意見を告げる男性
「なるほど。それで、貴様はどうするべきだと?」
「我々には未だ戦力が整っておられないことはアルガス様もご存知のはず。ならば!勇者すらも利用してしまいましょう!!」
「……ほぅ?」
つまらなさそうな表情のまま閉じられていた目が開き、鋭い眼光が男を睨みつける
「………!!!!」
たったそれだけの行為だが、男は全身の毛が逆立ち死をも予感する
「どうした?続きを話してみよ」
「は、はい……。どうやら勇者を召喚するためには神聖石と言う物が必要なようです。しかし、人間たちも未だこの石を手にはしていません」
震える身体を無理矢理押さえ込み、気丈な態度を崩さないようにするだけでも男の精神が疲労していく
だが、その甲斐あってかアルガスと呼ばれた青年は手を顎に当てて思案し出す
「…それで、その石を我らが先に手中に収めれば、勇者という兵器すらも手に入ると?」
「は、はい!その通りにございます!!」
「………」
「あ、あの…?」
目を閉じて黙り込んでしまうアルガスに男は不安を駆り立てられる。が、再びその瞳が開かれる
「よかろう。できるものならばやってみせよ。成し遂げたあかつきには相応の報酬も払ってやろう」
「ありがとうございます!!必ずや!!私めが成し遂げて見せましょうぞ!!」
ここでようやく男が立ち上がる
「そして、一つお願いがございまして」
「なんだ?」
「戦力を貸していただきたく思います。どうやら様々な勢力が既に動き出しているとのこと。それに対抗するために——」
「分かった分かった。数人、兵をお前に貸してやる。だが、失敗は許さんぞ?」
「はい……!」
有無を言わせない圧倒的な圧。これこそが、魔を統べる王としての貫禄
アルガス・ゾアニクス・リザーモア
彼こそが、魔王に選ばれた絶対的な統率者。新たな勢力がまた一つ、動き始める
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