第4話 リデリア王国会議(国王視点)

「ですから!その件は既に解決したと…」

「帝国との国境問題はどうなっている!?」

「それよりも資金だ。今年は国庫が心許ない。ここは増税を敷いて…」

「これ以上民に負担をかけられるものか!」


はぁ。


毎度毎度のことながら、この会議はため息しかでん


月に一度行われる各分野の大臣や王都の有力貴族による大会議。まともな意見などなく、意地のぶつけ合いになってしまっているではないか


これならば、会議を切り上げて半を押していた方がまだマシだ


「静まれ!!」


宰相の一括で議論を戦わせていた者たちが静まり返る


「一度落ち着いてみろ!これでは時間の無駄ではないか!!国王陛下も辟易しておられる!!」


この宰相とは昔からの付き合いだ。こう言う時はなんとも心強い


「一度問題の整理から始めよう…」


今年も頭を抱えなければいけない事ばかりだ


・帝国との国境問題

・共和国との貿易問題

・王国内の魔物の増加

・魔王軍への対策


そして、かの『夜会』のメンバー達の動向


どれもこれも無視していい問題ではない


「陛下、発言をお許しください」


「…許可しよう」


ここで手を挙げたのはまだ二十台後半と年若く公爵位を継いだばかりの男性だ


名前をヨーク・ドリハルド


経験が少ないのが欠点だが、政治的手腕は評価している


「魔王への対策。このヨーク目にお任せください」


会議室内に喧騒が広まる。急に何を言い出すかと思えば、気でも狂ったか?


「なにか案でもあるのか?」


「はい。私は、今こそ勇者様を召喚すべきだと考えます」


「…勇者、か」


たしかに、今宵の魔王に対抗するにはそれが一番の方法だ。


勇者とは人外の力を持ち、正義を背負い悪を討つ絶対的な存在として語り継がれている


そんな者が我らに味方してくれるならば心強いことこの上ないが


「それは不可能だ。召喚の核となる神聖石はすでに失われてしまっている」


「それが、見つかるとすれば?」


「なに……?」


狂言の類と切り捨てることは容易い。だが、此奴の目は本気だった


「私は独自の情報網を使い、神聖石の情報を集めました。そして、その中には有力なものも含まれておりました!」


「それは、どういったものだ?」


「『神聖石は全部で三つ。一つは失われ、一つは王国に、もう一つはガリラー迷宮に眠っている』とのことです」


「その情報源は?」


「世界的にも名高い大魔法師ソロモンの残した魔導書に記載されておりました!」


「なんと!?」

「それは真ですかな!!」

「かの大魔法師の書ならばあるいは…」


なるほど。大魔法師ときたか


誰よりも思慮深く、誰よりも強大な魔力を誇った世界最高峰と言われた魔導師


今では誰もが知る多くの逸話を残す伝説中の伝説。それならば、この話しにも信憑性はある


「いかがでしょうか、国王陛下!」


「…いいだろう。この件、ヨーク・ドリハルド公爵、其方に一任しよう」


「ありがとうございます!必ずや、成果を持ち帰って見せましょう!!」


「うむ」


これがうまくいけば我が国問題のほとんどが片付く上に、近隣の大国よりも優位に立てる!


「失礼します!宮廷魔導師団所属、ベイン・クローズです!!」


会議室の扉を蹴破る勢いで入ってきたのは宮廷魔導師団の制服を着た青年だった


「何事だ!今が会議中だと知っての狼藉か!!」


「ま、魔導師団団長どのより、緊急のお知らせがあります!!」


「……なに?」


再び室内に喧騒が広がる。魔導師団の団長とはこの国で最も優秀かつ強大な魔導師のことをいう


その人物が緊急とまで付け加えて使いを寄越すとは、一体なにが?


「申してみよ」


「は、はい。『夜会』のメンバーが、行動を開始いたしました!!」


「なんだと?!」


響くのは私の怒声のみ。他の者たちは顔を青ざめさせて口を開いては閉じてを繰り返すのみだ


「それは本当か?」


「はい!間違いないとの事です!!」


最悪だ


ここ十数年は耳に入ってこなかった厄災の手足がまた動き出したか


「それで、今回は誰が動いている?」



『夜会』は謎に満ちた強大な組織だ。いくつもの傘下を持ちどの国の裏にも必ずこの組織があると言ってもいいほどだ


「最近ならば、『炎猫』か?」

「いや、『城割り』やも知らぬぞ」

「『金狼』もいたであろう?」


諸侯達から出た名も、夜会の下部構成員でしかない。それですら異名をつけられるほどの力を持っている


もしも、組織全体が動けば大陸中の国を集めでもしないと太刀打ちできまい


「そ、それが…」


「なんだ?早く申せ」


「は、はっ!動いているのは、『夜会』の首領でもある『災厄の魔人』との事です!!」


「な、ど、どう言うことだ!?」

「貴様、虚言では済まされぬぞ!!」

「なぜそのあやつが…」


…最悪の事態だな


このタイミングで、まさか『夜会』のトップが動き出すとは。奴が動けば必ず歴史の転機が訪れる。


過去の歴史がそれを物語っている。考えたくはないが、国が一つ滅びるぐらいは覚悟せねばなるまい


これは本格的に勇者召喚に力を入れた方がいいかも知れぬな


「…それと陛下、もう一つお伝えしたいことがございまして……」


わざわざ小声で話すとは、身内ごとか?


「今度はなんだ」


「それが、姫様がまた城から逃げ出してしまいまして…」


「はぁ〜。あの馬鹿娘めが!」


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