第5話 師匠の死
7月9日
俺と織江は相良を尾行していた。
俺は運転がメチャメチャ下手で、織江に任せていた。バイクはプロ級だが、車は駐車がかなり下手くそだ。
相良も市営駐車場にジープを停めて夕陽を眺めている。
その昔、この付近の海中から“妙な鐘”が出現したことによるとされる。妙な鐘、妙鐘が転じて明鐘となった。
古来、この辺りは街道の海沿いの難所として知られ、徳川光圀の『甲寅紀行』(1674年)には「鋸山の出崎の小なる路を、岸に沿いて通る。...明金の内に八町許り難所あり。荷付馬通る事ならざる間、一町半あり。」との記述がある。
国道127号の明鐘付近には、南方(下り)となる鋸南町保田側から元名第二・潮噴・明鐘の各隧道(トンネル)がある。
元名第二隧道は元々、富津市寄りの北側(上り)から元名第一・第二と並ぶ二つの隧道だった。法面の落石避けとしてロックシェッドを隧道間に建設したことにより、隧道同士がつながったため、今では一見一つのトンネルのように見えている。
トンネル内は1950年の開通当時と変わっておらず歩道は無い。車道の幅にも余裕がなく、二輪車や徒歩で通行することは危険である。各トンネルには徒歩や自転車で通行する際、後続の自動車に知らせるための押しボタンが設置されている。
明鐘隧道の海側には旧道の名残の小道がある。
そのとき、俺の無線が鳴った。
《安藤さん?私です、宇佐美です。また殺しです》
後を織江に任せて俺はタクシーで現場に急いだ。🚕
場所は黄金の井戸、犠牲者は濱野さんだった。
「アトミックドロップ教えてくれるんじゃなかったんですか?」
遺体には大量のアリが群がっていた。しかも、普通のアリではなくカミアリっていうハチの一種だ。
濱野さんは全裸だった。全裸監督ならぬ、全裸ラーメン屋。全裸元レスラー。体にはハチミツがベトベトに塗られていた。
カミアリってのは毒は少量だが、アレルギー誘発タンパク質を持っている。師匠はアナフィラキシーショックで死んだんだ。
『濱野屋』の常連客である草刈正雄みたいなイケメンが「もう、あの味を食べられないのかぁ〜、部下にはかなり厳しいらしく、出来が悪いとV1アームロックかけるって噂だ」と教えてくれた。
肩の関節を極める技だ。折り畳まれた相手の腕の形がVの字、固定する自分の腕が1の字を描くことからその名がついた。
「濱野さんって部下いたんですか?」
「躾が厳しいのとコロナで売上が落ちたってので、今は一人でやってたんだ」
パワハラされた挙げ句、クビ切られたのか?相当恨んでただろうな?
司法解剖の結果、濱野が殺されたのは7月8日の午後8時〜午後10時であることが分かった。
その時間なら相良は『ルールアウト』って宿泊施設に泊まっている。ホテルマンとの連携プレーで防犯カメラをチェックしていたが、相良は夜間外出をしていない。
詳しいことは分からないが、相良以外の誰かの犯行ってことになる。
俺は現場周辺を聞き込んだ。
漆黒の闇が広がる。8時過ぎで人通りも少なくなったとき、般若の面を被ったやつが近づいてきて『俺が田上』を決めてきた。アトミックドロップの形で俺を高々と持ち上げ、喉輪落としで地面に叩きつけてきた。田上明のオリジナル技だ。
田上 明(1961年5月8日 - )は、日本の元プロレスラー、元大相撲力士、実業家、飲食店経営者。身長191cm、体重115kg。大相撲力士 - プロレスラー時代は身長192cm、体重120kg。
力士時代は押尾川部屋所属で四股名は玉麒麟
「俺が田上だ!」
俺はアスファルトに体と頭を叩きつけ、意識を彷徨った。織江が搬送先の病院に駆けつけた。彼女には1日3回エクスタシーに達すると、どんな怪我や病でも全回復させるという能力があった。
織江は病院のトイレでパンティを下ろしてあそこをクチュクチュいじった。安藤のペニスが陰唇から入り込むことを想像して聖水を迸らせた。
まず1回。ハードなピストン責めをされてるシーンを妄想し2回。3回目はオッパイもいじり、フェラチオしてる姿を妄想してイッた。
病室に戻ると危篤状態になっていて、血圧がかなり下がっていてドクターは心臓マッサージを施していた。
織江は「セックス大好き」と3回言った。
すると、安藤の意識が元に戻った。
「あまりに卑わいな呪文だな?」
ドクターが苦笑していた。
「死ななくてよかった」
織江は涙を流しながら抱きしめてきた。
「あの襲撃者は『俺が田上だ』と去り際に言っていたが、あの技の正式名称は『俺が田上』だ」
「田上の偽者ってこと?」
「うん、それに田上より痩せていた気がする」
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