第3話 黄金の井戸

 🏔   

 7月8日

 水上清史郎みなかみせいしろう高宕渓谷たかごけいこくという、富津市を流れる高宕川によって形成された渓谷にやって来た。

 高宕山の西に端を発した高宕川の渓谷は、春はツツジ、フジ、秋には雑木の紅葉が美しい。急駟滝をはじめとした滝も多く、気軽に沢歩きや滝めぐりを楽しむことができる場所となっている。特にハイキングコースとしては整備されていないが、高宕山への登山ルートの一つとなっている。川廻しや洗い越しも見られる。


 🐒

 高宕渓谷周辺は高宕山のニホンザル生息地となっており、1956年(昭和31年)に国の天然記念物に指定されている。


 水上は山登りが趣味で高宕山に登ってみた。

 周辺一帯は千葉県の県有林で、周囲2342ヘクタールが、1935年に県立高宕山自然公園に指定されている。シナノキが自生する。


 山頂は眺望が良く、視界がよい時には富士山や筑波山などが見える。

 関東ふれあいの道のコース上にあり標識も整備されている。

 山頂から少し北側には、高宕観音堂がある。


 水上は思い出した。この辺りで護送車が襲撃されて囚人たちが脱走したってニュースを。

 車両塗色は市販車のまま且つ、屋根に警光灯が付くものが殆どである。


 窓は外から覗かれるのを防ぐためスモークフィルムが張られたり、またカーテンが装備されていることもある。被疑者の逃走を防止するため窓の内側に鉄格子が装備されたり、運転席と後部座席が金網などで物理的に遮断されていたり、ドアにかんぬきが装備されている場合がある。


 大事件の被告人を護送する場合は、大型車一台に一人(と護送担当)を乗せる事もある。


 観音堂にやって来て水上は息を呑んだ。

 誰かが死んでいる。

 被害者は男性で首にロープが巻きつけてある。

 水上はスマホで警察に通報した。

 富津警察署刑事課の宇佐美和也って警部が担当することになった。宇佐美は天狗みたいな花がトレードマークだ。

「コイツは渋谷じゃないか」

 宇佐美はガイシャを見て驚いた。

 渋谷慧は護送車から失踪した囚人の一人だ。

 宇佐美は県警に連絡した。


 やっと千葉市内に戻って来たってのに新しい事件だ。俺は織江と再び富津市に戻った。

 富津警察署の霊安室に渋谷は横たわっていた。

 俺たちは遺体に合掌した。

「遺体は高宕山にある観音堂にありました」

 宇佐美が説明してくれた。

「もしかしたら相良がやったのかも知れない」

 俺は小声で言った。

 俺は遺体をよく観察した。

 首筋に吉川線を見つけた。絞殺・扼殺されようとする際に、被害者が紐や犯人の腕を解こうとするなどの抵抗により、自分の首の皮膚に爪を立てて傷を付けてしまうことにより発生する。

 同時に、被害者の爪にも血液や皮膚の断片が付着していることが多い。

 吉川線の有無により自分で首を吊った自殺か、絞殺・扼殺による他殺かの判断基準の一つとされている。

 名称の由来は、日本・警視庁の鑑識課長を務めた吉川澄一(1885年 - 1949年)が、ひっかき傷が他殺の証拠にあると着目し、学会で発表した事にちなんでいる。


 濱野は黄金井戸にやって来た。ヒカリモの群生地として有名だ。

 ヒカリモは、日本各地の水のきれいな洞窟や、山陰などの池に生息する藻類であり、暗所で光を反射させることで黄金色に光って見えることが和名の由来である。

 普段は単細胞生物として、長短1本ずつ、計2本の鞭毛で移動する。周年で構成される生活環のうち、通常は4月から6月の浮遊期に、疎水性の柄の上に複数の層で構成される細胞塊を形成し、これが鏡のように入射光を反射させることで黄金色に光るように見え、その様子は「金粉をしきつめたよう」だとのこと。光る仕組みについては、かつては葉緑体が光を反射させるとされたが、これは誤りである。しかし、詳しい仕組みについては十分に解明されていない。


 一般には浮遊期は4月から6月であるが、日立市東滑川海浜緑地のヒカリモ群生地のように、年間を通して光って見える場所もある。


 日立市が北限といわれていたが、近年福島県や宮城県でも発生が確認されている。

 七夕の夜、渋谷たちを殺さなかったのを濱野は後悔していた。アイツらは闇ネットで標的になっていた。1人始末する毎に20万が儲かる。

 濱野はピッキングツールを使い、薬品倉庫からネンブタールという安楽死に用いられる薬剤を盗み出すことに成功した。無色透明だから水にでも入れたらバレない。

 濱野は都市伝説を思い出していた。

 ソレノドンというキューバに棲んでいる絶滅危惧種が富津市で目撃されたというのだ。毒を持った獣で、ジグザグ歩行するそうだ。

 ガサガサ!林の奥で何やら音がした。

 もしかしたらソレノドンかも知れない!


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