第2話 凄いラーメン屋

 俺はせっかくだから、織江と富津市内を散策した。

 市名の由来は日本武尊伝説によるものとされている。嵐を静めるために海に投身した弟橘姫の袖が海岸に流れ着いたことに由来する(布流津)。この布流津が転じて富津になったとされている。


 袖が流れ着いた地名は袖ヶ浦。布流津の布は弟橘姫の腰巻が小糸川の飯野の地に流れ着いたことに由来する。

 市域には縄文時代・弥生時代からの遺跡が数多く分布する。房総半島では古墳時代を通じて古墳が数多く分布しているが、市域では5世紀中頃の内裏塚古墳を頂点とする内裏塚古墳群の存在があり、埴輪や金銅製品などの副葬品が出土している。また、古墳後期の横穴式石室を持つ後期古墳も分布する。


 律令制下では上総国天羽郡全域・周淮郡の一部に属する。平安時代後期には、治承・寿永の乱において1180年(治承4年)に源頼朝が平家方に敗退して安房国へ渡っており、市域にも関係する伝承が残されている。鎌倉時代には称名寺の寺領があり、古戸(富津)の地から年貢の輸送が行われた。戦国期には佐貫城を拠点とする真里谷武田氏や房総へ進出する安房里見氏が支配した。1567年(永禄10年)には、隣接する君津市との境界にあたる三船山において里見氏と北条氏の合戦が行われた(三船山合戦)。

 

 俺たちは東京湾観音にやって来た。仏像彫刻家の長谷川昂が原作者である。

 市のほぼ中央、大坪山山頂に東京湾入り口に向かって建てられ高さは56メートルで、1961年に宇佐美政衛が平和祈念と戦没者の慰霊を目的として建立した。テレビ、映画などのロケ現場として使われ、観音像の顔にマスクを掛ける番組や、映画『千里眼』『ゼイラム2』のロケに用いられた。

「『千里眼』って誰が出てたっけ?」と、織江。

「水野美紀とか大島優子」

 俺は水野美紀のファンで写真集も持っていた。

「そうだそうだ」

 当時の最高建築技術を駆使して建てられ、56メートルの観音を支えるために地下10メートルに支柱を16本埋没しており、3メートルの軸が全体を支えている。長い工期でも事故は皆無で、政衛は観音の加護だと実感した。胎内には314段の螺旋階段で20階までの各階に胎内仏が祀られている。13階の腕の位置にある「腕展望」および頭部に当たる19階の「宝冠部展望」から東京湾、房総半島、気象条件が良ければ関東平野全域を含む関東地方が一望でき、富士山も遠望できる。最上階までの往復には約20分~30分かかる。

  

 夕飯は竹岡ラーメンを食べた。

 醤油ダレに麺茹湯と肉の旨みの詰まっている真っ黒なスープ、薬味に角切りの玉ねぎ、大ぶりチャーシュー、乾麺を入れたものが特徴的なラーメン。

 竹岡ラーメンの特徴は独特の作り方にある。スープは、醤油ダレに麺茹でに使用した湯(または何も入れず沸かした湯)を入れるのみである。その醤油ダレにはしっかりと肉のうま味が溶け込んでおり、湯を加えることで見た目は濃いがまろやかな味のスープとなる。薬味には角切りにしたタマネギを使う。

 俺はラーメンには少しうるさい。

 漁師町とされる千葉県富津市竹岡に所在するラーメン店「梅乃家」と「鈴屋」が発祥とされている。創業は鈴屋の方が古いが、梅乃家が発端となって竹岡ラーメンは普及した。代表格の梅乃家から波及した特徴が各種存在している。 梅乃家では、誰でもほぼ均一に茹で上げることができるなど作りやすく、一定の品質が保てるため、麺は都一製の乾麺を使用している。また、乾麺のうまみを出す火加減の調整がしやすいことから、七輪を使用して小鍋で茹でている。具として大ぶりのチャーシューとメンマ・海苔、薬味として刻んだタマネギが載る。千葉県内で「竹岡ラーメン」や「竹岡式」と称したラーメンは、この二店のラーメンを模倣した店か竹岡式ラーメン店から独立した店舗であり、梅乃家及び鈴屋とは直接の関係はない。梅乃家及び鈴屋と違い、生麺や昆布ダシを使用するなど、その店独自の工夫をこらしているものも多い。


 俺らが入ったのは濱野屋ってラーメン屋だった。店長の濱野空は筋肉隆々で、元プロレスラーだったそうだ。

「アトミックドロップを覚えたくはないか?」

 背後から相手を高く持ち上げて、相手の尾てい骨を膝に叩きつける技だ。

「ジャイアント馬場の必殺技ですよね?」

 ラーメン屋の奥はリングになっていた。 

 俺は濱野の熱血指導を受けた。

「このまえ、小石川にあるグレート・カブキの店に行ってきたんだ。緑の毒霧ハイボールはうまかったなぁ」

「俺も昔、アマレスやってたんですよ」

「卓ちゃんが?意外」

「三沢光晴とかジャンボ鶴田、長州力なんかもアマレス出身だよ」

 濱野が教えてくれた。濱野はよく老人ホームや中学校の慰問に行ったりするらしい。

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