第43話 雨に濡れても透けやしない

 身体が雨に濡れる──。


「ねぇ、小倉くん? いきなり傘離してどうしたの?」と俺にくっつく拓哉。


 こ、このやろう……今がどういう状況かわかっててやってるのか?

 いいや、その感じわかっているはずないよな。


『なんなの、そのイケメン!! も、もしかして……あたしの小倉くんを取ろうと……』

『相手がたとえ拓哉くんでも……これだけは許せない』


 ふと疑問に思う。

 

 あれ? なんでこいつらが一緒にいんの?

 あれ、四十二話分、仲が悪かったはずなのに?


 しかし、仲が悪いのに一緒に帰るなんてことはありえない。


 な、ならこいつらはなんで一緒に帰ってるんだ?

 もしかして、俺の知らない間に仲良くなるイベントでもあったのか!?


 あんなに仲が悪かった二人が一緒に下校するほどの仲になるということはとんでもないイベントだっただろう。


 とりあえず、俺は拓哉の手を払い、傘を拾う。


 すると、この状況で拓哉は堂々と傘の中に入ってきて。


「小倉くん……好き」


『殺す……』

『殺してやる……』


 ガチトーンでそう言う二人。


 冗談だよね? なんて言葉が通じそうにないレベルだ。


 俺は拓哉を渋い顔で見て。


「お前、早く逃げたほうがいいぞ。殺されるから」

「な、なんで!?」


 あー、心の声が聞こえないとは本当に怖い。

 自分が今、どんな状況なのか理解できないからだ。

 それでも、人前でも貫くその精神は尊敬としか言えないな。


 ……仕方ない、話題を変えるとしよう。


「な、なあ? なんで二人が一緒に帰ってるんだ?」


 まあ、多分、仲良くなったのだろう。

 それなら少し嬉しい気もする。

 なんせ、二人の醜い争いを散々見てきたのだ。

 もうそろそろ仲良くしてもらいたい。


『ふん、そんなのこいつと仲良くしてるようにして小倉くんの情報を取るからに決まってるでしょ? こいつからそれを取れば何も残らないもの』


 おい、とんでもないこと言うな!!

 神崎からそんなの取ってもたくさんいいところはあるぞ!!

 ……ああ、そういうことかよ──ッ。

 まあ、期待してなかったよ、石川さんが普通に神崎と仲良くなるなんてあり得ないって!!

 て、ことは……神崎も……。


『石川と仲良くすれば自然と雄也に近づける。そうすれば、話すきっかけになるし……あれ? 石川って案外優しい? 私に気を遣ってくれるし……』


 神崎さん……それ、騙されてますよ。

 多分、石川さんは距離を縮めるために演技をしてると思いますよ。

 でも、俺と話すきっかけか……これからはそれも考えてやるとしよう。


 期待を裏切らないこの二人は本当にナイスコンビなのかもしれない。


「小倉くん、そんなの決まってます。あたしたち、和解したんです。ねぇ〜神崎さん」

「え、声と顔があってない気がするんですけど……」

「ええ、そうですよ〜石川。私たち仲良いですもんね〜」

「え、声と顔があっていない気がするんですけど……」


 そんな、再放送のように同じ言葉を二回連続言うが見事に無視してくる二人。


『あ〜あ、まんまと神崎さんたら、信じちゃって……初めては神崎さんの目の前でしましょうか。ねぇ、小倉くん///』


 怖い、怖い、怖い、怖い──ッ!!


 恐怖のあまりボワッと身体中に鳥肌が立つ。


 石川さん、あんたは怖すぎるよ。

 そもそも、俺は別に石川さんのことが好きでもないし絶対にしない。

 どんなに誘惑されてもだ!!


「な、なあ、雄也?」

「ん?」


 この空気で俺に話しかけてくるのがすごいが、流石にトーンはいつもの拓哉だ。


「お前ってさ? 詩織さんと仲良いんだな」

「そ、そうか?」


 傍からはそう見られてるのか……どちらかというと苦手なんですけどね。


「ああ……そうだ」


 ニヤりと笑う拓哉。


 おい……余計なことしようとしてるだろ?

 

 嫌な気しかしないのだが。


「なあ、みんな。もし良かったらよ? ここで話すのもアレだしさ、雄也の家にでも来ねえ?」

「おい!!」


 すると、二人は目を輝かせて。


「「行く!!」」


 こいつ、余計なことしやがって!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る