第42話 美少女、拓哉くん!

 え……相合い傘して帰るの?

 男の相合い傘って誰得だよ……。


「な、なぁ、サキコ? 今日から梅雨って知ってたか?」


 すると、よく漫画である舌を出してペコリとやるあの表情をして──。


「いっけな〜い!! 忘れてた〜」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は壁に向かって。


「ふん──ッ!!」と頭を叩きつけた──。


 頭に激痛が走る。

 とてつもなく痛い。

 今にも倒れてしまいそうだ。

 でも……。


 それ以上、なんだよ、今の可愛いトーンと可愛い表情──ッ!!

 こうやって、頭をぶつけないと自我を忘れそうになってしまった。


「はぁはぁ……はぁ」


 こいつ、なかなかの野郎だ。


「だ、大丈夫? 小倉くん?」


 俺は大きく目を開き、唇を強く噛む。

 強く噛む力で、血が出ているが関係ない。


「ああ、大丈夫だよぉ〜。そっか〜、サキコ、忘れちゃったのかぁ〜」


 た、耐えろ俺!!

 こんなやつ、ただのイケメンだ!!

 決して美少女なんかじゃない!!


 そう自分に言い聞かせる。


「てへっ──」


 くそ……なんでそんなに可愛いんだよ──ッ!!

 お前は男だろうが、まだ男の娘ならわかるよ!!

 でも……お前は正真正銘のイケメンでガタイがいい男なんだよ──ッ!!


「そ、そうかぁ〜なら、仕方ないね〜。なら、俺の傘にでも入るか〜?」


 拓哉は目を輝かせて「うん!! 入る!!」


 そう言うと、俺に飛びつくように抱きついた。


 ちょうどその時、靴箱に来た一人の女子生徒が、ハッと驚いた表情をするが、すぐさま駆け足で「す、すいません」と気まずそうに靴を変えると走って消えて行った──。


 顔を真っ青にする俺。


 み、見られた──ッ!!

 え、めちゃくちゃ気まずそうだったんだけど……いや、あれはもうらめちゃくちゃを超えてたよ。


 俺は慌てて拓哉を見る。


 今のでわかっただろう……自分がしていることに。

 やれやれ、これからはすぐに影響されないでほしい。


「なに〜、あの子〜、今の嫉妬だよね!! 小倉くん」


 ……なんで、こいつはこんなに鉄のメンタルしてるんだよ。


「ああ、ほんとだなー。ほら、帰るぞ〜」


 くそ、これ以上は誤解を招きたくない。

 一応、こいつはイケメンなんだ。

 親友として変な誤解……いいや、事実を知られては拓哉がかわいそうだ。


「わかった〜」と内股で……女の子歩きをする拓哉。


 ……いいや、そんなことないみたい。



「なぁ、サキコ?」

「ん〜、どうしたの〜、小倉くん〜?」


 そう言いながら、俺の右腕に抱きつきほっぺで俺を擦る拓哉。


「お前……多分、女に生まれてくればビッチでモテたのにな……」

「何いってるのよ、私は女よ〜、全く……小倉くんは面白いなぁー♡!!」


 我慢だ……我慢だ……こいつは男、こいつは男。


「はっ、はっ、は──ッ!! そ、そうだったなぁ〜」

「はははは……」


 笑い声まで女声出せんのかよ!!

 本気で生まれる性別間違えたな……その仕草とその声を使えば、男なんてイチコロだっただろうに。

 いや、男でもステータス高いけどな。


「あとさ……ちょっと、その手だかしてくれない?」

「え……なんで──っ!?」

「なんでってな……」


 そんなの一つしかねーだろ。

 この状況でよ……。


 俺は大きな声で。


「なんでって、見ろよ!! さっきから通る車の運転手たちをよ!! 毎回、通る度にこちらを見てるんだよ、それもめちゃくちゃ気まずそうに!!」

「そ、そういうのも……いいじゃん。というか〜、多分それ私が可愛いからね♡!!」

「ちげーよ。そういうのじゃねーよ!!」


 全く……こいつは。

 しかし、相合い傘の初めてが拓哉ととはな。

 個人的には神崎か石川さんだと思っていた──。


「それで、こんなのでいいのか?」

「うん!! 私、主人公みたいで楽しい!!」


 そうニコりと幸せそうに言う拓哉。


 そっか……なら、よかった。

 後は、神崎と石川さんにはこの状況で会いたくないな。

 変に誤解されてめんどくさそう──。


「あ、雄也〜!!」

「小倉くん!!」


 ふと、曲がり角を曲がるとそこには二人がいた。


 俺はその衝撃で傘を手から離す──。


 フラグ回収、早すぎだろ!!

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