第41話 相合い傘はファンタジー
「よし、それじゃあ、俺が憧れてることやっていいか?」
……こいつが憧れてること?
あー、大体わかる気がする。
多分、少女漫画を読んで、少女漫画の主人公になりたいと思ったはずだ。
なら、少女漫画といったらあれだろ。
俺はキメ顔で。
「それは、壁ドンか?」
すると、拓哉は渋い顔をして。
「古──ッ!!」
「はぁ? そんなに古いか?」
「それはもうふりーよ」
「なら、なんだよ?」
壁ドンより新しいもの?
そんなの聞いたことねーぞ。
「それはだな、相合い傘だ!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺の身体に衝撃という名の落雷が落ちる。
そっちの方が古い!!
圧倒的に古いだろ!!
しかし、拓哉は何故か勝ち誇った顔をしている。
い、言えねー。
なんでそんなに勝ち誇ってんだよ!!
圧倒的に俺より負けてるだろ!!
そんなに勝ち誇った顔されるとよ……そっちの方が古いとか言えねーよ。
「そ、そうだな。俺が間違ってたわ」
その俺の言葉に、むふふふ、とドヤ顔で笑う拓哉。
「だろ〜。今は相合い傘がブームなんだよ。なんか知らないが大体の少女漫画がこの時期に、相合い傘ネタをやるんだ」
……いや、今は梅雨ですもん。
時期を合わせてるんだよ。
こいつの脳内は一体どうなってんだよ。
「わかったよ」
しょーがねーな。
めちゃくちゃめんどくさいのだが、親友の頼みだしな。
「よし、そうと決まればだ。俺はサキコちゃん役をやる。雄也はユーヤ役をやれ」
「俺だけ、適当なんだが……」
「よし、それじゃやるぞ!!」
む、無視ですか……。
まあ、いい。
とっととやって、家に帰って風呂に入りたい。
すると、拓哉はいきなり語り出す。
「私の名前は大石サキコ、十七歳。どこにでもいる女の子〜。一つ違うとすれば……」
なっ──、そこからやるのかよ。
そのナレーションからかよ!!
正直舐めていた……拓哉の本気を──。
拓哉がここまでするやつだとは思ってもいなかった。
くそ……そんなに本気でやれると、俺までしないとじゃんか!!
俺は拓哉に近づき、髪を払い。
「どうしたんだい、サキコ」
拓哉は俺に抱きついてきて。
「私には大好きな人がいます♡。名前は小倉ユーヤくん。そんな私は毎日がハッピー」
そのセリフを聞いた瞬間、俺は慌てて周りをキョロキョロと見る。
しかし、教室には人の気配がなかった。
よかった……こんなところ、誰かに見られていたら俺たちの学校生活はここで完結。
打ち切りになるところだった。
「ねぇ、小倉くん?」
こいつ、どっからそんな萌え声を出してやがるんだ。
声だけだったら、もう美少女だよ!!
「ははは、なんだい、サキコ」
拓哉はニコりと笑うと、俺の右手を握る。
うわー、さすがにそれはキツいですよ。
た、耐えるんだ……耐えるんだ、俺ええええええええ──ッ!!
これはもしかしたら、あのダブルデートみたいなやつの時よりいいや、全四十話の中で一番辛い出来事なのかもしれない。
俺は作り笑いをして。
「そ、それじゃあ、いこうねー」
「え、怖いんですけど……」
その後は、俺たちは手を繋ぎながら廊下を歩き、手を繋ぎながら、昇降口へやってきた。
道中、人に見られてないか心配だったが、雨が降っているだけありみんな車やら公共交通機関やらで帰ったため、人がいなかった。
いなかったというのは嘘だが、廊下にいる人は皆、会話に夢中になっていたため俺たちのことなんか気づいていなかった。
こういう時だけは、運があるのが気に食わない。
そろそろ、俺にもヒロインが欲しい頃だ。
「ねぇ、小倉くん?」
「なんだい、サキコ?」
「私、今日……傘忘れたみたいなの……傘持ってない?」
そ、そういえば、これは相合い傘のための前振りだったああああああ──ッ!!
そう、少し、少女漫画に集中していたため、今から来る地獄……相合い傘の存在を忘れていた──。
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次回、美少女(イケメン)とイケメン(普通の顔)の二人の相合い傘です。
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