第39話 石川さんの策略

『と、とりあえず、他のヒロインたちより群を抜いて印象付けてやる!!』


 や、やめろー、全部聞こえてるから!!

 その裏話は聞きたくない!!


「あの……小倉くん?」

「……はい」


 すると、石川さんはニコりと笑い。


「お昼はまだですか?」

「え、そうだけど」


 そのために弁当を持ってきたのだ。

 石川さんも持ってきていると思い、一緒に食べるのだと思っていた。


『こ、こんな時は……』


「なら、あたしと食べません?」


 俺は、はぁ、とため息を吐く。

 元々その気だったから、別に断る理由はない。


「石川さん、お弁当は?」

「教室です!!」

「なら、持ってきてくれ……」

「え、あたしの教室で──」

「それだけは嫌だ」


 ムーっと顔を膨らまして石川さんは空き教室を出て行った。


 少し、悪いことをした気もするが石川さんの教室で一緒に食べるとか、怪獣に素手で挑むレベルのことなんだよなぁ。

 

「さて……待つとするか」


 俺は肘を机につけて、顔を固定して空を見る。


 空は曇天だった。

 青い空は黒い雲に隠されていて雰囲気的に辛い。

 まあ、もうすぐ梅雨なのだ。

 当たり前と言えば当たり前だ。


 そのまま、俺はぼんやりと空を見た。


 ああああ、正規のメインヒロインが欲しい!!

 みんな、クセが強いんだよ。

 大体の女子はそんなもんだけどさ!!


 やっぱり、【テレパシー】はどこまで行ってもずっと、不便だ。

 これがなければ何回俺が落ちていたことか……。


 ふと、そんなことを考えていると──。


「お待たせしました」と石川さんはやってきた。

「そうか……」


『お弁当のタコさんウインナーに精力剤を染み込ませてきました……これを食べさせて小倉くんに襲ってもらう///』


 よし、何がなんでも石川さんのタコさんウインナーだけは手を出さないようにしよう。

 

 そして、俺たちは机を動かして向かい合うように座る。


『小倉くん……///』


 おいおい、そんなに見られると食べにくいよ。

 石川さん。


「それじゃ、食べるとしようか」

「はい!!」


 俺たちは手を合わせて「「いただきます!!」」


 少し時間を使ってしまい、昼休みは残り三十分だ。

 少しゆっくりはできないな。


 俺は弁当を開けて、ご飯を食べ始める。


 ご飯は基本的に昨日の残り物と梅干しの乗った日の丸弁当だ。

 

 俺は唐揚げを箸に持ち一口食べる。


 その光景を笑いながら、欲しそうに見ている石川さん。


 こう、人に見られながら食べるのは少しやだなんだが。

 もしかして、欲しいのか?


「石川さんも唐揚げ食べるか?」


 すると、石川さんは笑顔で。


「はい!!」


 どうやら、石川さんは唐揚げが好きらしい。

 性格もそうだが、肉食系だな……。

 

「じゃあ……」


 俺は箸で唐揚げを掴み、石川さんの弁当に移す。

 

 石川さんのご飯は健康的だった。

 三色綺麗に並べられている。


「ありがとうございます!!」


 とても嬉しそうだ。

 今度からはもっと、唐揚げを入れてもらうとしよう。

 

『ふへへへ、小倉くんの唾液付き箸で触った唐揚げ///』


 おい、やめろ!!

 それが狙いなのか!!

 いや、わかっていたよ……普通のことなんて考えてるやつじゃないことぐらい!!

 

 そして、石川さんは唐揚げをパクりと一口で食べる。


 そこまで大きくないが、女子が一口で食べる大きさではなく少し驚きだ。


『ぬぬぬ、唐揚げの味なんていらないのにいいい!! あたしは小倉くんの唾液の味を知りたいだけなのに!!』


 そりゃー、唐揚げ食ってんだから唐揚げの味がするに決まってんだろ。

 つーか、やめろ、俺の唾液の味を知ろうとするな!!


『ち、冷凍食品ですか……』


 おい、それは言うな。


「美味しいですね!! この唐揚げ!!」


 いや、本音言ってくださいよぉ……ね?

 全部聞こえてますから!!


「あ、ありがとう……」

「あ、あたしのお弁当も……」


 まあ、もらったら借りを返すって言うのが当たり前だもんな……ここは貰っておくとしよう。


「なら、貰うとするよ」

「それなら、タコさんウインナー、食べませんか?」

「あ、やっぱ、いいです……」

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