第31話 生徒会長になったらスカートの下に体育着を履くのをやめさせたい5
「それで、私はあまりよく野球部も陸上部のことも知らないのだ。教えてもらえると嬉しい」
睨み合っていた二人は睨むのをやめて、自然と西園寺先輩の方を向いていた。
完全に西園寺先輩に空気を変えられたのだ。
「じゃぁ……まず俺からだけどこいつ……陸部の部長がさ? こっちは甲子園ちけーのにバッティング練習するとクレームを入れに来るんですよ」
「そうか。それで、陸上部の方は?」
「俺っちも大会が近いのに野球部のやつらがバッティング練習をしているせいで、ボールが飛んできて危ないんすよ、せめて時間をずらしてやってほしいですね。万が一、ボールが当たって骨折でもしたらどう責任取るんだよって話っすよね」
なるほど……神崎が言っていた通りということか。
両部共、三年生最後の大会なのだ。
いい結果を残したいに決まっている。
逆によくここまで我慢できていると思う。
俺はふと西園寺先輩の方を向くとニヤリと笑い。
「なら、簡単だ……いい案がある」
そう自信満々に言う。
お……なんなんだ?
ネットを張るのもダメ、グランドを取るのもダメ、他に何か案があるのか!?
別に驚くようなことではない。
なんせ、あの西園寺先輩だぞ?
ベストな案を考えついたのだろう……。
そう思ったのも束の間──。
『うううう、何も言わないのは生徒会長として恥ずかしいし、あんなこと言ったのにいい案がないよぉ〜』
泣きトーンで言う西園寺先輩。
わかってた……わかってたから!!
あんな一瞬で考えつくはずがないことぐらいわかってたから!!
「早く、このうるせー陸部のやつを追い払いたいんだ教えてくれ!!」
「んだと……お前らの方がうるせーし邪魔だわ!!」
うわ〜さっき以上に怒っている気がするのだが……え、ほんとに大丈夫なんですよね?
「うるさいぞ、お前たち。言わせてくれ」
『うううう〜、ど、どうしよぉ〜』
やめろ……何も考えてねーのに『言わせてくれ』なんて言うんじゃねぇ!!
この先輩……めんどくせぇな、ほんと。
つくづくやれやれと思う。
『両部共に満足するような案はないかなぁ〜、ううう、このままじゃ何も答えられなくて恥ずかしいよぉ〜』
自業自得だ。
これに関しては俺にはどうもできない。
せめて、一日ぐらい時間をくれるなら何とかできたかもしれない。
思春期とは大変だ。
周りを気にしてしまう……別にそこまで周りは見ていないのに自分を高く見てしまい、理想の自分で居続けようとしてしまう。
昔、俺にもそんな時期があったのだ。
その気持ちならよくわかる。
でも、俺には何もできないんだ……ごめんよ、西園寺先輩。
「早く教えてくださいよ〜」
「こいつを追い払いてーんですよ!!」
全く……どうするのか……。
他人事のように俺は西園寺先輩を見ていた。
と、心配したその時だった──。
『うううう〜、何も思いつかないよぉ〜誰か助けて』
その心の声は完全に乙女のトーンだった。
もう、クールな西園寺先輩からは想像どころかあり得ないほどの乙女のトーンだった。
おい、それは完全に俺に助けを求めているっつーわけだよな?
当然、西園寺先輩の心の声が聞こえているのは俺だけだし、そもそも、この場で助けられるのは俺だけだ。
くっそ……なんでこう、俺は女に弱いんだよ!!
こんなめんどくさい出来事に首を突っ込みたくなかった──。
しかし、あんなに困られている先輩を見るといてもたってもいられなくなったのだ。
ああああ、めんどくさーな!!
特別だからな!!
よーく考えろ……なんかいい案があるはずだ。
両部共、損がない誰も悪い思いをしないいい方法が。
さっきの言葉の中に……そうだ、それだ!!
「先輩方、西園寺先輩の言いたいことが俺にはわかりました。なので、俺が代わりに言いましょう」
俺のその言葉に西園寺先輩は心の中でつぶやく。
『後輩くん……何かいい案でも……は、恥ずかしいけど……後輩くんは頼りになるなぁ〜大好き』
心の声だから、聞こえないと思ってるでしょ?
残念、聞こえてますよ〜。
どうせ、友達としてだろうけどな!!
それでも、美少女に『大好き』なんて言われたら、助けたくなるだろ男としてよ。
「「ん〜、なんだなんだ?」」
さっき、先輩は『せめて時間をずらしいてほしい』そう言っていたな。
多分、そう口にしいるということはまだ、その案を伝えていないということだ。
それならだ……こうすればいい!!
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