第5話 悪役令嬢?②

 世の中はお節介な人が多いもので。

 対外的にユキと別れたことになった私の元には、お節介にもユキの情報を知らせてくれる人がたくさん出てきたのである。

 ユキが何処何処に行ったとか、椚木さんと何処何処でデートしてたとか、図書室で二人で何を話してたとか。

 あんまり興味がないし、それ以前にユキの動向については、実の所私は、誰よりも詳しい情報源があったりする。

 ユキの実の妹、深雪みゆきちゃんのことである。

 学校帰りの公園で、私は深雪ちゃんと待ち合わせする。

 本来ならば私が深雪ちゃんの家に遊びに行ったりするのだけれども、私とユキが対外的に別れていることを知っている深雪ちゃんは、私が深雪ちゃんの家、つまりユキの家に行くことを否定した。ユキはユキだし、深雪ちゃんは深雪ちゃんである。私とユキの仲がどうであろうと、深雪ちゃんとの仲とは関係がない――というのが私の主張なのだが、深雪ちゃんは真面目に言うのだった。別れたんなら別れたのだと、対外的にも明確に示した方が良いと。つまり、別れたんなら少しは気まずい振りをして、元彼の家に平気で遊びに行くような真似はするなと。私が図々しい女と思われるだけである。折角兄であるユキが気を使って距離を取ってくれた意味が無くなると。

 正論である。

 言葉で言ったわけじゃない。

 というか、深雪ちゃんは喋ることができない。昔、深雪ちゃんの両親が飛行機事故で亡くなって以来、深刻な失語症なのだった。

 かといって、筆記で会話しようとしても、彼女は拒否する。

 どうにも彼女は自分の字がひどく汚いと思っていて、書いた文章を人に見せることに極度の羞恥を覚えるのだった。

 つまり、すっごく恥ずかしがる。

 その様子はとてもとても言葉で言い表せないくらい可愛らしい。

 ともあれそう言ったわけで彼女は会話に於いて一切の言葉を使おうとはしない。

 いや、もちろん深雪ちゃんは耳が聞こえないわけじゃないので、私の方は普通に喋っているのだけれども。

 深雪ちゃんは、身振り手振りで必死になって私にその〝言葉に依らない意思〟を伝えてくるのだった。

 それはそれとしてさておき深雪ちゃんと会うには、深雪ちゃんの家はダメだ。

 ならば私の家で会えば良いんじゃないかというところなのだが、、ご存じの通り私の家は小高い丘の上。あまり体力の無い深雪ちゃんは、坂を登ることをそれはとても真剣にいやがるので、結果として会うのは私の家と高校と、深雪ちゃんの家と中学校の、ほぼ真ん中にある商店街の外れの公園になるのだった。


【ミオさん、こんにちは】


 と言っているような笑みで、深雪ちゃんは挨拶をしてきた。


「うん、深雪ちゃん、こんにちは」


 私は普通に言葉を返す。もちろん笑みを浮かべてなのだが、私の笑みは深雪の笑みほど具体的には物を言わない。だから普通に声に出して挨拶をする。何とも言葉というものは不便で不自由な物であると思う。

 ところで今日は平日であり、深雪ちゃんも私も学校帰りの制服姿だった。深雪ちゃんはシンプルな紺のセーラー服。私は臙脂色のブレザーに黒とベージュと臙脂のチェック柄のスカート。普段、時坂家に遊びに行く時はいつも深雪ちゃん、私服に着替えていたから、何だか制服姿というものには新鮮味があった。けれども深雪ちゃんからして見ればそうでもないようで、何だか恨めしげな目で見られてしまった。


【ミオさんの方が可愛い……】


 制服を見てのセリフである。いや、やっぱりそれは言葉ではなくて、目線でなんとなく、そんな風に言っているように感じられたのだ。

 客観的に見て、中学校の制服よりも高校の制服の方が凝った造りをしていることは間違いないと思う。深雪ちゃんの通う中学校はユキのものと同じで、つまり私の通った学校ではなかったけれども、制服のシンプルさは私の出身中学校でも大差はなかった。営業努力をしなくても生徒が学区ごとに自動的に振り分けられる義務教育と、営業努力をしなければ生徒の来ない非義務教育の違いが現れていると私は思う。


【そんなことぐらい判ってますよー】


 拗ねた感じの表情を、深雪ちゃんは作った。

 どうやら私の内心の声を読み取った結果、そう返してきたようだった。

 まるで心を読んだようだ。凄いなと、軽く戦慄する。彼女は身振り手振りで自らの心の声を発信するだけではなく、他者の【声】を読み取ることすらできるのかと。


【そうでもないですよ?】


 深雪ちゃんはきょとんとする。


【小声で話している程度には感じますけど】


「そうなの?」


 声を出して尋ねた私の問いに、深雪ちゃんはただ普通に頷くだけで応えた。

 その動作に心の声は聞こえなかった。

 単純すぎて、逆に判りづらいのかもしれない。なかなか奥の深い芸当だ。

 移動して駅前の喫茶店へとやってくる。

 わりと昔からある、少し古びた喫茶店だ。

 特に目立つ特色があるわけでもない、常連客で持っているような喫茶店で、しばらく前にユキに連れてこられて以来、私もこうして度々利用している。常連客と言えるほど頻繁ではないので、準常連客といったところだろうか。静かで落ち着いた雰囲気のあるお店で、友達とぺちゃくちゃ姦しく喋るより、こうして二人だけでじっくり会話をすることに向いているようなお店である。


「それで、最近のあなたのお兄さんの様子はどう?」


 深雪ちゃんの兄とは、言うまでもなくユキのことである、とは限らなかったりする。

 もう一人、ユキの上に留学中の兄「吹雪」って人がいるらしいのだが、私は会ったことがないのでよく知らない。

 そのことをよく知っている深雪ちゃんは、だから当然私の問う「兄」というのがユキのことであると理解しているようで。


【よく天気予報見てて出掛けてるよ】


 的な感じに言ってるような雰囲気を醸し出している。


「どこに行ってるの?」

【知らない…………けど、たぶん霧の中】


 霧。

 霧である。

 時期が時期なのか、ここしばらく毎日のように霧が出ている。

 薄い時もあるけれども、霧は夜日が落ちてしばらくすると滲み出すように溢れ出て、朝、陽が昇ってもしばらくは街に残ったままだ。

 だから天気予報を見て出掛けるのに、霧の中へと行くというのは普通のことのように思える。のではあるが。

 さて、表情と身振り手振りの動作や雰囲気で、深雪ちゃんはユキが【霧の中】へ行ったと、伝えてきたように思ったのだが、実はちょっと自信がない。

 どうしたわけか、先ほどの深雪ちゃんは確かに【霧の中】と伝えてきたと思ったのだが、その記憶を思い返すと、なぜだか【夢の中】と伝えてきていたようにも思えるのだった。どういうことなのだろうと、さらによく思い返して見ようと記憶を探ると、その記憶の中で深雪ちゃんは【無の中】と伝えてきている。

 霧であり、夢であり、無である。

 どことなく不穏な感じがする。


「どこへだって?」


 だからもう一度聞き返してみた。

 まるでよく聞こえなかったとでも言うように。

 けれども深雪ちゃんは軽く小首を傾げて微笑む、つまり何かを短く伝えてこようとしているのだが、どうしてかその時の私には何も伝わってこなかった。

 たぶんこれ以上はこの件で情報を得られることはない。

 なんとなくそう感じて、私は小さく嘆息すると話題を変えるべく口を開いた。もちろん、声に出して言葉を発するために。


「ところで、深雪ちゃんは椚木莉乃さんって人のことを知ってるの?」

【もちろん知ってますよ。色々有名な人でしたから】


 あっさりと応えてくれた。

 深雪ちゃんは私やユキの二つ下で、現中学二年生。ユキや、噂の椚木莉乃さんが去年まで通っていた学校に現在も通っている。

 ということは、ユキたちが去年通っていた頃は、深雪ちゃんは一年生だったわけで、少なくとも一年間は同じ学校内に通っていたわけだ。だったらどこかで二人の関係を耳にすることがあったかもしれない。そう思って深雪ちゃんにユキと椚木莉乃さんのことを訊きに来たわけだったけれども。


 ――有名な人とな?


「……大人しい人ってことじゃなかったっけ?」

【大人しいことと、有名であることは別に矛盾しませんよ?】


 矛盾はしないけれども、大人しい人が有名であるというのは、何だか不自然な感じがする。大人しい人というのは目立たないからこそ、大人しいのであって、人の目に付きにくいっていう意味も孕んでいて、有名になりにくいってことじゃないだろうか。

 納得いかず首を捻っていると、深雪ちゃんは深くうなずいた。


【そうですね。ですが、椚木さん自身は大人しく消極的であっても、周りにいる人たちがそうとは限りません】

「それは、目立つ人のグループに入っていたってこと?」


 しかしその問いには深雪ちゃんは首を振って否定した。


【いいえ、そのグループは確かに色々な意味で目立つ集団でした。けれども、椚木さんがそのグループに入っていたかと言えば、少し語弊があります。なぜなら椚木さんは、明らかにそのグループから距離を取ろうとしていましたから】

「……どういう意味?」


 さっぱり意味がわからず、私は首を傾げる。深雪ちゃんは、私が理解できないのも判るとでも言いたげに首を何度も縦に動かした。その動作からは深雪ちゃんの思考は伝わってこない。だから本当に深雪ちゃんが私の思いを理解しているのかは疑問だ。というより、深雪ちゃんは混乱する私を見て、少し楽しんでいる節もある。こういうちょっと性格の捻くれたところなんかは、ユキの妹なんだなと納得する。

 しかし深雪ちゃんは不意に表情から微笑みを消すと、少し迷ったように、まるで言葉を探すように宙を見回す。やがて言葉が見つかったのか、小さく何度も頷くような動作をして、私に目を合わせて、意思を伝えてきた。


【うん、椚木さんはですね、簡単に言えば中学三年生のころ、逆ハーレムを築いていました。当の本人は不本意で、いつもそれから逃げだそうとしていたみたいですけど】

「は?」


 想像もしていなかった言葉が飛び込んで来て、私は口をぽかんと開けて問い返してしまった。


「ぎゃくはーれむって、逆ハー?」

【いわゆる、逆ハーです】


 まじめ腐った表情で、深雪ちゃんはうんうんと頷いていた。


【椚木さんは、中学三年生の時に転校してきて、その後、生徒会長、副会長、書記のトリオに風紀委員長、そして東方武術連合の中学生チャンピオン、あと某『ヤ』の付く自営業者の跡取り息子と、なぜだか仲良くなってしまい、毎日取り巻きのように引き連れていました】


 真顔で意思を伝えてくる深雪ちゃんがもたらした情報は、ますます私を混乱させるのであった。

 てか、何ソレ、乙女ゲーム?

 自然と頭の中に浮かんでくるのはオレ様生徒会長と、相棒の鬼畜眼鏡副会長。ヤクザの息子は不良で悪ぶってるけれども、本当は良いやつで、武術家のチャンピオンは寡黙なのだろう。きっと。そして例外なく、皆イケメンなのだ。あとは双子成分が足りない。書記が実は双子なんてことは、あるのだろうか?


【いいえ、実は書記と風紀委員長が双子で、お調子者と真面目眼鏡……を演じつつ、実は時々入れ替わっているという噂がありました】


 ……本当に深雪ちゃん、私の心を読んでるんじゃないのかな。


【生徒会長はどちらかといえば、線の細い優男風で、副会長の方がオレ様だったかなぁ。チャンピオンはよく喋るよ? ヤの人は、良い人です。もちろん、みんな格好良くて、ファンの子とかいたり?】

「…………定番から少しずらしてきたか」


 どこかでそんなマンガやゲームあったかなと、私は記憶を思い返す。

 当然、この世界は現実なので、そんな原作めいたものが私の記憶の中にあるはずもない。

 しかしそんな個性豊かな人間に囲まれた生活という物を想像してみると、なかなか楽しそうではないかと思うのだった。少なくとも、退屈とはほど遠い毎日だっただろう。美形が周りにいれば、目の保養にもなるし。羨ましいというか、想像だけでもワクワクしてこないだろうか。


「どうして椚木さんは逃げだそうとしてたのかな」

【そりゃあ、ミオさんみたいに綺麗で、受容力のある人だったら楽しめたと思うけど】


 ああそうか。彼女は大人しい人、だったのだ。

 どういう経緯で彼女がそんな煌びやかなイケメンたちと深い交流を持つようになったのかは知らないけれども、大人しい彼女にはたぶんそれは負担だったのだろう。

 彼女は逆ハー状態の中でイベントを進行させないように辛抱強く待って、ゲームが終わる、つまり卒業して逆ハーレムが終了するのをただ待って、そして誰とも深い仲にはならず、終えたのだろう。

 同性の友達と迎えるエンディング。つまりはノーマルエンディングだ。


「そこでどうしてユキへの告白に繋がるのかな?」


 まさか、ユキも逆ハーレムメンバーだったとでも言うんじゃないだろうか。なんか似合わないというか、ありえないというか。いや、ユキも一応、普通にしていればそれなりに、カワイイ系の美少年に見えなくもないのだ。いつも眠たそうにしているから、そんな雰囲気はどこにもないのだけれども。しかし中学の頃は今ほどは眠たそうにしていなかったと言うし、ひょっとしてもう少しイケメンだったのだろうか。うわ、イケメンって単語、すっごく似合わない!


【お兄ちゃんは違いますよ。いつも図書室にいましたし。ああいう静かな場所では、さすがに目立つイケメンたちも静かにしてましたからね。たぶん図書室は椚木さんが唯一、逆ハーメンバーから逃げられる場所だったと思う】


 なるほど。自分が騒がれているという自覚を持ったイケメンだったら、自分の存在ゆえに騒がしてしまうとわかっている図書室に近寄るようなことはしないだろう。

 結果として椚木さんは図書室に通うようになり、そして、ユキと出会ったのだろう。

 そこで二人の間にどんな交流があったのか、わからない。

 けれども安らぎの場で持つ異性との間に、特定の感情を育てて行くのは、たぶん自然なことだし、きっとそれは当然ことだったのだろう。

 結果として椚木さんはユキに惚れた。

 けれども椚木さんには逆ハーメンバーという問題があった。

 彼らを差し置いてユキに惚れてしまったと、それが色々な意味で力のある逆ハーメンバーたちに伝わってしまったらどうなってしまうのだろう。

 椚木さんも当然その事について考えたのだろう。

 だから高校に進学して、つまりゲームが終わり、逆ハーメンバーから解放されて、そして自由になった今、椚木さんはとうとう実行したのだ。

 ユキへ告白を。


「……うーん、椚木さんサイドで考えてみると、告白までの流れって結構自然なんじゃない?」

【自然だと思いますよ。お兄ちゃんは、ゲームで言うところの、隠しキャラってヤツですね】

「――もしくは、本編ではほぼモブだったけれども、ユーザーアンケートで意外に人気が出たために、後付けのファンディスクで主役となった追加キャラ?」

【あーそんな感じですねー】


 深雪ちゃんは楽しそうにうんうんと首を縦に振った。

 ……単純な動作だけど今の動作からは普通に意思が伝わってきたな。

 どうなってるんだろう。


【もしくは、続編かもしれませんねー。ノーマルエンディング後の】


 てことはユキは続編の攻略キャラか。

 とそこまで考えたところでふと嫌な予感に駆られた。

 ファンディスクとかだったら短めの話だろうからたぶん大丈夫だけれども、これが続編だったりしたら、どうなんだろう。

 ユキの元カノということになっているこの私。

 ユキはいずれ椚木さんと別れて、私の所へ戻ってくるなんて考えているこの私。

 私の想いは決して恋心なんかじゃないけれども、椚木さんサイドから見れば、明らかに彼女の恋路の邪魔となるライバルキャラというやつなんじゃないだろうか。

 うむむ。

 これはあれか?

 いわゆる流行の、悪役令嬢ってやつなんだろうか。

 いえ別に邪魔するつもりはないのだけれども、椚木さん側から見れば私の余裕ある対応ってば、きっと腹立たしいものなんだろうな。


【……令嬢?】


 ……なんかよくわからないのだけれども、別に深雪ちゃんの方を見ていたわけでもないのに、そんな疑問符付きの意思が伝わってきたような気がした。

 うん、別に私は上流階級の出身というわけでもないし。亡くなった祖父は町の名士と呼ばれる人たちに色々と顔が利いたようだけれども、父は普通の人だし。別に私も礼儀作法とか習っていたわけでもない。古武術が礼儀作法に当たるのかどうかは、結構重要な疑問なのかもしれないけれども。


【失礼しました。悪役令嬢は言い過ぎでした】


 っていうか、私は『悪役令嬢』なんて言葉は口に出して言ってない!

 やはり心を読んでるのかっ、とくわっと深雪ちゃんの方を見るが、深雪ちゃんはにこにこと笑顔のまま首を傾げていた。その表情からは何の意思も読み取れなかったので、明らかに作り笑顔なのだろう。じと目で睨むが、深雪ちゃんはきょとんと首を傾げたままだ。その笑顔を見ていると、深雪ちゃんから声に依らない意思が伝わってくる、なんて思うのは私の妄想で、ただ深雪ちゃんはずっと曖昧に笑い話を合わせてくれているだけなんじゃないかと思えてくる。

 そもそも、深雪ちゃんが意思を伝えることができる人は、それほど多くない。

 ユキには伝わるらしいけれども、長らく離れて暮らしているという、時坂家の長兄には通じないというし、学校のクラスメイトでも通じる人と通じない人がいるらしい。

 クラス担任には通じないけれども、学年主任の先生には通じたり、校長先生にも通じるけれども、教頭先生には通じなかったりもするとか。

 その事が原因で、深雪ちゃんの中学では色々あるらしいのだけれども、それは私の関与すべき問題ではなく、別の物語なのだろう。


「精々、ライバルキャラにしておいてね」


 私は私の問題に取り組もう――と思ったのだが、よく考えたらこのことも私の問題ではなくユキの問題である。

 立ち位置的に、色々と関与しそうな設定が引っ付いているのだけれども、真相の真相と呼ばれる部分で、その設定には重大なエラーがある。

 私はユキと椚木さんの仲を、特に妨害をしようとはしていない。良い意味でも、悪い意味でも。そして私は、彼ら二人の仲が、最終的に成就しないことを確信している。

 ユキが心変わりして、椚木さんに惚れてしまうことは、ありえないと私は思っている。

 そのありえないと私が断言できる、その原因を、はたして『問題』とするべきだろうか?

 それが『問題』であるのならば解消するべき手段が存在し、それが成されたのならばユキが椚木さんに惚れるという未来も存在し得るだろう。そうなれば、それはそれで私は素直に祝福しようと思う。何よりそれが親友の幸福になるのならば、歓迎しない理由はどこにもない。

 けれども私はそれは『問題』であるとは思っていないし、ユキ自身が解消するべきことではないと考えている事を知っている。

 私はそれに立ち入ることはできない。

 親友として非常に心苦しい事態ではあるのだけれども、ただ傍に居て見守るだけしかできないのだ。

 今はその「傍に居る」ことも制限されているわけだけれども、しかしこうして情報を集め、気持ちの上だけでも近くに寄り添おうとすることは可能だろうと思う。

 たぶん深雪ちゃんから私の意志はユキに伝わるだろう。

 あなたのことは知っている。それを解消する意志があなたにないことも。私が何の役に立てないことも。それでも傍に居るよ。

 それが私の、生涯の親友の誓い。


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