ろく

 その日の夜。

「そろそろ寝る……か」

「さぁさぁおいでませ」

 そこ僕のベッドなんだけどなぁ。

 窮屈なシングルベッドに、枕二つ。

 ミナトが落ちたら困るのでミナトを壁側に寝かせる。

「……本当にこれでいいのか?」

「意気地なしかー?」

 ……はぁ、考える方がバカなのかも知れない。

 横になっているミナトの隣にとりあえず座る。

「寝ろ」

「うぉっ」

 ミナトに強引に横にされる。

 ベッドの中でミナトと顔を合わせる。

 ……捨てきれない物は捨てきれない、意識してしまう、好きな女性ひととして。

 顔を見られないように背を向ける。

「なんで背中向けるの?」

「恥ずかしいからです」

 人の心も知らないでこいつは。

「ははーん、恋をしてるな?」

「やっぱりぶん殴ってやる」

 振り返ってミナトの顔を見る。

 暗くてあまり良くわからないが、少しだけ赤い顔をしていた。気がする。

 ……良いか、また向きを変えよう。

 訪れる静寂。

 また十分くらいでミナトは寝るんだろうな。

「ねぇ」

「起きてたか」

 まだ起きてます、と背中を叩かれる。

「寂しくない?」

「……ミナトが居るから寂しくはないよ」

 そっか、とだけ聞こえる。

 寂しくないのは事実だ。

 だけど、今まで好きだった人が隣りにいて。でも彼女自身は恋愛をする気がなくて。

 その空回りが、寂しいと思うことはある。

「なんか寂しそうな顔してた気がしたから。お節介だったね」

「ミナトが世話焼きなのは昔からだろ」

 そうだね、と呟くミナト。

「ミナトは、寂しくない?」

「……寂しい、かな」

 何が寂しいのか僕にはわからない。

 でも。その寂しさを少しでも僕が埋めることが出来るのであれば。

 自己満足それでいい、少しでも役に立ちたいと。

 そう思っている自分に対して自己嫌悪しながら。

「……すぅ」

 ミナトの寝息が聞こえてきた。

 やっぱり入眠は本当に早いな。

「……寂しくはないけどさ」

 そう、寂しくはないんだけど。

「切なさは感じる、かな」

 聞き手の居ない、独り言を零す。

 手が届くのに、手が届かない距離に居る想い人を背に。

 あぁ、今日寝付けるかなぁ。



 意識が覚醒していくのがわかる。

 朝か、起きなきゃな。

「……身体が動かない」

 動かない、ではなく。

 動けないのだ。

「ミナト?」

 まだミナトは寝ている。

「どうしたもんか」

 ミナトに抱き枕にされてるこの現状。

 起きたくても起きれない。

 だけど水も飲みたいしトイレにも行きたいので。

 なんとか振り解いてベッドから出る。

 ミナトはまだ寝ているようだ。

「人の気も知らずに……よく寝る子だ」

 トイレに行って、冷蔵庫から水を取り出して飲んで。

 部屋に戻るとミナトは起きていた。

「なぜ逃げたのですか」

「いや、逃げてないけど」

 先程まで包み込んであげていたというのに、とミナトが零す。

「いや、純粋に寝ぼけて人を抱き枕にしてただけでしょ」

「そうとも言う」

 はぁ、自由気ままだ。



 その日から、ある程度ミナトとの生活は規則正しいものになっていった。

 朝に起きて僕が朝食を作り、その後のんびりゲームをしたりテレビやアニメを見たり。

 お昼はミナトが作ってくれる。その日の気まぐれメニューだ。

 お昼を食べたら少し横になりながら話をしながらまたゲームだとか。

 夕飯は僕が作るかたまに外食。

 そして深夜までずっとゲームしたり話をしたり。

 規則正しくないものと言えば、この間に何回かミナトが寝落ちするタイミングくらい。

 そんな環境が一週間くらい続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る