第6話 魔女とマリアーヌの出会い
マリアーヌはずっと老魔女にどのように依頼するのかを考えていた。この依頼はぶっちゃけると「こっそり火遊びがしたい」というものだ。老魔女は気にしないかもしれないが、何となくそれらしい理由がほしかった。
そこで考えついたのが
『強引な政略結婚が決まってしまいました。これからの牢獄のような人生を始める前に、どうしても好きな人との思い出が欲しいのです。しかし、この思いを相手に伝えれば迷惑がかかるのは分かっているんです。だから、、、こっそりと思い出を作れるようなお薬はないでしょうか、、、思い出さえあれば、何があっても耐えらます』
おおまかには嘘はついていない。切々と訴えかけるように、まるで舞台のヒロインのように口にしていると、だんだんとノリノリになってきて、なんなら涙だって出てきた。
黒いローブを身にまとい、フードを深く下げている老魔女の表情はよく分からなかった。マリアーヌを迎い入れた時と同じように、淡々と依頼内容を聞いていた。
そのうち、肩を震わせて両手で顔を抑え始めた。
もしかして、あまりにもしょうもない内容で怒っているのかしら、とマリアーヌは不安になったが、いきなり
「素敵!」
と、魔女がいい出したのでびっくりした。
「わ、分かります。愛しい人との淡い思い出。ああ、いいですね。ぜひぜひ協力させてください」
魔女は泣いていたのだ。
あんなマリアーヌの作り話を信じて、泣いてくれているのだ。マリアーヌはチョッピリ心が傷んだが、作ってくれるらしいので安心した。
しかし、、、この魔女、実は若いのでは?と疑問を持った。喋り方もそうだが、何百年も生きていると噂されている老魔女が、こんな作り話で、ここまで感情を顕にするものだろうか?
「黒の森の魔女さま、引き受けてくださりありがとうございます。今まで誰にも打ち明けたことがなくて、、、お話できて嬉しく思います。それで、あなた、実はお若いのでは?」
マリアーヌのモットーの一つが、『分からないことはすぐに聞く』。
興味のあるものにとことん知りたくなる性格なので、単刀直入に聞いてみた。
「はい、、、そうですね、私は19歳です」
魔女は正直に答えた。
「えええッ?私より若いのですか!年齢を言っても大丈夫でした?わたし、すぐに質問してしまう癖があるので、家族に『外でしゃべるな』なんて言われていましてね、悪く思わないでくださいませ、ところで、、、、」
マリアーヌは魔女を質問責めにした。魔女になったきっかけ、家族構成、仕事の内容、暮らしぶり、などなど、、、魔女はおずおずとそして真剣に質問に答えてくれる。
「あの、、、本当に無理なのかもしれませんが。お顔を見せていただきたいのですが、、、可能ですか?もちろん、私もベールを取ります」
魔女のことをもっと知りたくなったマリアーヌは、1番気になっていたことを聞いてみた。流石に無理か。
「はあ、お見せできるようなものではございませんが、、、」
と言って、魔女はゆっくりとフードを下ろした。よかった。特に秘密ではないらしい。
マリアーヌは、だんだんとはっきりと見えてくる魔女の顔を見て、、、
「あら、あらあらあら、、、」
とだけ発言した。
あらあら、、、なんて可愛いの。くりっとした目は知性を感じる灰色であるが、口角の上がった柔らかそうな唇と、ふわふわのピンクの髪の毛が、全体の印象を柔らかく彩っている。老女と思われるだけあって華奢で小さい体つきだが、顔を晒した今は、まるで妖精のように可憐な印象となった。
こりゃあ、顔を晒していると危険よね、老魔女で通す方が安全だわ。
マリアーヌに『あらあら』なんて言われて、なんだか不安そうにこちらを見ているが、警戒しているうさぎのようで本当に可愛い。マリアーヌは気を取り直して、自分のベールもバサッともぎ取った。
「クラリーヌさま!」
と魔女が叫んだ。は?何だって?
「いえいえ、失礼しました。あまりにお美しかったので、つい、、、」
「『紅の騎士は白き乙女に刻印を』のクラリーヌ?もしかして」
「ご存知なのですか!私の女優の最推し、クラリーヌさまです。あまりにもそっくりで、、、」
「舞台を観るのね!!わたくしも大好き!」
「『ときめきは嵐の中で』はご覧になられましたか?」
「まだなのよ!今月中に行ければいいなと思っていて!!あなた男優は誰推し?」
「ル、ルシファーさまです!」
ああ、自分のバカバカしい作り話に共感してくれたのも、何となく分かった。頭がそういう設定を受け入れやすくなっているんだわ、舞台を観すぎて。と、話を作った本人は思った。なんて素直なのかしら。しかし、男優の推しはかぶらなかったわ、コテコテが好きなのね、、、
自分たちの共通の趣味も判明し、話はさらに盛り上がる。マリアーヌはどんどんカンナに興味を持ったが、同時に心配にもなった。こんなところで1人で暮らしているなんて、、、
その時、ドンドン!と扉を遠慮なく叩く音がする。はあ、レナルドか。楽しい時間はあっという間に過ぎていくわね。
「カンナさん、お名前を教えていただいたのですから、わたくしたちはもうお友達よね」
「は、はい!ありがとうございます」
「魔女は秘密厳守なのは知っているけど、私はまだ名前をあかせないの。でも。いつか話せるときがくるわ。では、また7日後にお会いしましょう」
「はい、ご希望のものを作り上げておきます」
「よろしくね」
そう言ってマリアーヌは魔女の家をあとにした。初めての「友達」に浮かれまくっている可愛い魔女を残して。
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