カナちゃんのコタツ

神楽むすび

第1話

 カナちゃんは、コタツが大好き。

 冬になると、コタツといつも一緒。コタツ布団を大事そうに抱きしめたり、肩までくるまったり。疲れた時は、コタツに潜ってひと休み。

 そんなカナちゃんとコタツのものがたり。


 気が付くと、カナちゃんといつも一緒にいる。

 外から帰ってくると、元気に「ただいま!」と言って潜り込んでくるカナちゃんが大好き。

 布団にくるまってくる時の笑顔が好きで、いつも温めてあげる。言葉はしゃべれないけど、ぽかぽか温めて気持ちを伝えている。カナちゃんは、時々僕の中で横になって居眠り。そんな時は、火傷しないように、熱すぎないように、大事に温めている。


 少し不満なのは、カナちゃんのお母さんが時々、「コタツで寝ると風邪ひくよ」ってカナちゃんを叱ること。僕はいつもカナちゃんを温めているから、「風邪なんかひかないのに」って思ってる。何か納得いかない。

 でも、お母さんも僕をきれいに掃除してくれるし、布団も干してくれたりと大事にしてくれるから、きっとカナちゃんのことを考えてのことなんだと思う。


 そんなある日、カナちゃんが辛そうに帰ってきた。

 カナちゃんは「寒い」と震えながら、僕の中に潜り込む。すごい熱。カナちゃんは風邪をひいちゃったみたいだ。僕は、カナちゃんが寒くないように、必死に温める。いっぱい温めて、温めたけど、カナちゃんはコタツ布団にくるまって震え続け、そうしているうちにカナちゃんは僕の中で寝ちゃった。


 カナちゃんに元気になって欲しい。そんな思いで必死に頑張ったけど、カナちゃんの熱はちっとも下がらない。なんでだろ。僕がこんなに頑張っているのに。

 そこで思い出した。「コタツで寝ると風邪ひくよ」お母さんの言葉だ。

 僕の中で寝ると風邪ひいちゃう。あの時は意味がわからなかったけど、苦しんでるカナちゃんを見て気づいてしまった。僕の中は温かくできるけど、布団のところはこれ以上温かくできない。足だけじゃダメなんだ。体全体を温めないと。僕の力じゃダメなんだ。カナちゃんには、ちゃんと自分の布団で休んでもらわなきゃ。


 僕は必死にカナちゃんに語り掛ける。

 カナちゃん。ここで寝ちゃだめだよ!ちゃんと布団で寝なきゃ!起きて!

 カナちゃんの震える姿が苦しくて、何度も必死に呼びかける。カナちゃんは震えながら眠るだけで、僕の声は届かない。声が届かないってこんなに苦しいことだったんだ。お願い。一度でいいから僕の声がカナちゃんに届いてほしい―――。


 その願いが通じたのかわからない。

 カナちゃんはうっすら目を開けて、「うん」と小さく答える。僕の中に入ってた小さな体を抜け出し、自分の布団までふらふらと歩いていく。そうして温かい布団にくるまって、すやすやと寝息を立て始めた。



 あれから十年。カナちゃんも元気な女子高生になった。

 「ただいま!」

 カナちゃんは、相変わらず冬になると僕の中に潜り込んでくる。

 「カナ、まだそのコタツ使ってるの」

 お母さんがカナちゃんの部屋に入ってきて、僕の中でくつろぐカナちゃんに声をかける。

 「うん。なんだか落ち着くの」

 家族みんなが入っていた僕も、カナちゃんが大きくなってからは、カナちゃんの部屋にぽつんと置かれるだけになっている。家族みんなのコタツは、僕よりもきれいで大きなコタツ。カナちゃんは、古くなって押入れにしまったままの僕を、冬になる度に引っ張り出してきてくれる。


 「カナ、ちゃんと布団で寝るのよ」

 お母さんが僕の中で横になるカナちゃんに呆れたように声をかける。

 「大丈夫だから!」

 僕は知ってる。カナちゃんは、十年前のあの日から、コタツで横なってもちゃんと布団で寝るようになっている。

 あの日、僕の声が届いたのかはわからない。カナちゃんと一緒にいられる時間は少なくなって、もう僕が声をかけることもない。カナちゃんは成長して、ちゃんと自分でできるようになっているし、僕の声を届ける必要もなくなった。

 捨てられるその日まで、カナちゃんを温かく見守ることができればそれでいい。


 「カナ、早く寝るのよ」

 「うん。おやすみ」

 カナちゃんがお母さんにおやすみを言って、お母さんも「おやすみ」を返す。僕も心の中でカナちゃんにおやすみ。


 カナちゃんは、布団に入る前、誰に言うともなく、つぶやいた。


 「おやすみ」

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カナちゃんのコタツ 神楽むすび @kagura_musubi

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